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EP 3
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はじめてのおつかい vs ブラックカード
「いいですか、二人とも。絶対に家から出ないでくださいね。絶対にですよ!」
翌朝。春太は玄関先で、まるで幼稚園児に言い聞かせるように念を押した。
寝不足で目の下のクマはさらに濃くなっている。
「はい、ハルタ様! いってらっしゃいませ!」
「……チッ。早く行け、社畜」
満面の笑みのルナと、舌打ちする植物に見送られ、春太は重い足取りで出勤していった。
ドアが閉まると、ルナは拳を握りしめて立ち上がった。
「ネギオ。ハルタ様、とてもお疲れのようだったわ」
「そうですね。生命力が枯渇したミミズのようでした」
「私、決めたわ。今夜はハルタ様のために、とびきり美味しい夕食を作ってあげるの!」
ルナの瞳がキラキラと燃えている。
ネギオは一瞬、主の壊滅的な料理スキル(※かつて王城の厨房を爆破した)を思い出して表情を曇らせたが、すぐに考え直した。
(ふむ。こちらの世界の食材を使えば、あるいは……。それに、あの虫(ハルタ)に恩を売っておくのも悪くない)
「承知しました。では、市場へ『狩り』に行きましょう」
「ええ! でもネギオ、私たちお金を持っていないわ」
ルナの心配に、ネギオはニヤリと口角を上げた。
懐から取り出したのは、一枚のプラスチックカード。
昨夜、春太が寝ている隙に財布から抜き取っておいた『楽天カード(一般)』である。
「ご安心を。ハルタ様の財布という『賽銭箱』から、この魔法のカードを借りてきました。これを見せるだけで、現地の人間はひれ伏し、貢物を差し出すようです」
「まあ! ハルタ様ったら、そんな凄いアイテムを持っていたのね!」
二人が向かったのは、近所の激安スーパー……ではなく、駅前の高級デパートの食品売り場だった。
ネギオの「姫様の口に入れる物に、妥協は許されん」という判断である。
「すごーい! 見てネギオ、お肉が宝石みたい!」
精肉コーナーで、ルナが歓声を上げる。
桐箱に入った牛肉。美しいサシが入った霜降り肉。
『松阪牛 A5ランク 特選サーロイン 100g 5,000円』。
「ほう……。こちらの世界にも、それなりに食えそうな肉があるようですね」
「これで『すき焼き』というご馳走を作りましょう! あと、この網目のついた果物(メロン)も美味しそう!」
「カゴに入れましょう。あと、あちらの『大トロ』という魚の切り身も」
ネギオは躊躇(ためら)いなく、最高級食材を次々とカゴへ放り込んでいく。
値段など見ない。なぜなら、自分の金ではないからだ。
レジにて。
お会計、計8万5千円。
「お、お支払いは……?」
「これで」
ネギオがカードを差し出すと、店員は一瞬ぎょっとしたが(執事姿の植物人間だから)、カードの名義を見て、震える手で決済を通した。
「(……暗証番号? フン、昨夜のうちにあの虫のスマホを解析して特定済みだ)」
ピッ。
決済完了音が、春太の破産へのファンファーレのように鳴り響いた。
夜7時。
春太がフラフラになって帰宅すると、アパートのドアの隙間から、信じられないほど良い匂いが漂ってきた。
醤油と砂糖が焦げる、甘辛い香り。そして、上質な脂の匂い。
「ただいま……って、なんだこの匂い?」
「おかえりなさいませ、ハルタ様!」
エプロン姿のルナが出迎えた。
その背後のちゃぶ台には、山盛りの霜降り肉と、高級メロンが鎮座している。
「こ、これは……?」
「『すき焼き』ですわ! ハルタ様に元気になってもらおうと思って!」
グツグツと煮える鍋。黄金色に輝く牛肉。
春太の喉がゴクリと鳴る。公務員の安月給では、盆と正月がいっぺんに来ても食えないレベルのご馳走だ。
「い、いただいていいの……?」
