方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

文字の大きさ
6 / 30

EP 6

しおりを挟む
深夜の暴走と、伝説の総長
 深夜2時。
 春太がPCローンの悪夢にうなされながら眠っている頃。
「小腹が空きましたわ……」
 ふと目を覚ましたルナは、リビングでむくりと起き上がった。
 配信で稼いだスパチャはすべてネギオ管理の口座(※春太名義で勝手に開設)に入っているが、手元には春太が「非常用」と渡してくれた千円札が一枚ある。
「そうだわ、『こんびに』に行きましょう。あそこなら『ぷりん』という宝石が売っていると聞きました」
 ルナは千円札を握りしめ、静かに玄関を出た。
 春太の家から最寄りのコンビニまでは、徒歩5分。一本道だ。
 しかし、彼女はルナ・シンフォニア。
「ええと、北はあっちね」
 彼女は迷いなく、コンビニとは真逆の方向へ、しかもなぜか高速道路の入り口(徒歩禁止)に向かって歩き出した。
 その足取りは、時空さえも歪める。
 気がつけば彼女は、世田谷区から数十キロ離れた、神奈川県のとある峠道に立っていた。
 ブォン! ブォォォォン!!
 パラリラパラリラ~♪
 静寂な山道に、爆音とミュージックホーンが響き渡る。
 北関東最大の暴走族『夜露死苦(ヨロシク)連合』。
 総勢50台の改造バイクが、集会を行っている最中だった。
「ああん? なんだあの姉ちゃん」
 ヘッドライトの光の中に、ポツンと立つ金髪の美女。
 総長の『ウルフ健(ケン)』が、族車(改造バイク)を停めて凄んだ。
「おいコラ! こんなトコで何してんだ? 俺達の集会にカチコミかぁ?」
「こんばんは。……あの、ここは『せぶんいれぶん』でしょうか?」
 ルナは首をかしげた。
 特攻服を着た男たちを見て、彼女は目を輝かせる。
「まあ! その刺繍が入った長い外套……あなた達、この国の騎士団の方ですね! 夜警ご苦労様です!」
「あ? 騎士団? ……なんだコイツ、電波か?」
 ザッ、と手下たちがバイクから降りて囲む。
 男たちの視線が、ルナの美しい肢体を舐め回すように動いた。
「へへ、よく見りゃ上玉じゃねえか。なあ、俺の後ろ(シート)に乗らないか? 『天国』まで連れてってやるよ」
 ウルフ健がニヤリと笑い、ルナの腕を掴もうとした。
 その時。
 ドゴォォォォォン!!
 アスファルトを突き破り、巨大な影が降ってきた。
「――私の主の肌に、その汚い油汚れの手で触れるな。排気ガス臭い猿どもめ」
 粉塵の中から現れたのは、ネギオだった。
 ただし、普段の執事姿ではない。
 【機動形態:ナイト(騎士)】
 下半身が、巨大な二輪のバイク――いや、植物の根と蔦が複雑に絡み合い、タイヤを形成した『生体バイク』となっていた。
 エンジン音の代わりに、地響きのような唸り声を上げている。
「な、なんだコリャアアア!?」
「バ、バイク人間!?」
「ネギオ! 迎えに来てくれたのね!」
 ネギオはルナを優雅に抱え上げ、自身の背中(シート部分)に乗せた。
「姫様、コンビニに行くと言って、なぜ県境を越えるのですか。……まあいい。ついでにゴミ掃除と行きましょう」
 ネギオは冷徹な緑色の瞳で、暴走族たちを見下した。
「おい、猿。貴様らが誇るその鉄屑(バイク)で、私より『速い』と言うなら見逃してやる。……かかってこい」
「あ、ああん!? ナメんじゃねえぞオラァ! 俺のマシンは直管マフラーの怪物だ!!」
 ウルフ健がブチ切れ、アクセルを全開にした。
 深夜の峠バトル、勃発。
 「行くぞオラァァァ!!」
 族車がロケットスタートを切る。
 しかし。
「遅い。カタツムリの方がマシだ」
 ネギオのタイヤから、無数の蔦がスパイクのように飛び出した。
 ズダダダダダッ!!
 ガードレールを蹴り、垂直な崖を走り、物理法則を無視したショートカット。
「は!? 崖を走って……!?」
「終わりだ」
 ネギオは一瞬でウルフ健の横に並ぶと、右腕をランス(槍)に変形させた。
「『除草(クラッシュ)』」
 ガシャアアアアン!!
 ただの一撃。
 ウルフ健の自慢のバイクは、前輪を粉砕され、火花を散らして回転しながら吹き飛んだ。
 (※健本人は、ネギオの慈悲で襟首を掴まれ、無傷で地面に転がされた)
「ひ、ひいい……! ば、バケモンだ……!」
 地面に尻餅をついた総長と、凍りつく手下たち。
 月光を背に、ネギオ(バイク形態)に跨るルナは、慈愛に満ちた笑顔で言った。
「皆さん、怪我はありませんか? 元気があってよろしいですけど、夜更かしはお肌に毒ですよ?」
 その圧倒的な強者(ネギオ)を従え、あくまで余裕の微笑みを崩さないルナ。
 不良たちの目には、彼女が『魔王』にも『女神』にも見えた。
「あ……あねご……」
「へ?」
「俺達の負けだ……! いや、あんたこそが真の『走り屋』だ!!」
 ウルフ健は震える手で、自分の着ていた『総長』の文字が入った特攻服を脱ぎ、ルナに差し出した。
「これを着てくれ! 今日からあんたが『夜露死苦連合』の総長だ!!」
「総長! 総長! 総長!」
 50人のヤンキーが一斉に頭を下げる。
 ルナはきょとんとしながら、渡された特攻服(サイズぶかぶか)を羽織った。
「まあ、素敵な外套! 『夜露死苦』……夜露が死ぬほど苦い? 詩的ですわね!」
「(……姫様、それは詩ではなく当て字という底辺の文化です)」
 ネギオは呆れたが、まあ姫様が喜んでいるならいいかと黙認した。
「じゃあ、私達は帰りますね。ハルタ様が心配しますから」
「へい! 姐御! 俺達が家まで護衛(パレード)します!!」
 こうして。
 コンビニに行こうとしただけのルナは、なぜか北関東最強の暴走族を傘下に収め、深夜の国道を大爆走して帰宅することになったのである。
 目的地は――内閣府職員、青田春太の自宅(アパート)。
 近所迷惑などという言葉では生ぬるい、騒音のパレードが迫っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜

namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。 かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。 無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。 前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。 アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。 「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」 家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。 立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。 これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...