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最果ての森編
55. ハイスペックイケメン
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ファム(と僕)によって敷地が一回り広くなった、翌日。
僕は家の外に出て、改めて庭を眺める。
目の前に広がる庭は、昨日伐採が行われたとは思えないほどきれいだ。地面に残っていた切り株がいつの間にか取り除かれ、整地されている。
変化したことと言えば敷地が広くなったことだが、それ以外にもう一つ、大きな変化がある。驚くべきことに、先日みんなでサンドイッチを食べた場所に、いつの間にかオープンテラスができていたのだ。
これはもしかしなくても、ハイスペックイケメン・ジルの仕業だ。あの日、天気さえ良ければいつでも外で食べたいと思っていたのが伝わっていたのだろうか。あのイケメンは、読心術まで身につけているのか。
そんな僕の父親は、現在テラスに白い革のようなものを屋根として取り付けている。
「これで直射日光を遮られるな」
イケメンな気遣いで、屋根まで設置してしまった。
「おお~」
テラスを完成させたジルに、ぱちぱちと拍手をする。
「天気がいい日は、外で食べるのもいいからな」
そう言って頭を撫でてくれた。···やっぱり読心術が使えるんじゃないだろうか。
テラスの近くには、まだ丸太が数本残っている。結構な数の木を切っちゃったからな。
「あう?」
僕は丸太を指して首を傾げる。
「ああ、これか。とりあえず今は必要ないから、収納しておく」
ジルがそう言い、家から持って来たバッグにぽんぽんと丸太を入れ始めた。あれもマジックバッグだ。
「以前、テムが作ってくれた。この家を建てる前にな」
僕がバッグを凝視していると、ジルが教えてくれた。もしかして、ライが持っているのもテムが作ったものなのだろうか。テムは、友達想いで優しいからね。
「ウィルも、自分のバッグに入れておくか?」
まだ地面に残っている丸太の断面をコンコンと叩いていると、ジルがそう聞いてきた。今のところ使い道は思い付かないけど、持っていたら役に立つことがあるかもしれない。そう思って、こくりと頷く。
「あう」
「そうか、なら何本か入れておくか」
ジルがオッケーをくれたので、リュックとして背負っていたマジックバッグをおろし、丸太を入れる。
バッグから離れていたら入らないが、一部でもバッグの中に入っていたら、あとはヒュンッと全体が入る。僕が手を入れてもバッグに入ることはないから、生き物は入れないのかもしれない。
ちなみに、テムとファムがこのバッグをプレゼントしてくれてから、ごはんのときと寝るとき以外はだいたい背負っている。本当はごはんのときも背負っていたいけど、お行儀が悪いからね。ちゃんと我慢しているんだ。
丸太を全部片付けて、家に戻る。
今日はみんなは来ないようだし、読書の日になりそうだ。
バッグに何冊か入れておいたライの本を取り出し、読み始める。
しばらく集中して読んでいると、コトッという音が聞こえたので視線を上げる。ジルが水を持って来てくれていた。フルーツを漬け込んだ、美味しい水だ。前世では作ろうとさえ思わなかったオシャレな水を、ここではたらふく飲むことができる。ジルのイケメンパワーに改めて感謝だ。
「あいあと!」
「ああ」
コクコクと飲んでぷはーっと息を吐いていると、ジルが頭を撫でてくれた。なんだか僕、ものすごく甘やかされてるよね。これを当たり前だと思うことがないように、感謝の気持ちを忘れないようにしよう。
「···明日、出発することになった」
感謝は大事だよねと思っていると、ジルがそう言う。···え?出発?どこに?ジルが?···僕も?
急な話題に、次々と疑問が浮かぶ。
「ソルツァンテだ。話したらテムとファムも行きたがっていたから、テムに転移を頼むことにした。ライも一緒だ」
あ、リーナさんにお礼をする話か!行きたいけど、もう少し先の話かと思っていた。森を出て大陸を横断する旅になるから、体力も実力も、それから物資の準備も必要だなと考えていたのだ。でも、テムが転移で送ってくれるなら、時間をかけて準備することもないのかもしれない。
「明日の朝、皆ここに集まって出発する。何日かかけてソルツァンテに行くことになる。準備は···服を数着バッグに入れておけばいいだろう」
具体的な話に、本当に行くんだなとわくわく感が高まる。それに、みんなで一緒に行けるのも嬉しい。楽しい旅行になりそうだ。
わくわくしすぎてなかなか寝付けなくなるのを見越して、今日は早めにベッドに入る。
すでに準備はばっちりだ。先ほどバッグに服を入れておいたのだ。
···ああ、どうしよう。わくわくするあまり、眠気が来ない。目をぎらぎらさせながら羊を数えていると、ジルが部屋に入って来た。
「眠れないのか?」
僕の顔を見て、ジルがそう訊ねる。
「あう」
頷いて肯定すると、優しく頭を撫でてくれる。もしかして、今までもこうやって様子を見に来てくれていたのだろうか。
「楽しみだろうが、ちゃんと眠っておいた方がいい」
ジルがゆっくり優しく頭を撫でてくれて、さっきまで目が冴えていたはずのに、まぶたが重くなる。ジルの手には、安眠の効果もあるようだ。
「おあしゅみ」
ジルも、ちゃんと寝るんだよ。明日は楽しい旅行なんだからね。そう思いながら、おやすみを言う。
「ああ、俺もしっかり寝ておく。···おやすみ」