「もちろんです! さあ、あーんして差し上げます!」
ルナが肉を卵に絡め、春太の口に運ぶ。
口に入れた瞬間、肉が溶けた。
「んんんん~っ!! うまぁぁぁぁい!!」
春太の目から涙が溢れ出した。
うまい。うますぎる。昨日の廊下睡眠の疲れが吹き飛ぶようだ。
「ありがとうルナちゃん! 俺、こんな美味い肉初めて食ったよ……! でも、これどうしたの? すごく高かっただろ?」
ハフハフと肉を頬張りながら、春太は無邪気に尋ねた。
ルナはニコニコと笑い、ネギオを振り返る。
「ネギオが魔法のアイテムを使って手に入れてくれたんです!」
「へえ、さすがネギオさん! 異世界の錬金術ってやつですか?」
「似たようなものです」
ネギオは涼しい顔で、懐から例のカードを取り出し、テーブルに置いた。
「この『楽天カード』という魔道具を使いました」
一瞬の静寂。
春太の箸から、最高級松阪牛がポロリと落ちた。
「……え?」
「暗証番号は『0525』ですね。誕生日に設定するとは、セキュリティ意識が低すぎますよ」
春太は震える手でスマホを取り出し、カードの利用明細メールを確認した。
【速報版】利用額:85,420円 利用店:〇〇百貨店
「ぎゃあああああああああああ!!!」
アパート中に、本日一番の絶叫がこだました。
「は、八万!? 一食で八万!? 俺の手取りの何割だと思ってるんだアアアア!!」
「うるさいですね。感謝して食べてはどうですか? 貴様の労働の対価が、姫様の血肉となるのです。光栄でしょう」
「光栄で家賃が払えるかバカヤロー!!」
泣き叫ぶ春太の口に、ルナが強引にメロン(一玉一万円)を突っ込む。
「ハルタ様、デザートもありますよ! 美味しいですか?」
「んぐっ……う、うまい……! 畜生、うまいよぉぉぉ……!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、春太は高級肉を噛み締めた。
その味は、絶望と幸福が入り混じった、忘れられない大人の味がした。
「いいですか、二人とも。絶対に家から出ないでくださいね。絶対にですよ!」
翌朝。春太は玄関先で、まるで幼稚園児に言い聞かせるように念を押した。
寝不足で目の下のクマはさらに濃くなっている。
「はい、ハルタ様! いってらっしゃいませ!」
「……チッ。早く行け、社畜」
満面の笑みのルナと、舌打ちする植物に見送られ、春太は重い足取りで出勤していった。
ドアが閉まると、ルナは拳を握りしめて立ち上がった。
「ネギオ。ハルタ様、とてもお疲れのようだったわ」
「そうですね。生命力が枯渇したミミズのようでした」
「私、決めたわ。今夜はハルタ様のために、とびきり美味しい夕食を作ってあげるの!」
ルナの瞳がキラキラと燃えている。
ネギオは一瞬、主の壊滅的な料理スキル(※かつて王城の厨房を爆破した)を思い出して表情を曇らせたが、すぐに考え直した。
(ふむ。こちらの世界の食材を使えば、あるいは……。それに、あの虫(ハルタ)に恩を売っておくのも悪くない)
「承知しました。では、市場へ『狩り』に行きましょう」
「ええ! でもネギオ、私たちお金を持っていないわ」
ルナの心配に、ネギオはニヤリと口角を上げた。
懐から取り出したのは、一枚のプラスチックカード。
昨夜、春太が寝ている隙に財布から抜き取っておいた『楽天カード(一般)』である。
「ご安心を。ハルタ様の財布という『賽銭箱』から、この魔法のカードを借りてきました。これを見せるだけで、現地の人間はひれ伏し、貢物を差し出すようです」
「まあ! ハルタ様ったら、そんな凄いアイテムを持っていたのね!」
二人が向かったのは、近所の激安スーパー……ではなく、駅前の高級デパートの食品売り場だった。
ネギオの「姫様の口に入れる物に、妥協は許されん」という判断である。
「すごーい! 見てネギオ、お肉が宝石みたい!」
