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最果ての森・成長編
104. 恋のきっかけ
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アーダンとセラ姉が何者か分かったところで、僕は色々なことが気になり出した。
まずはやっぱりこれだ。
子ども時代のジルの話を聞いてみたい···!
ジルは、いつも穏やかで落ち着いていて優しくて、僕やティアに温かい愛情をたっぷり注いでくれる。口数は多くはないけど、大事なことはちゃんと言ってくれる。気遣い上手なのに鈍感なところがあって、料理が上手で格好いいけど、たまにファムたちにイジられることもあって可愛い。
一緒に暮らしていると、ジルの色んな側面を発見することができる。その度に大好きだなあと思うし、もっともっと知りたくなる。今のジルだけじゃなくて、昔のジルのことも。
ジルは多くを語るタイプじゃないから、本人から過去の話を聞いたことはあまりない。でも、他の人からなら色々聞けるかもしれない。
今は、その絶好のチャンスなんだ。
僕はジルにちょいちょいと手招きをして、小声で話す。
「せらね···せらおねーしゃんに、じるのむかしのこと、きいてもいい?」
僕は期待を込めて、キラキラした目でジルを見る。
数秒の沈黙の後、ジルはわずかに、ほんのかすかに頷いた。
眉間にちょっとシワが寄っているが、それでも頷いたことに変わりないよね!
ジル本人から、ばっちりしっかり許可を得たので、今度は大きな声でセラ姉にお願いする。
「せらおねーしゃん、じるのこと、もっとおちえてー!」
「あらあら、ジルのことが知りたいのね?可愛いわねえ」
気持ちが先走ってちょっと噛んでしまったが、セラ姉にはちゃんと伝わっていたようだ。
「ジルは自分のことをペラペラと話すタイプじゃないものねえ、そこの野蛮···あーたんと違って」
セラ姉がわざわざ言い直してアーダンをイジっている。「俺様の名はアーダン!アーダンガルだ!」という声が響いたが、「うるさいわねえ」とあえなく一刀両断されていた。
「そうねえ、性格は生まれたときからこんな感じよ?とにかく物静かで、顔の筋肉が全然動かないのよね。でも、感情がないわけではないの。昔からとっても優しかったわ」
うんう···ん?
ちょっと分かりづらかったが、きっとセラ姉は褒めているんだよね?
「えっと、ヴァーテマリーナに会ったことはあるかしら?青龍帝って呼ばれてるドラゴンなんだけど」
僕はコクリと頷く。
「りーなしゃん!」
「あらあら、それなら話が早いわね。リーナはジルよりも後に生まれた子なのよ。幼い頃はすぐに泣く子でね、正直、ドラゴンにしては体力もなかったし、弱かったの」
そうなのか。
リーナさんは建国の母としてソルツァンテで英雄視されているし、なにより龍帝だ。ソルツァンテのお祭りで見たリーナさんの魔法は、それはもう凄かった。
そんなリーナさんが、実は最初は弱かったなんて、ちょっとびっくりだ。
「それでね、リーナが泣いているときに、ジルがお菓子をあげたり魔法を教えたりして元気づけているのをよく見かけたわ。まあ、魔法を教えるというより、魔法を見せると言ったほうが正確だけどね」
おお、それはなんとなく想像できる!
ジルは面倒見がいいし優しいから、泣いているリーナさんを放っておけなかったのかな?
それに、ジルは教えることが苦手だから、ひたすら魔法を見せていたんだろうなというのも想像に難くない。
「ほら、ジルはあの無表情でしょう?だから最初はリーナがビクビクしていたんだけど、そのうち優しさに気づいたんでしょうね。いっつもジルのあとを追いかけるようになって。ウィルもリーナに会ったなら気づいてると思うけど、リーナがあんな感じになるのにそう時間はかからなかったわ」
あんな感じとは、もしかしなくても、恋する乙女状態ってことだろう。
リーナさんは本当にジルにゾッコンだよなあと思っていたが、セラ姉の話を聞いて納得する。
それは惚れる。
そんなことされたら、誰だって惚れてまうやろ。
でも、ジルはただの親切というか、もしかしたら親切とすら思っていなかった可能性だってある。
そう考えて思わずジトッとジルを見ると、案の定、ジルはちょっと首を傾げていた。
ああ、これはきっと、「あんな感じとは···?」とか思っているのだろう。
「リーナも大変な道を選んだわよね~。ほらあの子、奥手でしょう?なかなか距離が縮まらないのよねえ。まあ、見てるこちらは楽しいんだけど」
セラ姉、楽しんでらっしゃる。
でもまあ、僕もあのじれったい感じをちょっと楽しんでいる節はある。もちろん、応援もしているが。
「ワレはリーナとやらに会ったことはないが···少し気の毒なおなごなのだ」
あ、そうか。僕たちとティアはソルツァンテからの帰りに出会ったから、ティアとリーナさんはまだ会っていないのか。
それでもティアは、セラ姉の話とジルの様子から、だいたいの事情を察したようだ。僕と同じようにジトッとした目で、いまだに首を傾げている朴念仁を見上げている。
するとここで、アーダンがセラ姉にとんでもないことを言い出した。
「お前もよお、リーナみたいにこう、なんつーか、ちょっとは奥ゆかしい感じにできねーのか?···イッテー!!!」
「ちょっとあーたん、それは一体、どういうことかしら?」
セラ姉から、それまでは感じることができなかった魔力がわずかに漏れる。思わずビクッとなってしまうほどの濃度だ。
アーダン、君の勇気は忘れないよ。
短い間だったけど、会えて良かった。
そっと手を合わせる僕の隣で、ティアが呆れて「あやつ、アホだな···」と呟いた。
まずはやっぱりこれだ。
子ども時代のジルの話を聞いてみたい···!
