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5章 前世と向き合う覚悟

手に入らないもの  -side M-

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あの日から毎日セナは俺の家に来ては俺の側に引っ付いてくる

そして毎回毎回、前世とやらの話をしてくる
その嬉しそうな横顔が誰かと被るが、どこか違うと思ってしまい、目をそらす


あの日。
俺は彼女の提案をうけた


『私と1ヶ月恋人になってください。それで前世の彼女が私だと思えばそのまま付き合いましょう?』


その提案を受けるべきじゃなかったと思っていても、結局受けてしまったからには1ヶ月恋人ごっこを続けるしかない

そんな前世なんて関係なしに
好きな人がいたはずなんだが

セナの言葉に

確信が持てなくなったのも事実だ。


だから

海愛から離れようと決めた


そんな日々が続いていたある日。
夜中までセナが居座っていた日

流石にこんな時間に女の子一人は悪いと思い、送ることにした


ゆっくりと歩き出せば、セナは恋人ごっこを楽しんでいるかのように
腕を組んでくる

あぁ、なぜだか好きなんて感情が出てこなくて

これが義妹……海愛だったら…
そんなことを考えていると後ろから話し声が聞こえ始めた

誰だか確認したくなって振り返れば



「やだ、そんなことないよ?」

「そんなことあるんですよ?」


クスクスと楽しそうに知らない男と笑っている海愛がいた


「え……」


二人はそのまま俺の実家…海愛の家の方へ歩き出していた


頭が追いつかないどころか息が苦しくなる

何が起きたんだろう
吐きそうなくらいの唐突な目眩に、歩けなくなる


「雪愛さん?大丈夫?」

「……うん、平気」


俺の視線を追うようにセナちゃんはそちらに目を向けた。


「あぁ……海愛のこと、か」

「なんで…ここにいたんだろうね」


なんとか繕って笑みを零すが、セナちゃんは海愛の方を睨んだまま、黙っていた


「セナちゃ…」

「まだ早い。なんで、なんで海愛ばかり」


ギリッと唇を噛みしめるセナちゃん…
その表情で巫女服の女性を思い出した。


俺の大切な人の事を嫌っていた女性の事を



「雪愛さん」


セナちゃんの声に、ハッとして目線を合わせる

セナちゃんは俺を見つめて微笑んでいた


「雪愛さん…海愛はもう手に入りませんよ」

「それが…」

「なら、私でいいでしょう?」


セナちゃんの言葉に俺は首を横にふる
セナちゃんの笑顔が一瞬で暗くなる


「なんでですか……?」

「もう二度と、海愛と恋人になれなくても、誰かを変わりにする気はない」

「だから私が」

「前世で恋人だったとしても、俺は…あの日々が好きだ」


俺の言葉にセナちゃんは悔しそうに唇を噛む


「海愛とくらした日々が、あいつが笑ってくれてた日々が二度と戻ってこなくても、手に入らなくても」

「……覚悟しといてくださいね」

「…海愛にだけは手を出すなよ」


顔を上げたセナは見たことないほど狂気に満ちた笑顔で、俺に笑いかけてきた


「それは約束できません。だって…いつもいつもいつもいつも、私のモノをとるのは海愛だから」


そう言うとセナはふらふらと帰路についた

俺は、嫌な予感を感じつつ、部屋に帰った

海愛を守らなきゃ……

そう考えながら
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