転生したらドラゴンに拾われた

hiro

文字の大きさ
68 / 115
旅行編

66. 乗り越えた先で

しおりを挟む
 みんなで移動して、カフェのようなお店に入る。注文したドリンクが運ばれ、乾杯をする。

「再会に乾杯じゃな」

 ほっほっと笑いながらおじいちゃんが言う。

「さて、改めて自己紹介じゃ。儂はフランクという。ライナー様には、···何十年前じゃったかの?とにかく、昔助けてもらったんじゃ」

「助けたなんてそんな···」

「ほっほっ。儂がそう言っておるなら、そうなんですじゃ」

 ライは認めていない感じだが、フランクさんは助けてもらったと感じているようだ。

「ジルだ」

「うぃる」

「ファムだよー」

「···テムだぜっ」

 みんなもそれぞれ名乗る。テムもちゃんと姿を見せている。声は小さいが。

「ほっほっ。ライナー様のご友人は個性的じゃの」

 確かに。改めて見ると、ものすごい濃いメンツだと思う。

「ライナー様のご友人には聞いて欲しくての。儂がライナー様に助けられた話じゃ」

「ライから少し聞いていたが···。他者の視点でも聞いてみたい」

 やはりジルは多少知っていたようだ。でも他の人から語られる話は、視点が違うから受ける印象なども変わるのかもしれない。

「あれは儂がまだ若かった頃の話じゃ」

 フランクさんがコップをコトリと置いて回想する。



 儂らは乾燥した地域に住んでおった。···今では人はおろか、植物さえも育たない場所になっておるがの。その頃は、その地域には小さな集落がいくつもあって、集落におる者同士で助け合って生きておった。

 儂には妻と生まれたばかりの息子がおったが、産後の肥立ちが悪く、妻は亡くなってしまった。だから息子だけは元気に育てたいと儂は必死だった。
 儂の弟や集落の皆の協力もあって、なんとか子育てをしておった。

 その日を生きるのに必死だったが、それでも平和だった。···そんな日々が、ある日突然奪われた。
 近くの集落の者達が、儂らの水や食料を奪って行ったのだ。
 ギリギリの生活さえ送ることが難しくなり、儂らは絶望した。そして一つの結論を出した。『奪われたなら、奪い返そう』と。
 こうして、儂らは地獄への扉を開けてしまった。

 近くの集落から奪い奪われというのが繰り返されるようになった。
 儂は息子の世話があるから直接は奪いに行ったりはしとらんかったが、儂の弟は率先して行っておった。正義感の強い男だった。人の物を奪うなんて許せんと、口癖のように言っておった。
 そんな弟が、ある日奪われた物を取り返しに行ったっきり帰って来んかった。···弟は、命を奪われたのだ。

 それからはあっという間だった。水と食料の奪い合いが命の奪い合いに変わるのに、そう時間はかからんかった。
 あの時の儂らは、まさに獣だった。···いや、人間の皮を被った魔物だった。

 そんな中、元気に育ってくれる息子だけが儂にとっての救いであり癒やしだった。
 だが、争いが日常にある環境で育った息子は争うことを当たり前だと思っておった。
『僕はいつ争いに参加できるの』と聞かれたとき、儂は愕然とした。
 大人の真似をして石を括り付けた木の棒を振り回して遊ぶ息子を見て悲しくなった。そんな環境にしてしまった大人として、息子に対して本当に申し訳なく思った。

 ある日、儂の集落が襲われた。これまでも襲われたことは何度もあったが、この日は敵の数が段違いだった。おそらくいくつかの集落が手を組んだのだろう。
 儂は背後から頭を殴られ気絶した。頭から血を流し、死んだと思われたのだろう。それ以上攻撃されることなく見逃された。

 かなり出血していたようだから、そのまま放置されていたら儂は死んでいただろう。
 そんな状態の儂を救ってくださったのが、ライナー様だった。傷の手当をし、儂が目覚めるまで介抱してくださったのだ。

 目覚めた儂は、息子の姿を探した。息子は、すぐに見つかった。···家の近くで、腹に穴を開けて冷たくなっておった。傍らには、石を括り付けた木の棒が転がっておった。

 この集落で生き残ったのは、儂一人だった。
 水も食料も、そして命も空っぽになった集落で、儂は泣き叫んだ。恥ずかしいことに、ライナー様に当たり散らした。なぜ息子を助けてくれなかったのか、なぜ儂を死なせてくれなかったのかと。
 そんな儂に、ライナー様は自分の力不足を謝った。ライナー様が謝ることなど、何一つないのに。

 そしてライナー様は、儂に別の地で生きることを提案してくださった。水を求めて命を奪う必要のない、平和な場所があると教えてくださった。

 そして連れて来てもらったのが、ここソルツァンテだ。当時は国家という形ではなかったが、開墾という大事業に多くの人が参加し賑わっておった。儂もそこに入れてもらい、ひたすら働いた。

 今では自分の田んぼを持ち、美味い米を育てることが儂の生きがいだ。
 命を救ってくださったライナー様と、新しい生きがいをくださったヴァーテマリーナ様には毎日感謝しておる。



 そう述べたフランクさんに、ライが悲痛な表情で言う。

「···水不足が深刻な地域があるとは以前から聞いていたんだ。もっと早く行っていれば、もっと私に力があれば、違う結果になっていたかもしれないんだ」

 泣きそうなライに、フランクさんは柔らかい笑顔を見せる。

「ライナー様はお優しいからの、今でもあの時のことで自分を責めていらっしゃるのじゃろう。じゃが、それは違う。争いを始めたのは儂ら自身じゃ。そしてライナー様は、儂の命の恩人なんじゃ。改めて言わせてもらいますがの、儂は助けてくださったことを本当に感謝しておりますじゃ」

 ライの表情がくしゃっと歪む。

「おそらく、命を助けて良かったのかもずっと自問自答なさっていたんじゃろう。儂が八つ当たりしてしまったせいでの、本当に申し訳なく思っておりますじゃ。···ハッキリと申し上げますじゃ。儂は、生きていて良かったと、そう思っておりますじゃ」

 フランクさんが力強く断言すると、ライの目から涙がこぼれ落ちた。

「···ライ、もう背負うことはないだろう」

 ジルがそっと言う。
 ライはこれまでずっと苦しんできたのだろう。もっと早く駆けつけていればとひどく後悔していたのだろう。
 そんな苦しい思いをすぐに解消することは難しいかもしれない。でもフランクさんの言葉で、ずっと背負ってきたものが少しは軽くなっただろうか。

「かけがえのない人を失うのは心が張り裂けそうなほどつらいものですじゃ。じゃが、生き残った者はそれを乗り越えて生きる義務があると、儂は思っておりますじゃ」

 フランクさんが、静かに涙を流すライの背中をさすりながら言う。

「儂は妻と弟と息子の分まで生きるつもりですじゃ。まだまだ長生きするからの、これからもよろしくお願いしますじゃ」

 ほっほっと笑うフランクさんに、ライがようやく笑顔を見せる。

「···ふふ、そうだね。フランク君には、私より長生きしてもらわないと」

「ほっほっ、それはなかなか難しいの。じゃが、頑張りますじゃ」

「ふふ、期待してるよ」

 涙を拭いたライの笑顔は、とても素敵だった。
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...