方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

文字の大きさ
14 / 30

EP 14

しおりを挟む
強制変身! 巨大公務員ハルタ
「グアアアアアアアッ!! 熱い! 体が、体がァァァ!!」
 春太の絶叫が、東京湾の夜空に木霊した。
 ネギオに注入された致死量の『世界樹の樹液』。それが春太の貧弱な細胞を強制的に活性化させ、ありえない現象を引き起こしていた。
 ドクンッ! と心臓が跳ねるたびに、視界が高くなる。
 足元のネギオが小さくなる。倉庫がミニチュアになる。自衛隊の戦車が豆粒になる。
「え? え? うわああああ!?」
 メキメキメキッ!
 骨が軋み、筋肉が膨張する音。
 奇跡的(魔法的)なことに、春太が着ていた量販店の安物スーツも、伸縮素材のように体にフィットしたまま巨大化していく。
 そして、成長が止まった時。
 春太は、東京湾の浅瀬に立っていた。海水が膝下あたりを洗っている。
 目線の高さには、レインボーブリッジがあった。
「…………は?」
 春太は恐る恐る、自分の手を見た。
 デカい。トラックくらいのサイズがある。
 下を見た。
 足元で、自衛隊の戦車が慌てて砲塔をこちらに向けているのが、米粒のように見えた。
 上空を旋回する報道ヘリコプターと目が合った。
 ヘリのパイロットが、化け物を見る目でこちらを見ている。
 『き、緊急速報です! 新たな怪獣が現れました! あれは……人間!? 巨大なサラリーマンです!!』
 ヘリからのリポート音声が、風に乗って聞こえてきた。
「サラリーマンじゃねえ! 公務員だ!! ……って、そうじゃなくて!」
 春太は、東京湾の中心で叫んだ。
「ウルトラ〇ンじゃねえんだぞ!? デカくなりすぎだろオオオオオ!!」
 自分の声が、巨大スピーカーを通したように湾岸エリア全体に響き渡る。その音圧だけで、近くの倉庫のガラスが割れた。
「ひいっ!? ごめんなさい! 弁償します!」
 慌てて謝罪する姿は、間違いなくいつもの小心者の春太だった。ただ、サイズが50メートルあるだけだ。
『――素晴らしい。画になりますね』
 足元から、拡声器を使ったネギオの声が聞こえてきた。
「ネギオさん! 戻して! これどうなってんの!? 俺、明日会社に行けないじゃん!」
『ご安心を。そのサイズなら通勤ラッシュも関係ありません。一跨ぎで霞が関でしょう』
『まぁ! ハルタ様、すごーい!』
 今度は、上空から声がした。
 泥の怪獣(ドロちゃん)の手に掴まっているルナが、目をキラキラさせて手を振っている。
『ハルタ様、とっても大きいですわ! 私と同じ視線です! 素敵!』
「ルナちゃん! 呑気なこと言ってないで! 今助けるから!」
 春太は泥の怪獣に向き直った。
 さっきまでは見上げるような巨体だったが、今は同じ目線だ。
 泥と瓦礫でできた醜悪な顔が、目の前にある。
『グルルルル……』
 怪獣が警戒するように唸り声を上げた。
「ひいっ! こ、怖い!」
 春太は反射的に後ずさりした。
 巨大化しても、中身はただの一般市民(ビビリ)なのだ。怪獣と戦う訓練など受けていない。
『逃げるな、腰抜けヒーロー』
 ネギオの冷徹な声が響く。
『台本通りに進めなさい。まずは怪獣に一撃を加え、姫様を奪還するのです』
「一撃って……どうやるんだよ! スペシウム〇線とか出ないぞ!?」
『物理で殴ればいいのです。右ストレートです』
「殴る!? こんな泥の塊を!?」
 春太は躊躇した。
 しかし、怪獣の手に捕まっているルナが、期待に満ちた目でこちらを見ている。
 
『ハルタ様ー! がんばってー!』
「ううっ……やるしかないのか……!」
 春太は意を決して、右の拳を握りしめた。
 人生初の殴り合い。しかも相手は怪獣。
「ええい、ままよ! ……えいっ!」
 春太が放ったのは、腰の入っていない、へっぴり腰の「猫パンチ」だった。
 しかし、サイズが50メートルである。
 その質量は、数百トンの鉄塊が激突するに等しい。
 ズドォォォォォン!!
 春太の拳が、怪獣の顔面にめり込んだ。
 
『ギャイン!?』
 怪獣が情けない声を上げ、大きくバランスを崩した。
 その衝撃で、手に持っていたルナが空中に放り出される。
「キャー! 空を飛んでるわー!」(嬉しそう)
「ルナちゃん!」
 春太は慌てて両手を差し出し、落下してくるルナを、掌(てのひら)で受け止めた。
 巨大な手の上に、ちょこんと乗るルナ。
「ナイスキャッチですわ、ハルタ様!」
 ルナが掌の上でピョンピョンと跳ねる。春太の掌は、彼女にとって広いステージのようだ。
『よし。ヒロイン奪還成功。――さあ姫様、クライマックスですよ』
 ネギオの演出指示が飛ぶ。
 茶番劇は、いよいよ最終局面を迎えようとしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜

namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。 かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。 無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。 前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。 アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。 「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」 家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。 立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。 これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...