遠くなっていく意識の中で聞こえたジルの声に、やっぱり読心術が使えるのだと確信し、僕は眠りに落ちた。
僕は家の外に出て、改めて庭を眺める。
目の前に広がる庭は、昨日伐採が行われたとは思えないほどきれいだ。地面に残っていた切り株がいつの間にか取り除かれ、整地されている。
変化したことと言えば敷地が広くなったことだが、それ以外にもう一つ、大きな変化がある。驚くべきことに、先日みんなでサンドイッチを食べた場所に、いつの間にかオープンテラスができていたのだ。
これはもしかしなくても、ハイスペックイケメン・ジルの仕業だ。あの日、天気さえ良ければいつでも外で食べたいと思っていたのが伝わっていたのだろうか。あのイケメンは、読心術まで身につけているのか。
そんな僕の父親は、現在テラスに白い革のようなものを屋根として取り付けている。
「これで直射日光を遮られるな」
イケメンな気遣いで、屋根まで設置してしまった。
「おお~」
テラスを完成させたジルに、ぱちぱちと拍手をする。
「天気がいい日は、外で食べるのもいいからな」
そう言って頭を撫でてくれた。···やっぱり読心術が使えるんじゃないだろうか。
テラスの近くには、まだ丸太が数本残っている。結構な数の木を切っちゃったからな。
「あう?」
僕は丸太を指して首を傾げる。
「ああ、これか。とりあえず今は必要ないから、収納しておく」
ジルがそう言い、家から持って来たバッグにぽんぽんと丸太を入れ始めた。あれもマジックバッグだ。
「以前、テムが作ってくれた。この家を建てる前にな」
僕がバッグを凝視していると、ジルが教えてくれた。もしかして、ライが持っているのもテムが作ったものなのだろうか。テムは、友達想いで優しいからね。
「ウィルも、自分のバッグに入れておくか?」
まだ地面に残っている丸太の断面をコンコンと叩いていると、ジルがそう聞いてきた。今のところ使い道は思い付かないけど、持っていたら役に立つことがあるかもしれない。そう思って、こくりと頷く。
「あう」
「そうか、なら何本か入れておくか」
ジルがオッケーをくれたので、リュックとして背負っていたマジックバッグをおろし、丸太を入れる。
バッグから離れていたら入らないが、一部でもバッグの中に入っていたら、あとはヒュンッと全体が入る。僕が手を入れてもバッグに入ることはないから、生き物は入れないのかもしれない。
ちなみに、テムとファムがこのバッグをプレゼントしてくれてから、ごはんのときと寝るとき以外はだいたい背負っている。本当はごはんのときも背負っていたいけど、お行儀が悪いからね。ちゃんと我慢しているんだ。
丸太を全部片付けて、家に戻る。
今日はみんなは来ないようだし、読書の日になりそうだ。
バッグに何冊か入れておいたライの本を取り出し、読み始める。
しばらく集中して読んでいると、コトッという音が聞こえたので視線を上げる。ジルが水を持って来てくれていた。フルーツを漬け込んだ、美味しい水だ。前世では作ろうとさえ思わなかったオシャレな水を、ここではたらふく飲むことができる。ジルのイケメンパワーに改めて感謝だ。
「あいあと!」
「ああ」
コクコクと飲んでぷはーっと息を吐いていると、ジルが頭を撫でてくれた。なんだか僕、ものすごく甘やかされてるよね。これを当たり前だと思うことがないように、感謝の気持ちを忘れないようにしよう。
「···明日、出発することになった」
感謝は大事だよねと思っていると、ジルがそう言う。···え?出発?どこに?ジルが?···僕も?
急な話題に、次々と疑問が浮かぶ。
「ソルツァンテだ。話したらテムとファムも行きたがっていたから、テムに転移を頼むことにした。ライも一緒だ」
あ、リーナさんにお礼をする話か!行きたいけど、もう少し先の話かと思っていた。森を出て大陸を横断する旅になるから、体力も実力も、それから物資の準備も必要だなと考えていたのだ。でも、テムが転移で送ってくれるなら、時間をかけて準備することもないのかもしれない。
「明日の朝、皆ここに集まって出発する。何日かかけてソルツァンテに行くことになる。準備は···服を数着バッグに入れておけばいいだろう」
具体的な話に、本当に行くんだなとわくわく感が高まる。それに、みんなで一緒に行けるのも嬉しい。楽しい旅行になりそうだ。
わくわくしすぎてなかなか寝付けなくなるのを見越して、今日は早めにベッドに入る。
すでに準備はばっちりだ。先ほどバッグに服を入れておいたのだ。
···ああ、どうしよう。わくわくするあまり、眠気が来ない。目をぎらぎらさせながら羊を数えていると、ジルが部屋に入って来た。
「眠れないのか?」
僕の顔を見て、ジルがそう訊ねる。
「あう」
頷いて肯定すると、優しく頭を撫でてくれる。もしかして、今までもこうやって様子を見に来てくれていたのだろうか。
「楽しみだろうが、ちゃんと眠っておいた方がいい」
ジルがゆっくり優しく頭を撫でてくれて、さっきまで目が冴えていたはずのに、まぶたが重くなる。ジルの手には、安眠の効果もあるようだ。
「おあしゅみ」
ジルも、ちゃんと寝るんだよ。明日は楽しい旅行なんだからね。そう思いながら、おやすみを言う。
「ああ、俺もしっかり寝ておく。···おやすみ」
遠くなっていく意識の中で聞こえたジルの声に、やっぱり読心術が使えるのだと確信し、僕は眠りに落ちた。
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