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知らない場所
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ピチャン……ピチャン……。
心地良いリズムで滴る水の音が俺の意識を呼び戻した。
「ここは……」
雑多に置かれた机やロッカー、薄汚れたベッドも並んでいる。
空のペットボトルやペンチなどの工具が散乱し、まるで統一感のない建物の中。
天井は高く、学校の体育館ぐらいある。
窓は天井近くに等間隔で並んでいるだけで薄暗い。
まったく見覚えのない場所だ。
俺はなんでこんな場所で目覚めた?
確か学校帰りに皆でカラオケに行こうと約束し、教室に忘れ物を取りに行った後、皆を追いかけて校門を出た所までは覚えている。
「うっ」
痛みを感じた場所、後頭部に手をあてると少し湿っているのが分かった。
血だ。
何かで殴られて気を失っていたのか?
「なんだ、生きてたのか」
俺に向けられたのだろうか、荒々しく低い声のした方向に顔を向けるとアロハシャツに短パン、サンダルの男がガムをくちゃくちゃと噛みながら机の上に片膝を立てて座っている。
「これで全員目が覚めたな、で? お前は何か知っているのか?」
どんなに記憶を辿ってもまったく面識のないその男は、そう続けて俺に問いかけた。
全員?
辺りを見回すと、他にも人が居るのが分かった。
互いに距離を取って不安げな表情を浮かべている。
6、7……俺を含めて8人、女の人も居る。
「どうみても知るわけないって顔じゃない、この子も拐われてきたんでしょうよ」
スーツスカートの年配の女性が、考えがまとまらない俺の代わりに返答してくれた。
拐われた? 誘拐ってことか?
「大丈夫か君、血が出ているようだ。さぁこのハンカチで拭きなさい」
互いに警戒し合う中で、距離を縮めてきたのは初老の男の人だった。
「あ、ありがとうございます」
祖父くらいの年齢だからだろうか、温厚そうな表情に俺は素直に気配りを受け入れた。
「どうなってんだよ、どこにも出口ねぇし。スマホも無くなってる。どこの誰だよこんな場所に連れてきやがって、用があんならさっさと顔を出しやがれ、くそがっ」
アロハシャツの大声が天井に虚しく反響した。
俺が気を失っている間に皆で色々と考察を行ったのだろうか、みんなの酷く疲れた表情から諦めと落胆が見てとれた。
俺の鞄も見当たらない、もちろんポケットにスマホはなかった。
クラスメイトのイタズラか、テレビのドッキリ企画かもしれない。そんな思考には至らない緊張感がこの場を支配している。
天井近くの窓は赤く染まっている。もう夕方なのだろうか。
頭を殴られたのに妙に思考がスッキリとしていて自分が落ち着いているのが怖くもあり頼もしくもあった。
もっと情報が必要だ。今は無理に口を開かない方が良い。
変な言葉は、状況を悪化させる可能性がある。
考えよう。
なぜ俺は誘拐された?
身代金?
母子家庭の俺を?
誰か別の人物と勘違いしたのか?
いいや、違う。
身代金目当てなら、こんなに不特定多数の人達を同じ場所に集める必要はない。
しかも、接点のなにもなさそうで年齢もバラバラな男女だ。
なにか別の目的があって集められたんだ。
このメンバーで何かをさせようってこと?
……分からない、こんな老若男女8人を集めて一体なにを?
