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連載
225-1.
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食後、ダリアが『初めての簡単な料理』の本をぱらぱらめくっていると、ぺたぺたとエトワが近づいてきた。
顔を上げて見ると、その両腕には本が抱えられている。
表紙に書かれている大きな絵。
子供用の絵本だ。いったいどこから持ってきたのか。
「あう!」
それをダリアに突き出して、いつもの「あう」と言うエトワに、ダリアは何を言いたいか察した。
「まさか、私に読んで欲しいっていうの……?」
エトワはこくこくと頷く。
なんで私がそんなことを……、そう思った空いた時間を退屈に感じてたのも確かだった。
洗濯と料理を終えてしまうと特にやることがない。
それは今までの生活でも同じはずだった。
けど、どうやってそういう時間を潰して過ごしていたのか、今となってはいまいち思い出せない。
ただクロスウェルが来るのを待って、漫然と……ずっと漠然と過ごしていた気がする。
やることができてしまうと、逆にそれ以外の時間が退屈に感じるものなのだろうか。
ダリアはため息を吐いて、エトワの手から本を取った。
本を読んでやるとエトワは機嫌良さそうに笑っていた。
***
料理の準備中、嬉しそうに纏わりついてくるエトワを、たまにぐいぐいっと引き離しながら、料理の準備をするダリアはため息を吐いた。
この後、食事の準備が済んだら、
食事の準備が済んだら、この後は洗濯をしなければいけない。その後は暇だとはいえ、これがずっと続くなんてうんざりする作業だ。使用人たちはよくこんなことを毎日繰り返せたと思う。
それでも今はダリアがやるしかない。貴族の貴婦人として、汚い格好をするのはもっと嫌なのだから。
魔石式のコンロに手際よく火をつけて思う。
(便利ね……洗濯もこんな風に魔法の力でできたらいいのに……)
そのとき、あれっと頭に疑問符が浮かんだ。
少しの思考停止のあと、ダリアは無言のまま、不恰好にしか切れてない野菜を置いて、洗濯場の方に向かう。エトワも意味もなくついてきた。
洗濯場に重なる洗濯物。今日はシーツもあるから重労働だった。
そこでダリアは魔法を発動させた。
貯水場から生き物のように水が飛び出し、桶に入っていく。
それからダリアは洗濯物を桶に投げ入れて、石鹸をひとかけら入れる。
そしてもう一度魔法を発動させると、桶の中の水が渦のように周る。
今まで一生懸命、手で揉み足で踏みしていたのが信じられないように汚れが落ちていく。
それからも水はダリアの魔法に従い、独りでに動いて洗濯物をすすぎ、すすぎ終わると、自らをぎゅっと絞って洗濯物から流れ出て、十分ほどで綺麗になった洗濯物ができた。
あっさりと出来てしまった洗濯済みの洗濯物をみて、ダリアは少し呆然となる。
その横でエトワは手をぱちぱちと何度も叩いていた。
今まで苦労していたことが、あっさりと解決してしまった。
洗濯物を干しながら、ダリアはちょっと自分に呆れたように笑う。
(そういえば魔法もずっと使ってなかったわね……こんな簡単にできることさえ忘れちゃうなんて……)
魔法なんて自分にとっては、物心ついたときから身近にあったものだった。なのに、それを使うことすら思いつかなかった。
今までの自分がどれだけ呆けて過ごして、鈍ってしまっていたのか……そんなことにやっと気づく。
***
一度、魔法を使うという発想を取り戻すと、できることは他にもあった。
ここ数日うまく使いこなせなかった包丁。切った野菜はどれも不恰好で、危うく何度かは指を切るところだったが、それも魔法を使えば大丈夫だ。
水のカッターがスパスパと切り裂いてみせる。
それを見たエトワがまた拍手するので、ダリアはちょっと自慢げな気分になった。
それでもいざ本番の料理となるとうまくいかない。
形の崩れたオムレツもどきを、ダリアはため息を吐きながら口に運んだ。
味も決してよくない。コックたちが作ってるものに比べたら雲泥の差だろう。
なのに目の前のエトワは、今日もそれが世界で一番のごちそうのように嬉しそうに食べてるのだ。よくわからない。
食事が終わると、また暇な時間がやってくる。
予想通りというか、とことことエトワがまた部屋にやってきた。
またどこからか見つけてきたのか、絵本を持っている。
