転生したらドラゴンに拾われた

hiro

文字の大きさ
90 / 115
最果ての森・成長編

87. 強くなる理由

しおりを挟む
「あれ?···もしかして、今のはティアの声かな?」

 ライが驚きと喜びが混ざり合ったような表情でティアに問いかける。

「お?···おお?···出来た!ご主人、ライ、出来たぞ!」

 念話の成功に喜ぶティアが、僕とライに駆け寄る。

「てぃあ、しゅごい!」

「ティア、おめでとう!ふふ、これでティアと話せるね。楽しみにしていたよ」

 僕達はワシャワシャとティアを撫でる。
 ティアは尻尾をブンブンと振っていて、とても嬉しそうだ。

「練習初日に成功させたか。すごいな」

 僕の魔法の練習を少し離れたところから見守っていたジルもやって来て、ティアを褒める。

「ほ、本当かっ!?ワレはすごいのか!?··ふふん、ワレはこれからもっともっと強くなるのだ!」

 ジルの言葉に気を良くしたティアが、ツンとすました表情で宣言する。···一方、尻尾はすごい勢いで振られている。

「ふふ、ティアは本当に可愛いね。これからも練習を頑張っていこうね」

 ティアの微笑ましい姿にライが頬を緩める。

 ティアはしばらく尻尾を振りながら僕達のナデナデを享受していたのだが、急に尻尾の動きをピタッと止めた。

「てぃあ?」

 どうしたのだろうか。
 ティアは少し俯き、そして勢いよく顔を上げる。その真剣な眼差しに、僕達は撫でる手を止めて静かにティアの言葉を待つ。

「念話が出来るようになったら、直接言いたいと思っていたのだ。···ワレが以前はマンティコアだったことを知りながらも受け入れてくれて、本当に感謝している。ワレはご主人に救ってもらったこの命を、いつかご主人のために使いたい。そのためにも、強くなりたいのだ。···これからも、よろしく頼む」

 ティアは確固たる決意を瞳に宿してジルとライを見た後、二人に頭を下げる。

「ふふ、ジル、どう思う?」

 ライが柔らかく笑ってジルに聞く。
 ティアは頭を下げたままだ。

「強くなるのには賛成だ。ただ···」

 ジルが一度言葉を切って、僕を見る。
 僕はジルに頷いた。

 ジルも僕に頷き、再びティアに視線を戻す。そして静かに、だけど力強く、言い放った。

「命を使うためではない。ウィルと共に生きるために、強くなれ」

 その言葉に、ティアがバッと顔を上げる。大きく見開いた瞳には、驚愕、歓喜、感謝、決意など、様々な感情が見て取れる。

「命を使えば、ウィルが悲しむ。···そうだろう?」

 僕はコクコクと頷き、ティアをぎゅっと抱きしめる。

「てぃあ、じゅっと、いっしょ」

 抱きしめたティアの体が震えていたのは、寒さや恐怖のせいではないのだろう。きっと、もっと温かい感情だ。

「ふふ、ティアはちゃんと長生きしなきゃダメだよ」

「あ、ああ、その通りなのだ。···ご主人と共に生きていくために、ワレは強く、強くなるぞ」

 感情が昂ぶっているのか、聞こえてくる声もちょっと震えている。
 
 僕はそのまましばらくティアを抱きしめていた。
 そんな僕を見て、ジルがポツリと呟いた。

「···ウィルを悲しませたら、俺が許さん」

 ティアの体が震えごと固まった。


 その後は、ボロボロになったアースウォールがさすがに増え過ぎたということで、ライと一緒にダークアローで崩して整地した。
 ジルはなんとなく不満そうだったが、僕が率先して崩していたので止める気はないようだった。


 家に戻って、ジルは夜ごはんを作るためにキッチンへ。
 ライはリビングに残っている。ティアと話すためだろう。

「ティア、今日は念話の習得、おめでとう」

「ありがとうなのだ」

「さっきも言ったけど、ティアには長生きしてもらうよ。それが私達にとって一番嬉しいことだからね」

 ライの優しい笑顔に、ティアが言葉に詰まる。
 その様子を見たライが、いたずらっぽい笑みを浮かべて明るい声で言う。

「今後、本格的に魔法の練習に入るよ。ふふ、これからティアは忙しくなるよ。ウィル君の魔法に驚く暇もないかもね」

 ライの言葉に、ティアが笑う。

「あの火柱には、本当に驚いたのだ!ご主人の魔法は、威力がおかしいのだ!」

 ティア、そんなことを思っていたんだね。···まあ、度々やらかしているし、否定はできない。

「やっぱりティアもそう思う?ふふ、私なんて毎回心の準備をしているはずなんだけどね、いっつも準備が足りないんだ。それはもう、圧倒的に足りないんだよ」

 ちょ、ちょっと、ライさん。そこまで言います?

「そ、そうなのか···。ご主人は本当に凄まじい実力の持ち主なのだな。なぜそんなにも強いのだ?」

「ふふ、それはね···」

 僕を置いてけぼりにして、僕の話で盛り上がる二人。
 でもここで、僕がこことは違う世界から転生したのだと、ライが伝えてくれた。ティアにはいつか言おうと思っていたから、ありがたい。
 ティアは違う世界があるということに驚いていたが、納得もしているようだった。

「ただのニンゲンの赤子ではないと思っていたが、そういうことだったのか!ご主人はすごいのだな!」

 そう言って、キラキラした目でこちらを見るティアが可愛い。
 こうやって自分を受け入れてもらえることは嬉しいことなんだなと実感する。

 ティアを撫でながら、この地に転生できて本当に良かったと、改めて思った。
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...