ジルは、いつも穏やかで落ち着いていて優しくて、僕やティアに温かい愛情をたっぷり注いでくれる。口数は多くはないけど、大事なことはちゃんと言ってくれる。気遣い上手なのに鈍感なところがあって、料理が上手で格好いいけど、たまにファムたちにイジられることもあって可愛い。
一緒に暮らしていると、ジルの色んな側面を発見することができる。その度に大好きだなあと思うし、もっともっと知りたくなる。今のジルだけじゃなくて、昔のジルのことも。
ジルは多くを語るタイプじゃないから、本人から過去の話を聞いたことはあまりない。でも、他の人からなら色々聞けるかもしれない。
今は、その絶好のチャンスなんだ。
僕はジルにちょいちょいと手招きをして、小声で話す。
「せらね···せらおねーしゃんに、じるのむかしのこと、きいてもいい?」
僕は期待を込めて、キラキラした目でジルを見る。
数秒の沈黙の後、ジルはわずかに、ほんのかすかに頷いた。
眉間にちょっとシワが寄っているが、それでも頷いたことに変わりないよね!
ジル本人から、ばっちりしっかり許可を得たので、今度は大きな声でセラ姉にお願いする。
「せらおねーしゃん、じるのこと、もっとおちえてー!」
「あらあら、ジルのことが知りたいのね?可愛いわねえ」
気持ちが先走ってちょっと噛んでしまったが、セラ姉にはちゃんと伝わっていたようだ。
「ジルは自分のことをペラペラと話すタイプじゃないものねえ、そこの野蛮···あーたんと違って」
セラ姉がわざわざ言い直してアーダンをイジっている。「俺様の名はアーダン!アーダンガルだ!」という声が響いたが、「うるさいわねえ」とあえなく一刀両断されていた。
「そうねえ、性格は生まれたときからこんな感じよ?とにかく物静かで、顔の筋肉が全然動かないのよね。でも、感情がないわけではないの。昔からとっても優しかったわ」
うんう···ん?
ちょっと分かりづらかったが、きっとセラ姉は褒めているんだよね?
「えっと、ヴァーテマリーナに会ったことはあるかしら?青龍帝って呼ばれてるドラゴンなんだけど」
僕はコクリと頷く。
「りーなしゃん!」
「あらあら、それなら話が早いわね。リーナはジルよりも後に生まれた子なのよ。幼い頃はすぐに泣く子でね、正直、ドラゴンにしては体力もなかったし、弱かったの」
そうなのか。
リーナさんは建国の母としてソルツァンテで英雄視されているし、なにより龍帝だ。ソルツァンテのお祭りで見たリーナさんの魔法は、それはもう凄かった。
そんなリーナさんが、実は最初は弱かったなんて、ちょっとびっくりだ。
「それでね、リーナが泣いているときに、ジルがお菓子をあげたり魔法を教えたりして元気づけているのをよく見かけたわ。まあ、魔法を教えるというより、魔法を見せると言ったほうが正確だけどね」
おお、それはなんとなく想像できる!
ジルは面倒見がいいし優しいから、泣いているリーナさんを放っておけなかったのかな?
それに、ジルは教えることが苦手だから、ひたすら魔法を見せていたんだろうなというのも想像に難くない。
「ほら、ジルはあの無表情でしょう?だから最初はリーナがビクビクしていたんだけど、そのうち優しさに気づいたんでしょうね。いっつもジルのあとを追いかけるようになって。ウィルもリーナに会ったなら気づいてると思うけど、リーナがあんな感じになるのにそう時間はかからなかったわ」
あんな感じとは、もしかしなくても、恋する乙女状態ってことだろう。
リーナさんは本当にジルにゾッコンだよなあと思っていたが、セラ姉の話を聞いて納得する。
それは惚れる。
そんなことされたら、誰だって惚れてまうやろ。
でも、ジルはただの親切というか、もしかしたら親切とすら思っていなかった可能性だってある。
そう考えて思わずジトッとジルを見ると、案の定、ジルはちょっと首を傾げていた。
ああ、これはきっと、「あんな感じとは···?」とか思っているのだろう。
「リーナも大変な道を選んだわよね~。ほらあの子、奥手でしょう?なかなか距離が縮まらないのよねえ。まあ、見てるこちらは楽しいんだけど」
セラ姉、楽しんでらっしゃる。
でもまあ、僕もあのじれったい感じをちょっと楽しんでいる節はある。もちろん、応援もしているが。
「ワレはリーナとやらに会ったことはないが···少し気の毒なおなごなのだ」
あ、そうか。僕たちとティアはソルツァンテからの帰りに出会ったから、ティアとリーナさんはまだ会っていないのか。
それでもティアは、セラ姉の話とジルの様子から、だいたいの事情を察したようだ。僕と同じようにジトッとした目で、いまだに首を傾げている朴念仁を見上げている。
するとここで、アーダンがセラ姉にとんでもないことを言い出した。
「お前もよお、リーナみたいにこう、なんつーか、ちょっとは奥ゆかしい感じにできねーのか?···イッテー!!!」
「ちょっとあーたん、それは一体、どういうことかしら?」
セラ姉から、それまでは感じることができなかった魔力がわずかに漏れる。思わずビクッとなってしまうほどの濃度だ。
アーダン、君の勇気は忘れないよ。
短い間だったけど、会えて良かった。
そっと手を合わせる僕の隣で、ティアが呆れて「あやつ、アホだな···」と呟いた。
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