方向音痴の姫様を拾ったら、俺のクレジットカードで勝手に和牛を買われた件 〜植物執事が特攻服で内閣府へ迎えに来る、胃痛MAXの同居生活〜

月神世一

文字の大きさ
17 / 30

EP 17

しおりを挟む
東京氷河期
「さっむ! え、痛い! 風が痛い!」
 内閣府の裏口から一歩出た春太は、瞬時に生命の危機を感じた。
 視界が真っ白だ。ホワイトアウトしている。
 ここは霞が関のはずだが、体感温度は完全に南極だった。
 通りを行き交う車が、次々とスリップして立ち往生している。
 信号機には巨大なツララが垂れ下がり、街路樹は樹氷と化していた。
「異常気象ってレベルじゃない……! 絶対あの二人の仕業だ……!」
 春太は凍える手でスマホを操作し、ルナに電話をかけようとした。
 しかし、指がかじかんで動かない。スーツ一枚の春太にとって、マイナス10度の世界は死刑宣告に等しい。
「ハルタ様ー!」
 その時、吹雪の向こうから、明るい声が聞こえた。
 雪煙を巻き上げて、何かが滑ってくる。
「……スキー板?」
 春太が目を疑った瞬間。
 ザザザーッ!!
 目の前に、プロ顔負けのパラレルターンで急停止したのは、最新の可愛らしいスキーウェア(ピンク色)に身を包んだルナだった。
 帽子にはポンポンがついている。可愛い。だが、状況がおかしい。
「お迎えに上がりましたわ、ハルタ様! お仕事お疲れ様です!」
「ルナちゃん!? その格好なに!? ていうかこの雪なに!?」
 春太は歯をガチガチ言わせながら叫んだ。
 ルナはゴーグルを上げて、満面の笑みで答えた。
「ゲレンデを作りましたの! ネギオが『ハルタ様と恋をするなら雪山が最適』と言うので、東京を雪山にしてみました!」
「規模が! 規模がおかしい! これ災害! 文明が滅ぶやつ!」
 春太のツッコミなど意に介さず、ルナの後ろから巨大な影が現れた。
 ネギオだ。
 彼は雪男(イエティ)のような真っ白な毛皮――に見える極寒地仕様の樹皮を纏い、背中にはスノーボードを背負っている。
「お待ちしておりました、虫(ハルタ)。さあ、リフト券(遭難への片道切符)は不要です。このまま渋谷方面へ滑り降りましょう」
「滑るってどうやって!? 俺、革靴なんだけど!?」
「甘えるな。愛の力で摩擦係数をゼロにしろ」
「物理法則を無視するな!」
 ネギオは問答無用で、春太の背中に冷たい雪の塊を突っ込んだ。
「ヒィッ!?」
「さあ、行きますよハルタ様! 私についても来てくださいね!」
 ルナがストックを突き、颯爽と滑り出した。
 国道246号線は、今や完璧なパウダースノーのゲレンデと化している。
「待って! 置いてかないで! 凍死する!」
 春太は泣きながら走り出した。
 走ると滑る。転ぶ。起き上がる。また転ぶ。
 スーツ姿の男が、雪の積もった大通りを転がりながら進む姿は、悲劇を通り越して喜劇だった。
「ルナちゃん! なんでこんなことするの!?」
「だって、雪山ならハルタ様と『ギュッ』てできるって本に書いてあったから!」
「その前に俺が『チーン(凍死)』ってなるよ!?」
 ルナはくるりとターンして振り返り、可愛らしくウインクした。
「大丈夫ですわ! 私が温めて差し上げます! ……遭難したらね」
「遭難前提!?」
 こうして、内閣府前から渋谷方面へ向かう、地獄のダウンヒルが始まった。
 春太の体温が尽きるのが先か、ルナの恋心が成就するのが先か。
 東京氷河期の夜は、まだ始まったばかりである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

没落貴族は最果ての港で夢を見る〜政敵の公爵令嬢と手を組み、忘れられた航路を拓いて帝国の海を制覇する〜

namisan
ファンタジー
日本の海運会社に勤めていた男は、事故死し、異世界の没落貴族の三男ミナト・アークライトとして転生した。 かつては王国の海運業を牛耳ったアークライト家も、今や政争に敗れた見る影もない存在。ミナト自身も、厄介払い同然に、寂れた港町「アルトマール」へ名ばかりの代官として追いやられていた。 無気力な日々を過ごしていたある日、前世の海運知識と経験が完全に覚醒する。ミナトは気づいた。魔物が蔓延り、誰もが見捨てたこの港こそ、アークライト家再興の礎となる「宝の山」であると。 前世の知識と、この世界で得た風を読む魔法「風詠み」を武器に、家の再興を決意したミナト。しかし、その矢先、彼の前に最大の障害が現れる。 アークライト家を没落させた政敵、ルクスブルク公爵家の令嬢セラフィーナ。彼女は王命を受け、価値の失われた港を閉鎖するため、監察官としてアルトマールに乗り込んできたのだ。 「このような非効率な施設は、速やかに閉鎖すべきですわ」 家の再興を賭けて港を再生させたい没落貴族と、王国の未来のために港を閉鎖したいエリート令嬢。 立場も思想も水と油の二人が、互いの野望のために手を組むとき、帝国の経済、そして世界の物流は、歴史的な転換点を迎えることになる。 これは、一人の男が知識と魔法で巨大な船団を組織し、帝国の海を制覇するまでの物語。

落ちこぼれ村娘、拾った王子に溺愛される。

いっぺいちゃん
恋愛
辺境の村で育った元気娘 ミレイ。 ある日、森で倒れていた金髪の青年を助けるが、 実は彼は国一の人気者 完璧王子レオン だった。 だがレオンは外に出ると人格がゆるみ、 王宮で見せる完璧さは作ったキャラだった。 ミレイにだけ本音を見せるようになり、 彼は彼女に依存気味に溺愛してくる。 しかしレオンの完璧さには、 王宫の闇に関わる秘密があって—— ミレイはレオンの仮面を剥がしながら、 彼を救う本当の王子に導いていく。 ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。 ※この作品は「小説家になろう」でも同時投稿しています。

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

「お前みたいな卑しい闇属性の魔女など側室でもごめんだ」と言われましたが、私も殿下に嫁ぐ気はありません!

野生のイエネコ
恋愛
闇の精霊の加護を受けている私は、闇属性を差別する国で迫害されていた。いつか私を受け入れてくれる人を探そうと夢に見ていたデビュタントの舞踏会で、闇属性を差別する王太子に罵倒されて心が折れてしまう。  私が国を出奔すると、闇精霊の森という場所に住まう、不思議な男性と出会った。なぜかその男性が私の事情を聞くと、国に与えられた闇精霊の加護が消滅して、国は大混乱に。  そんな中、闇精霊の森での生活は穏やかに進んでいく。

処理中です...