仕方ない、読んでやるか、そう思っていたらエトワの目が、別の方に向いた。
その方向を見ると、小さめの肖像画があった。ダリアとクロスウェル、二人が並んでいる肖像。結婚したときに描いてもらったものだ。
エトワは本を置いて、肖像画に駆け寄りそれを手に取った。
「あうあう」
「……何が言いたいの?」
普段なら勝手に手に取らないでよ、と怒るところだけど、不思議と不快感はなかった。
「あうー」
肖像画に描かれているダリアとクロスウェルを交互に指で差して、エトワはダリアに何かを伝えようとする。
それを見て、ピンときた。
「もしかして私とクロスウェルの話が聞きたいってこと?」
そう聞くと、エトワはこくこくと頷いた。
「ふふん、じゃあ話してあげる」
ダリア自身もそれを話したそうに、機嫌良さそうに笑って、エトワの頼みに応じた。
エトワは部屋の椅子に座って、ダリアの話を聞き入る体勢に入る。
「そうね、何から話そうかしら……。まずはクロスウェルさまとの出会いからね。私たちの世代は、ウンディーネ公爵家のヤーチェさまはもう卒業されていて、他にも高位貴族の中でもさらに特別とされる家系の子供たちは男児だけ、つまり私たち女子にとっては穴場の世代だったの。その中で、ウンディーネ家の方がいない以上、女子たちの中で一番きれいで一番可愛かったのが私、入学したばかりのケルビン=ダリアよ!」
ダリアは誇らしげにそう言って、エトワにルーヴ・ロゼに入学したばかりのころの自分の話を語り聞かせはじめた。
※すみません、更新すると近況ノートで言ってたのに大幅にずれこんですみません。
ちょっと限界なので短いのですが投稿させていただきます。
伸ばしてる間に全然進めたいところ進まなくて、ちょっと次回と続く話になるので分割みたいなかたちにして次は225-2にさせてください。
数字がずれるのが嫌な方がいましたら通常通りにナンバリング振りなおします。
今週の日曜については予定通り更新目指します。安定した更新できずに申し訳ありません。
実は今回の更新で告知したいことがあったのですが、ちょっとこれ完成するまでは告知するのもあれだなということで
今週の日曜がんばって更新して、そのあとに告知などもさせていただけたらと思います。
近況や感想欄に励ましやお叱りなどの感想ありがとうございます。返信などものちほどさせていただけたらと思います。
顔を上げて見ると、その両腕には本が抱えられている。
表紙に書かれている大きな絵。
子供用の絵本だ。いったいどこから持ってきたのか。
「あう!」
それをダリアに突き出して、いつもの「あう」と言うエトワに、ダリアは何を言いたいか察した。
「まさか、私に読んで欲しいっていうの……?」
エトワはこくこくと頷く。
なんで私がそんなことを……、そう思った空いた時間を退屈に感じてたのも確かだった。
洗濯と料理を終えてしまうと特にやることがない。
それは今までの生活でも同じはずだった。
けど、どうやってそういう時間を潰して過ごしていたのか、今となってはいまいち思い出せない。
ただクロスウェルが来るのを待って、漫然と……ずっと漠然と過ごしていた気がする。
やることができてしまうと、逆にそれ以外の時間が退屈に感じるものなのだろうか。
ダリアはため息を吐いて、エトワの手から本を取った。
本を読んでやるとエトワは機嫌良さそうに笑っていた。
***
料理の準備中、嬉しそうに纏わりついてくるエトワを、たまにぐいぐいっと引き離しながら、料理の準備をするダリアはため息を吐いた。
この後、食事の準備が済んだら、
食事の準備が済んだら、この後は洗濯をしなければいけない。その後は暇だとはいえ、これがずっと続くなんてうんざりする作業だ。使用人たちはよくこんなことを毎日繰り返せたと思う。
それでも今はダリアがやるしかない。貴族の貴婦人として、汚い格好をするのはもっと嫌なのだから。
魔石式のコンロに手際よく火をつけて思う。
(便利ね……洗濯もこんな風に魔法の力でできたらいいのに……)
そのとき、あれっと頭に疑問符が浮かんだ。
少しの思考停止のあと、ダリアは無言のまま、不恰好にしか切れてない野菜を置いて、洗濯場の方に向かう。エトワも意味もなくついてきた。
洗濯場に重なる洗濯物。今日はシーツもあるから重労働だった。
そこでダリアは魔法を発動させた。
貯水場から生き物のように水が飛び出し、桶に入っていく。
それからダリアは洗濯物を桶に投げ入れて、石鹸をひとかけら入れる。
