公爵家に生まれて初日に跡継ぎ失格の烙印を押されましたが今日も元気に生きてます!

小択出新都

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235.

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「ふ~ん、平民の学校ではそんな授業をやってるのね」

 今日はお休みの日、パイシェン先輩と買い物にでかけちゃったりなんかしています。
 一緒に劇を観た帰りに、お洋服のお店に寄ってショッピング。とはいっても、パイシェン先輩は既製品は基本的に買わないから見るだけ(ファッションの参考にしたりはするらしい)。ウィンドウショッピングしながら話してたら、冒険者学校の話題になった。

「はい。遂に私も冒険者として一歩を踏み出すことになりました。必ずや成功させてみせます!」

 フライングしちゃったこともあったけど、はじめての自力での依頼に結構燃えてる私だった。そんな私をパイシェン先輩は、ちょっと呆れた目で見る。

「あんた本気で冒険者になるつもりなの……? エトワ商会とアルミホイルの特許があるんだから、別に無理してお金を稼ぐ必要もないんでしょう?」

 そう言われても……。そういう不労所得だけで暮らしていくのは、何となく罪悪感があるんだよねぇ……手に職が欲しいというか。
 何よりほら。

「浪漫があるじゃないですか、冒険者生活」
「理解できない」

 パイシェン先輩は私の言葉に、額を押さえて首を振る。
 私とパイシェン先輩では感性が違いすぎるようだった。でも、今日おススメした劇は、まあまあ良かったと言ってもらえたし。いつか、分かってもらえる日がくるかもしれない。

「えへへぇ」
「何、いきなり締まりのない顔で笑い出すのよ。気持ち悪いわね」
「いやぁ、パイシェン先輩とこんな感じで話をするのも久しぶりだなぁって」

 パイシェン先輩が中等部に行ってからは、休日にたまに会ったりするぐらいになってた。けど、それもセイフォールとの学校交流や私の行方不明事件のせいで間が空いてしまっていた。

「あんたが行方不明になるのが悪いのよ。まあ、あんたのことだから、そのうちひょっこり戻ってくると思ってたけど……一応、心配したんだからね」
「……そ、そうだったんですか」

 普段、私にもツンとしているパイシェン先輩だから、いきなり素直になられると、なんか私も照れくさくなってしまう。でも、嬉しい気持ちだ。

「えっへへ、パイシェン先輩、中等部生活うまくいってますか?」
「はぁ? あたしを誰だと思ってるの。ニンフィーユ家の次期当主、パイシェン・ニンフィーユよ。あんたが近くで問題起こさない分、私生活も貴族としての活動も何もかも全てが順調よ」
「そうですか、でも身長はあんまり伸びてませんね」

 パイシェン先輩の身長は、中等部一年生、元の世界でいうと小学六年生ぐらいの年頃なのに、小学四年生の私とあまり変わらない。

「それは、こ、れ、か、ら、伸びるのよ! これからなの、私は!」

 それを指摘した途端、般若の形相になったパイシェン先輩の手が伸びてきて、思いっきり頬をつねられた。

「あだだだだ、ごめんなしゃいっ、わだしもパイシェンしぇんぱいはこれからだと思いまふ!」
「本気でそう思ってるの?」
「はい、パイシェン先輩は将来、高身長で役者体型の美人になること間違いなしです」
「バカ言うんじゃないわよ。そこらの役者なんて足元にも及ばないぐらいの美人になるわよね」
「はい、その通りでございます」
「ふんっ、買い物続けるわよ」

 なんとか怒りを鎮めてくれたようで、またショッピングを再開してくれる。
 身長のことはかなり気にしてるようだから、もう指摘しないようにしようと私は心に誓った。

「ふーん、この服はなかなか光るものがあるじゃない。今度、目にかけてる仕立て屋に作らせてみようかしら」

 パイシェン先輩はお店の中の見本に光るものを見つけたようだ。見本に近づいて、じっくり観察をはじめる。買う気ゼロだけど、お店の人に迷惑がられることはない。パイシェン先輩みたいな貴人は、お店に入ってくれるだけで宣伝に繋がるからだ。
 だから、先程から、店主さんと思わしき女性が、遠くからありがたそうにパイシェン先輩のことを眺めている。近づく気は見られない。不敬なんかあったら困るもんね。

 私もパイシェン先輩ほどのファッションセンスはないので、遠巻きに眺める。
 すると、背中から声がかかった。

「あら、エトワじゃない。こんな店で会うなんて。冒険の準備は進んでるの?」

 視界を後ろに向けると、エルフィスちゃんだった。
 ここは平民向けだけど、そこそこ裕福な人向けのお店なので、エルフィスちゃんもよく来るのかもしれない。

「冒険の準備は進行中なのでご心配なく! 今日は先輩と買い物に来てるのですよ」
「先輩? あんたの?」

 エルフィスちゃんはそう聞いて目をパチクリしたあと、少し笑いながら言った。

「あんたと一緒に買い物するほど気が合うなんて、その先輩とやら、随分と間の抜けた性格してるんでしょうね、あんたと同じで——」
「あら、エルフィスじゃないの?」

 いつもの毒舌を発揮しはじめたエルフィスちゃんに、パイシェン先輩から声がかかった。

「えっ——」

 その声を聞いて、こちらに振り返った先輩の顔を見た瞬間、エルフィスちゃんが硬直する。

「あれ、パイシェン先輩お知り合いでしたか?」
「ええ、しばらく前から屋敷に出入りしている商人の娘よ。確か祖父の代で冒険者をやってお金を貯めて、そこから商人として身を立てたのだったかしら」