精肉コーナーで、ルナが歓声を上げる。
桐箱に入った牛肉。美しいサシが入った霜降り肉。
『松阪牛 A5ランク 特選サーロイン 100g 5,000円』。
「ほう……。こちらの世界にも、それなりに食えそうな肉があるようですね」
「これで『すき焼き』というご馳走を作りましょう! あと、この網目のついた果物(メロン)も美味しそう!」
「カゴに入れましょう。あと、あちらの『大トロ』という魚の切り身も」
ネギオは躊躇(ためら)いなく、最高級食材を次々とカゴへ放り込んでいく。
値段など見ない。なぜなら、自分の金ではないからだ。
レジにて。
お会計、計8万5千円。
「お、お支払いは……?」
「これで」
ネギオがカードを差し出すと、店員は一瞬ぎょっとしたが(執事姿の植物人間だから)、カードの名義を見て、震える手で決済を通した。
「(……暗証番号? フン、昨夜のうちにあの虫のスマホを解析して特定済みだ)」
ピッ。
決済完了音が、春太の破産へのファンファーレのように鳴り響いた。
夜7時。
春太がフラフラになって帰宅すると、アパートのドアの隙間から、信じられないほど良い匂いが漂ってきた。
醤油と砂糖が焦げる、甘辛い香り。そして、上質な脂の匂い。
「ただいま……って、なんだこの匂い?」
「おかえりなさいませ、ハルタ様!」
エプロン姿のルナが出迎えた。
その背後のちゃぶ台には、山盛りの霜降り肉と、高級メロンが鎮座している。
「こ、これは……?」
「『すき焼き』ですわ! ハルタ様に元気になってもらおうと思って!」
グツグツと煮える鍋。黄金色に輝く牛肉。
春太の喉がゴクリと鳴る。公務員の安月給では、盆と正月がいっぺんに来ても食えないレベルのご馳走だ。
「い、いただいていいの……?」
「もちろんです! さあ、あーんして差し上げます!」
ルナが肉を卵に絡め、春太の口に運ぶ。
口に入れた瞬間、肉が溶けた。
「んんんん~っ!! うまぁぁぁぁい!!」
春太の目から涙が溢れ出した。
うまい。うますぎる。昨日の廊下睡眠の疲れが吹き飛ぶようだ。
「ありがとうルナちゃん! 俺、こんな美味い肉初めて食ったよ……! でも、これどうしたの? すごく高かっただろ?」
ハフハフと肉を頬張りながら、春太は無邪気に尋ねた。
ルナはニコニコと笑い、ネギオを振り返る。
「ネギオが魔法のアイテムを使って手に入れてくれたんです!」
「へえ、さすがネギオさん! 異世界の錬金術ってやつですか?」
「似たようなものです」
ネギオは涼しい顔で、懐から例のカードを取り出し、テーブルに置いた。
「この『楽天カード』という魔道具を使いました」
一瞬の静寂。
春太の箸から、最高級松阪牛がポロリと落ちた。
「……え?」
「暗証番号は『0525』ですね。誕生日に設定するとは、セキュリティ意識が低すぎますよ」
春太は震える手でスマホを取り出し、カードの利用明細メールを確認した。
【速報版】利用額:85,420円 利用店:〇〇百貨店
「ぎゃあああああああああああ!!!」
アパート中に、本日一番の絶叫がこだました。
「は、八万!? 一食で八万!? 俺の手取りの何割だと思ってるんだアアアア!!」
「うるさいですね。感謝して食べてはどうですか? 貴様の労働の対価が、姫様の血肉となるのです。光栄でしょう」
「光栄で家賃が払えるかバカヤロー!!」
泣き叫ぶ春太の口に、ルナが強引にメロン(一玉一万円)を突っ込む。
「ハルタ様、デザートもありますよ! 美味しいですか?」
「んぐっ……う、うまい……! 畜生、うまいよぉぉぉ……!!」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりながら、春太は高級肉を噛み締めた。
その味は、絶望と幸福が入り混じった、忘れられない大人の味がした。
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