「あのう、俺、皐月東吾って言います。高三です。これからみんなで自己紹介しませんか?」
俺は立ち上がり、しっかりと前を向いてそう言った。
まずはこの緊張感をどうにかしたい。
みんなの素性を知れば、なにか手掛かりが見つかるかもしれない。
「馬鹿かお前。こんな状況で個人情報晒すかよ」
アロハシャツが、チャチャを入れてきた。
「でも、なにも分からないんじゃ動きようが……」
「あれを見ろ」
俺の言葉を遮って、アロハシャツは天井を指差した。
「カメラ?」
窓から差し込む日差しに目を奪われていて気が付かなかった。
天井や壁には無数のカメラが設置されている。
球体型や防犯カメラのような頑丈そうな物まで大小様々なカメラが俺達を追っている。
建物の中央付近には大型のモニターもぶら下がっていた。
「どうやら撮られているみたいでね」
ハンカチを貸してくれた初老の男性が声をかけてくれた。
「なにかの撮影ってことですか? ドッキリですかね?」
テレビかYouTubeの企画。
思考から除外していた安易な状況。
不安を払拭するにはそれが一番望ましい理由だ。
「分からない。でも彼の言う通り、あまりプライベートなことは喋らない方がいいのかもしれないね。君は語ってしまったが」
初老の男性の声は、とても優しく俺の不安をさらに和らげてくれる。
「別に気にしません。知られてどうなるような身分でもないですし」
「そうか、実に芯がしっかりしていて気持ちが良いね。
なら私も自己紹介をしておくとしよう、私の名前は......」
♪
初老の男性の言葉を遮り、あまり聞きなれない旋律が流れてきた。
「なにこの音楽、なんか気持ち悪い」
女性の一人が呟いた。
フランス語? だろうか、メロディーに乗って歌声も響く。
「これは、セ・トゥ・マミですね」
初老の男性が顎に手をあてて言う。
「有名な曲なんですか?」
「ええ、イタリアの作曲家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージのオペラ曲です」
「へぇ~」
有名なのだろうか……聞いたこともないから適当に相槌を打って、それ以上は何も聞かなかった。
『これから皆様には、生かし合いのゲームをして頂きます』
音楽が鳴りやむと、今度は天井付近から大きな声が響いた。
見上げると、綺麗に整った顔立ちの女性が映っていた。
あまりに綺麗な輪郭、不自然に整いすぎている顔のパーツ。
それが作られた顔、アバターだということは、遠目からでもすぐに分かった。
心地良いリズムで滴る水の音が俺の意識を呼び戻した。
「ここは……」
雑多に置かれた机やロッカー、薄汚れたベッドも並んでいる。
空のペットボトルやペンチなどの工具が散乱し、まるで統一感のない建物の中。
天井は高く、学校の体育館ぐらいある。
窓は天井近くに等間隔で並んでいるだけで薄暗い。
まったく見覚えのない場所だ。
俺はなんでこんな場所で目覚めた?
確か学校帰りに皆でカラオケに行こうと約束し、教室に忘れ物を取りに行った後、皆を追いかけて校門を出た所までは覚えている。
「うっ」
痛みを感じた場所、後頭部に手をあてると少し湿っているのが分かった。
血だ。
何かで殴られて気を失っていたのか?
「なんだ、生きてたのか」
俺に向けられたのだろうか、荒々しく低い声のした方向に顔を向けるとアロハシャツに短パン、サンダルの男がガムをくちゃくちゃと噛みながら机の上に片膝を立てて座っている。
「これで全員目が覚めたな、で? お前は何か知っているのか?」
どんなに記憶を辿ってもまったく面識のないその男は、そう続けて俺に問いかけた。
全員?
辺りを見回すと、他にも人が居るのが分かった。
互いに距離を取って不安げな表情を浮かべている。
6、7……俺を含めて8人、女の人も居る。
「どうみても知るわけないって顔じゃない、この子も拐われてきたんでしょうよ」
スーツスカートの年配の女性が、考えがまとまらない俺の代わりに返答してくれた。
拐われた? 誘拐ってことか?