 パイシェン先輩は使用人や関わる人のプロフィールを何かと暗記してたりする。
 エルフィスちゃんは剣の名家の商家とわかりにくいプロフィールを名乗ってたけど、なるほど、そういうことだったのか。

 エルフィスちゃんは先程までの勢いをなくし、青い顔をして、私の肩をつついた。

「ねえねえ、エトワ、なんでここにパイシェン様がいるの……?」
「うーん、たぶん私と買い物に来たからだろうかねぇ……」

 エルフィスちゃんに酷な事実に、私もはっきりと言うのはためらわれた。

「じゃあ、あんたの先輩っていうのは……」
「うん、もしかしたらパイシェンさまだねぇ……」

 次の瞬間、エルフィスちゃんの体がガクガクと震えだした。
 そのまま地面に倒れこみそうになるのを、私が慌てて支える。というか、倒れたがってるのか、土下座したがってるのか、顔が真っ青すぎて分からない。

「どうしよう、私、今日で死ぬかもしれない……それか家が取り潰されるかも……」

 こんなエルフィスちゃん見るのはじめてだ。自分が死ぬのと、家が潰れるのが同列にくるあたり、まあまあ家族想いだ……。

「だいじょうぶだよ、聞こえてないか、気にしてないと思うよ~。ほら、パイシェン先輩、ぜんぜん怒ってないし」

 三年間一緒にいた私が見るところによると、パイシェン先輩はぜんぜん怒ってなかった。身長がのびてないことを指摘したときとは全然違う。
 目の前でひそひそ話す私たちの姿を見て、パイシェン先輩は呆れたように言う。

「気にしてないのよ。あんた絡みで受ける中傷に、いちいち怒っても仕方ないしね」

 どうやらきっちり聞こえてはいたらしい。まあそうなりますよね。

「ほら、大丈夫だって。気にしてないってよ~」
「だだだだ大丈夫じゃないわよ。あたし、パイシェンさまになんてことを、いやあああああああ」

 エルフィスちゃんは完全に自分のやったことに恐慌状態だった。その割には謝れないし、パイシェン先輩に返事すらできない。
 人間罪悪感が限界突破したときは謝ることすらできない。そんな状態を象徴しているようだった。

「そもそもなんであんたがパイシェン様とお知り合いなのよ!!」
「なんでって言われても、学校の先輩だからとしか……」
「はあ?」

 はあって言われましても……。

「ほら、一応、私ルーヴ・ロゼに通ってますし」
「えっ、なんで……?」

 なんでって、もしかして知らない……?

 そういえば、と私は思った。ポムチョム小学校に通ってる子たちって、私の事情を知ってる子ばかりだと思ってたけど、もしかして転校生のエルフィスちゃんだけは知らない状態だった?
 たしかに、誰かが伝えなければ知るはずもない。そして私は伝えたことがなかった……。
 パイシェン先輩が腕を組んで、エルフィスちゃんに言う。

「私への暴言ばかり問題視してるようだけど、一応、そいつも貴族所縁の人間よ。エトワ・シルフィール、信じられないかもしれないけど、シルフィール公爵家の娘よ」
「失格者ですけどねー」
「えっえっえっ……」

 本当に知らなかったのか……。
 私は自分の額を指して言った。自分で言うのもなんだけど——

「ほら、額の印とかまあまあ有名じゃない?」

 平民の人たちの間ではあんまり広まってないけど、貴族界隈では有名だ。貴族と取引している商家の子なら知っててもおかしくないと思う。

「なんか額にいつもらくがきしてるなとは思ってた……」

 誰が、好き好んで、額に失格なんて書くかい!

「……うーん、というかポムチョム小学校にもルーヴ・ロゼの制服来てたでしょ」
「頭が湧いてるから恐れ知らずにコスプレしてるのかと思ってた……」

 私の評価っていったい……。

「完全に舐められてるじゃないの。普段からしっかりしてないからそうなるのよ。貴族に所縁ある人間として、もう少し普段から自覚を持って行動しなさいよね」

 呆れ顔でパイシェン先輩の説教も私の方に飛んできてしまった……。

「いやいや、私も最近はかなりしてきたと思うんですけどねぇ、しっとり」
「湿気っちゃってるじゃないの」

 そんなこんなでエルフィスちゃんの放ってしまったパイシェン先輩への暴言は、うやむやのうちに済まされたのだった。よかった。
 けれど、一連の出来事がもたらしたエルフィスちゃんへのダメージはすさまじかったらしく、そのままふらふらと服も見ずに帰宅してしまった。
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