転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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最果ての森・成長編

111. 美味しさの秘訣

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 さあ、まずはどれから食べようか。食べたいものばかりで迷ってしまう。
 ···よし、気持ちを落ち着かせるためにも、ここはいつものサラダからいこう。

 ぱりぱり。
 しゃくしゃく。
 うまうま。

 いつ食べても、この採れたての瑞々しさが最高に美味しい。
 食材、特に鮮度が命の葉野菜を保存しておくのに、テム特製のマジックバッグはもはや必須だ。テムは本当にいい仕事をしてくれたと思う。

 ぱりぱり。
 しゃくしゃく。
 ああ、本当に美味しい。

 ···ふう。ちょっとは落ち着いたと思う。

 次は、うーん···。迷うけど、スープにしよう!

「これか?」

「うん、あいあとー!」

 僕が腕を伸ばすと、ジルがスープのお皿を取ってくれた。

 まず視線がいくのは、やはりこのふわふわの卵だ。琥珀色のスープを覆うように、ふんわりと浮かんでいる。
 それをスプーンで掬って口へ入れる。

 ああ、幸せ···!

 ふわっふわの卵が口の中で溶けるように解れ、含んでいたスープがにじみ出る。
 ベースとなったコンソメの味に、炒めたタマネギとニンジンから出た甘さ、それにトマトのほどよい酸味が見事に調和している。

 複雑な味のはずなのにまとまっているように感じるのは、おそらくこの卵のおかげだ。ふわふわとスープを覆っているように、味の面でもふんわりと全体をまとめてくれている。
 すべてのバランスがちょうどよくて、思わず目を瞑りながら味わいたくなるようなスープだ。

 もう一口だけ幸せを味わって、次はトウモロコシご飯を食べる。
 ふっくらと炊き上がった真っ白なお米と、トウモロコシの黄色い粒。もう、色からして優しい。
 そして湯気とともに立ち昇る香りに、優しさに包まれているような気分になる。

 ふうふうと息を吹きかけて食べやすい温度にしてから、パクッと食べる。

 あ、甘い···!

 トウモロコシが甘いのはもちろんだが、その優しい甘さをお米からも感じる。だからなのか、トウモロコシとお米っていう別々のものなのに、不思議と一体感があるというか、一緒に食べていてまったく違和感がないのだ。
 そういえば、炊くときにジルはトウモロコシの芯も一緒に入れていた。もしかして、芯から美味しいダシがとれるのだろうか。

 料理って面白いもので、ちょっとしたひと手間やひと工夫で、劇的に美味しくなることがある···っていうのを、前世のテレビ番組で聞いたことがある。
 トウモロコシの芯も、もしかしたらそれに当てはまるんじゃないだろうか。
 ジルにとっては手間でもなんでもないことかもしれないが、僕だったら実を切り落としたあとの芯は、そのまま捨てしまっていただろう。

 料理って、本当に面白い。
 そしてそれに気づかせてくれたジルに感謝だ。

 トウモロコシご飯をじっくりと味わってから、次の料理に視線を移す。そう、みんなで作ったハンバーグだ。

「ウィル、これ食ってみろよ!すっげー美味いぜ!」

 テムは真っ先にハンバーグを食べていた。気に入ったのか、2つ、3つとどんどん食べている。

 僕も負けじと大きく口を開けて食べる。

 ···思っていたよりもずっと柔らかい。
 やはりコカトリスのお肉は鶏肉の味と似ているけど、だからと言って淡白な味というわけではない。炒めた野菜の甘さも合わさっているからかもしれないが、優しい味だけど噛むほどに旨味を感じる、そんなお肉だ。

 それと、この香り。これはきな粉だ。大豆から粉末になったときからすでにいい香りはしていたが、こうして焼くことによって、香ばしさが増している気がする。
 今回はパン粉を使わなかったから、ハンバーグのつなぎとしての役割もあるのだろうか。

 正直、きな粉はお餅とか和風のスイーツに使うイメージしかなかったから、こんな使い方もできるのかと感心する。これも、ジルのちょっとした工夫だ。
 改めて、料理って面白いと思う。それと、やっぱりジルはすごい。

 今までの料理にも、きっと色んな手間や工夫が施されていたのだと思う。これからは、そういうことにもちゃんと気づいていけたらいいな。

「いつものジルの料理も美味しいけど、みんなで作った料理もすごく美味しいねー!」

 うんうん、ファムの言う通りだ。
 みんなと一緒に料理を作れてすごく楽しかったし、嬉しかった。きっとそういう気持ちも、料理の美味しさにつながっているんじゃないかと思う。
 
「どれも美味いのだ。ワレも早く料理に参加できるよう、魔法の練習を頑張るのだ!」

 ティアがふんすと鼻息をたてて気合を入れている。
 魔法の練習を頑張る理由が一つ増えたようだ。

 時折会話を楽しみながら、美味しい料理に舌鼓を打つ。
 いつの間にかジルはハンバーグ用のソースも作っていたようで、テムとファムが大喜びで味変を楽しんでいた。ティアも二人の食べっぷりに触発されたのか、これまで以上にモリモリ食べていた。


 みんなある程度食欲が満たされて、幸福感に浸る。

「美味しかったー!ぼくはね、ご飯がお気に入りなんだー!ふんわり甘くて優しくて、包み込みたいけど包み込まれたくなっちゃうよー」

 包み込みたいけど、包み込まれたい···?
 それって、比喩表現ではなく、文字通りトウモロコシご飯を包み込みたいし、トウモロコシご飯に包み込まれたいという意味だろう。

 当然ファムにしかできないことだが、なぜかテムがうんうんと頷いている。

「あー、それ分かるぜ!」

 え、テム、分かっちゃうの?