「大丈夫か君、血が出ているようだ。さぁこのハンカチで拭きなさい」
互いに警戒し合う中で、距離を縮めてきたのは初老の男の人だった。
「あ、ありがとうございます」
祖父くらいの年齢だからだろうか、温厚そうな表情に俺は素直に気配りを受け入れた。
「どうなってんだよ、どこにも出口ねぇし。スマホも無くなってる。どこの誰だよこんな場所に連れてきやがって、用があんならさっさと顔を出しやがれ、くそがっ」
アロハシャツの大声が天井に虚しく反響した。
俺が気を失っている間に皆で色々と考察を行ったのだろうか、みんなの酷く疲れた表情から諦めと落胆が見てとれた。
俺の鞄も見当たらない、もちろんポケットにスマホはなかった。
クラスメイトのイタズラか、テレビのドッキリ企画かもしれない。そんな思考には至らない緊張感がこの場を支配している。
天井近くの窓は赤く染まっている。もう夕方なのだろうか。
頭を殴られたのに妙に思考がスッキリとしていて自分が落ち着いているのが怖くもあり頼もしくもあった。
もっと情報が必要だ。今は無理に口を開かない方が良い。
変な言葉は、状況を悪化させる可能性がある。
考えよう。
なぜ俺は誘拐された?
身代金?
母子家庭の俺を?
誰か別の人物と勘違いしたのか?
いいや、違う。
身代金目当てなら、こんなに不特定多数の人達を同じ場所に集める必要はない。
しかも、接点のなにもなさそうで年齢もバラバラな男女だ。
なにか別の目的があって集められたんだ。
このメンバーで何かをさせようってこと?
……分からない、こんな老若男女8人を集めて一体なにを?
「あのう、俺、皐月東吾って言います。高三です。これからみんなで自己紹介しませんか?」
俺は立ち上がり、しっかりと前を向いてそう言った。
まずはこの緊張感をどうにかしたい。
みんなの素性を知れば、なにか手掛かりが見つかるかもしれない。
「馬鹿かお前。こんな状況で個人情報晒すかよ」
アロハシャツが、チャチャを入れてきた。
「でも、なにも分からないんじゃ動きようが……」
「あれを見ろ」
俺の言葉を遮って、アロハシャツは天井を指差した。
「カメラ?」
窓から差し込む日差しに目を奪われていて気が付かなかった。
天井や壁には無数のカメラが設置されている。
球体型や防犯カメラのような頑丈そうな物まで大小様々なカメラが俺達を追っている。
建物の中央付近には大型のモニターもぶら下がっていた。
「どうやら撮られているみたいでね」
ハンカチを貸してくれた初老の男性が声をかけてくれた。
「なにかの撮影ってことですか? ドッキリですかね?」
テレビかYouTubeの企画。
思考から除外していた安易な状況。
不安を払拭するにはそれが一番望ましい理由だ。
「分からない。でも彼の言う通り、あまりプライベートなことは喋らない方がいいのかもしれないね。君は語ってしまったが」
初老の男性の声は、とても優しく俺の不安をさらに和らげてくれる。
「別に気にしません。知られてどうなるような身分でもないですし」
「そうか、実に芯がしっかりしていて気持ちが良いね。
なら私も自己紹介をしておくとしよう、私の名前は......」
♪
初老の男性の言葉を遮り、あまり聞きなれない旋律が流れてきた。
「なにこの音楽、なんか気持ち悪い」
女性の一人が呟いた。
フランス語? だろうか、メロディーに乗って歌声も響く。
「これは、セ・トゥ・マミですね」
初老の男性が顎に手をあてて言う。
「有名な曲なんですか?」
「ええ、イタリアの作曲家、ジョヴァンニ・バッティスタ・ペルゴレージのオペラ曲です」
「へぇ~」
有名なのだろうか……聞いたこともないから適当に相槌を打って、それ以上は何も聞かなかった。
『これから皆様には、生かし合いのゲームをして頂きます』
音楽が鳴りやむと、今度は天井付近から大きな声が響いた。
見上げると、綺麗に整った顔立ちの女性が映っていた。
あまりに綺麗な輪郭、不自然に整いすぎている顔のパーツ。
それが作られた顔、アバターだということは、遠目からでもすぐに分かった。
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