そしてもう一度魔法を発動させると、桶の中の水が渦のように周る。
今まで一生懸命、手で揉み足で踏みしていたのが信じられないように汚れが落ちていく。
それからも水はダリアの魔法に従い、独りでに動いて洗濯物をすすぎ、すすぎ終わると、自らをぎゅっと絞って洗濯物から流れ出て、十分ほどで綺麗になった洗濯物ができた。
あっさりと出来てしまった洗濯済みの洗濯物をみて、ダリアは少し呆然となる。
その横でエトワは手をぱちぱちと何度も叩いていた。
今まで苦労していたことが、あっさりと解決してしまった。
洗濯物を干しながら、ダリアはちょっと自分に呆れたように笑う。
(そういえば魔法もずっと使ってなかったわね……こんな簡単にできることさえ忘れちゃうなんて……)
魔法なんて自分にとっては、物心ついたときから身近にあったものだった。なのに、それを使うことすら思いつかなかった。
今までの自分がどれだけ呆けて過ごして、鈍ってしまっていたのか……そんなことにやっと気づく。
***
一度、魔法を使うという発想を取り戻すと、できることは他にもあった。
ここ数日うまく使いこなせなかった包丁。切った野菜はどれも不恰好で、危うく何度かは指を切るところだったが、それも魔法を使えば大丈夫だ。
水のカッターがスパスパと切り裂いてみせる。
それを見たエトワがまた拍手するので、ダリアはちょっと自慢げな気分になった。
それでもいざ本番の料理となるとうまくいかない。
形の崩れたオムレツもどきを、ダリアはため息を吐きながら口に運んだ。
味も決してよくない。コックたちが作ってるものに比べたら雲泥の差だろう。
なのに目の前のエトワは、今日もそれが世界で一番のごちそうのように嬉しそうに食べてるのだ。よくわからない。
食事が終わると、また暇な時間がやってくる。
予想通りというか、とことことエトワがまた部屋にやってきた。
またどこからか見つけてきたのか、絵本を持っている。
仕方ない、読んでやるか、そう思っていたらエトワの目が、別の方に向いた。
その方向を見ると、小さめの肖像画があった。ダリアとクロスウェル、二人が並んでいる肖像。結婚したときに描いてもらったものだ。
エトワは本を置いて、肖像画に駆け寄りそれを手に取った。
「あうあう」
「……何が言いたいの?」
普段なら勝手に手に取らないでよ、と怒るところだけど、不思議と不快感はなかった。
「あうー」
肖像画に描かれているダリアとクロスウェルを交互に指で差して、エトワはダリアに何かを伝えようとする。
それを見て、ピンときた。
「もしかして私とクロスウェルの話が聞きたいってこと?」
そう聞くと、エトワはこくこくと頷いた。
「ふふん、じゃあ話してあげる」
ダリア自身もそれを話したそうに、機嫌良さそうに笑って、エトワの頼みに応じた。
エトワは部屋の椅子に座って、ダリアの話を聞き入る体勢に入る。
「そうね、何から話そうかしら……。まずはクロスウェルさまとの出会いからね。私たちの世代は、ウンディーネ公爵家のヤーチェさまはもう卒業されていて、他にも高位貴族の中でもさらに特別とされる家系の子供たちは男児だけ、つまり私たち女子にとっては穴場の世代だったの。その中で、ウンディーネ家の方がいない以上、女子たちの中で一番きれいで一番可愛かったのが私、入学したばかりのケルビン=ダリアよ!」
ダリアは誇らしげにそう言って、エトワにルーヴ・ロゼに入学したばかりのころの自分の話を語り聞かせはじめた。
※すみません、更新すると近況ノートで言ってたのに大幅にずれこんですみません。
ちょっと限界なので短いのですが投稿させていただきます。
伸ばしてる間に全然進めたいところ進まなくて、ちょっと次回と続く話になるので分割みたいなかたちにして次は225-2にさせてください。
数字がずれるのが嫌な方がいましたら通常通りにナンバリング振りなおします。
今週の日曜については予定通り更新目指します。安定した更新できずに申し訳ありません。
実は今回の更新で告知したいことがあったのですが、ちょっとこれ完成するまでは告知するのもあれだなということで
今週の日曜がんばって更新して、そのあとに告知などもさせていただけたらと思います。
近況や感想欄に励ましやお叱りなどの感想ありがとうございます。返信などものちほどさせていただけたらと思います。
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