「ほんとー?嬉しいなー!きっとどっちも、とっても幸せな気分になれると思うんだー!」

 ···いや、僕もね、分からんでもないんだよ?
 ただね、ファム以外の場合、文字通りというわけにはいかないんだ。

「オレはこの肉がいいぜ!なんか香りもいいしよ、一緒に寝たら、幸せな夢を見そうだと思わねーか?」

 今度はファムがポヨポヨし始めた。

「あはは!分かるー!」

 ああ、分かっちゃうんだね、ファム。
 
 いやいや、僕も分からんでもないんだよ?
 ただね、ハンバーグと一緒に寝るのはどうかなって、僕は思うんだ。

「ふむ···ならばワレはこのスープがよいのだ」

 ちょ、ちょっとティア!
 君も参加しちゃうの!?

「この複雑で繊細な味わいと、それぞれの食材の食感。そのどれもが絶妙で、奥深いものを感じるのだ。これを浴びるほど食べれば、何か魔法の極意に目覚めそうな気がするのだ···」

 ティアは、決まった···と言いたげにドヤ顔をしている。

「あははは!ティア、面白いねー!よく分からないけど、分かるー!」

「なんか難しいけどよ、オレもそんな気がするぜ!」

 二人とも、絶対分かってないよね!?
 分かってないのに、同意してるよね!?

 ···はっ!
 ジル!まさか、まさか参加したりしないよね!?

 僕がバッとジルを見ると、ジルは首を傾げていた。

「俺は···」

 だ、だめだよ!
 絶対わけ分かんなくなるから!

 ブンブンと首を横に振っていると、ジルと目が合った。残りのアレ、言っちゃだめだよと視線で訴える。
 よし、これでジルなら察してくれるはず!

「···ああ、ウィルはサラダが良かったか?」

 ちっがーう!!!
 いや、サラダはいつも美味しいんだけどさ!
 でもね、サラダに包まれたいとか、サラダと一緒に寝たいとか、サラダを食べると魔法の極意に目覚めそうとか思ったりしないよ!

 ああ、なんだか、どっと疲れた。もう、サラダがゲシュタルト崩壊を起こしそうだ。
 ライがいてくれたら···いや、ライもたまに悪ノリするからな···。 

「あれー?ウィルくん、眠たくなっちゃったー?」

 ガックリと肩を落としている僕を見てファムが言う。
 ···さてはファム、全部分かってて言っているな。この、乳白色の小悪魔め。ポヨポヨしちゃって、可愛いじゃないか。

「ワレも、たらふく食べて眠くなってきたのだ」

「今日は早く寝るか?」

「おう、そうしよーぜ!」

 ファムの言葉で、ティアも眠気を自覚する。なんだかんだ、僕も眠気を感じている。
 ウトウトし始めた僕とティアを見て、ファムが声をかけてきた。

「それなら、今日はもう帰ろうかなー。ジル、ウィルくん、ティア、今日も楽しかったー!明日から、魔法の練習、一緒に頑張ろうねー!」

「お、そうだったな!楽しみだぜ!そんじゃ、また明日な!」

 ···そうだった。
 すっかり頭から抜け落ちていたが、明日からしばらくはこの天才二人組と一緒に魔法の練習をするんだった。

「うむ、強くなるためにも、よろしく頼む···のだ···」

 ティアがそう言い残して寝落ちする。

「ふぁむ、てむ、またあちた。おやしゅみー」

 二人にばいばいと手を振って、僕もジルにベッドへと運んでもらう。

「おやすみ」

「おやしゅみ」

 ジルが僕の頭とティアをそっと撫でて、部屋を出た。

 明日からも、騒がしくも楽しい日々になりそうだ。

 ちょっと眠いけど、念の為、今のうちに現在のステータスを確認してから寝るとしよう。
 そう思ってステータスを開く。

 ···よかった、前回確認したときと同じだ。

 ほんのちょっとだけ、不安だったのだ。もしかしたら、称号に『絶世の美幼女』が追加されているんじゃないかって。でもそんなことはなくて、ほっとする。
 
 そういえば、称号が追加される条件ってなんだろうか。 
 ライが持ってきてくれた本のどれかに書いてあっただろうか。明日確認してみよう。書かれていなければ、ライが調査から帰ってきたら聞いてみようかな。

 あ、明日は天才二人組と魔法を練習するんだった。
 どんな魔法を練習しようか。確か、テムが魔法を教えるって言ってたよね。···まあ、危ないことにはならないはずだ。

 寝る前に色々考えてしまった。早く寝て、明日に備えなきゃ。できることなら、今夜はいい夢を見て幸せな気持ちで心を満たしたい。
 
 ···やっぱり、枕元にハンバーグを置くべきだっただろうか。





 名前:ウィル

 種族:人族ヒューマン
 年齢:1
 レベル:57

 スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知、テイム
 魔法:火属性魔法(初級)
    水属性魔法(初級)、氷属性魔法(初級)
    土属性魔法(初級)
    風属性魔法(初級)
    光属性魔法(初級)
    火柱フレイム火波ファイアウェーブ洪水フラッド突風ブラスト雷撃ライトニング
 耐性:熱冷耐性

 加護:リインの加護
 称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
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