方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

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EP 16

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説教と、恋の予習
「……で、青田君。君は何かね? 内閣府の職員でありながら、東京湾で全裸になり、謎の舞を踊るのが趣味なのかね?」
 翌日、内閣府の地下5階にある、窓のない尋問室――もとい、特別指導室。
 春太は、パイプ椅子に座らされ、室長と人事課長から詰められていた。
 机の上には、スポーツ新聞が置かれている。
 一面の見出しは『東京湾に全裸怪人現る! 正体は公務員!?』。
 モザイク越しでも分かる、情けない春太の姿が掲載されていた。
「ち、違います! あれは……服が弾け飛んだだけで……」
「服が弾け飛ぶ? 君は北斗の拳か何かか?」
「いえ、魔法で……」
「魔法? まだ夢を見ているのか! 始末書だ! 原稿用紙50枚! 今日中に書き上げるまで帰さんぞ!」
「は、はいぃぃ……」
 春太は涙目でペンを走らせた。
 昨夜の英雄的(?)な活躍は誰にも評価されず、ただ「露出狂の公務員」というレッテルだけが残った。
 胃が痛い。帰りたい。そして、ルナちゃんの顔が見たい(でも怖い)。
 一方その頃、春太の留守を預かるアパートにて。
「キャー! 素敵! なんてロマンチックなの!」
 ルナは、コタツに入って身悶えしていた。
 彼女の手にあるのは、コンビニでネギオが適当に買ってきた少女漫画雑誌『月刊トキメキ』。
 現在、巻頭カラーの「雪山ラブストーリー」にドハマり中である。
「見てネギオ! この男の子、吹雪の中で遭難した女の子を見つけて、ギュッて抱きしめてるわ! 『お前を死なせはしない』ですって!」
「……ほう。非効率ですね。最初から防寒装備を整えていれば遭難などしません」
 ネギオは換気扇の下で、肥料(液体ポカリ)を飲みながら冷静に突っ込んだ。
「違うのよネギオ! この極限状態が良いの! 寒さと恐怖でドキドキしているのを、恋のドキドキと勘違いする……それが『吊り橋効果』よ!」
「学習しましたか。正確には『ゲレンデマジック』とも呼ばれる心理現象ですね。白銀の世界は光の反射率が高く、被写体を美しく見せる効果もあります」
 ルナはバッと顔を上げ、目を輝かせた。
「それよ! 私、ハルタ様とそれがしたいわ!」
「……は?」
「だってハルタ様、最近お疲れでしょう? 私がときめかせて差し上げれば、きっと元気が出ると思うの!」
 ルナの理屈は常に斜め上を行く。
 彼女の中では「ハルタ様をドキドキさせる=ハルタ様への癒やし」という図式が成立していた。
「なるほど。ハルタ様へのメンタルケアですね(※トドメの間違いでは?)」
「ええ! 雪山に行きましょう! ゲレンデでハルタ様と恋に落ちるの!」
 ルナが立ち上がる。
 しかし、ネギオは首を横に振った。
「姫様。雪山への移動は時間がかかります。あの虫(ハルタ)は仕事で疲弊しており、遠出する体力はないでしょう」
「あら、そうなの? 残念だわ……」
「ですが、諦める必要はありません」
 ネギオはニヤリと笑い、窓の外――東京のビル群を指差した。
「山に行けないなら、ここを山にすればいいのです」
「!」
「環境制御魔法で、この東京一帯を極寒の雪山に変えましょう。そうすれば、ハルタ様が帰宅した瞬間、そこはゲレンデ(恋の戦場)です」
 悪魔の囁き。
 しかしルナにとっては、名案にしか聞こえなかった。
「さすがネギオ! 天才ね!」
「光栄です。では、早速準備(冷気充填)に取り掛かりましょう」
 夜11時。
 ようやく始末書地獄から解放された春太は、ふらふらと庁舎の裏口から外に出た。
「つ、疲れた……。指が痛い……」
 早く帰って風呂に入りたい。温かい布団で眠りたい。
 そんなささやかな願いを抱いて、春太は自動ドアを抜けた。
 ヒュオオオオオオオッ……。
「……っ寒!?」
 春太は思わず身を縮めた。
 なんだこの寒さは。今は秋のはずだ。
 ふと空を見上げる。
 街灯の光の中を、白いものがチラチラと舞い降りていた。
「雪……? いや、そんなレベルじゃ……」
 見る見るうちに、雪の勢いが増していく。
 アスファルトが白く染まり、街路樹が凍りつく。
 気温が急激に低下し、吐く息が真っ白になる。
「まさか……」
 春太の脳裏に、あのかわいい笑顔が浮かんだ。
 まさか、また何かやったのか?
 スマホを取り出すと、天気予報アプリがバグったように『現在地の気温:-10℃』を表示していた。
「ふざけんな! ここ東京だぞ! シベリアじゃねえんだぞ!!」
 春太の絶叫が、猛吹雪にかき消される。
 恋の予習(という名の異常気象)は、すでに始まっていた。
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