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第十三話 私は女として確実に損をしている *

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 明日香は大輔の本心が訊きたかった。

 自分のことをセフレとして好きなのか、恋人として好きなのか。
 そもそも、いつから好きなのか。
 こういう関係になったから、勢いで好きになったのか。

 訊けない。
 訊けば自分の本心も、打ち明けなければいけなくなる。

 暎子が考えてくれたのは、セフレとして関係を深めてから、恋人に昇格するシナリオだ。
 体で虜に出来るかどうかは怪しいが、焦って気持ちを確かめて、「本気なら受け止められない」と言われたら元も子もない。

 今は彼に身体を預けて、本来の目的である【本当に気持ちいいセックス】を追求すべきなのだ。彼も自分のリクエストに応えようと、頑張ってくれているのだから。

 気が付けば、暎子に言われたセックスのことは、どこかへ飛んでいってしまっていた。そんなことよりも、彼と結ばれることのほうが重要になっていた。
 いつの間にか、目的と手段が逆転していたのだ。

「また、何か考えごとしてる」
 大輔が彼女の額を指でつつく。

「大輔さんが、私のこと『好き』って言ってくれて、嬉しいなって思って」
「当たり前じゃないか。好きだから、家にあげた。好きだから、キスした。抱き締めた。いくら迫られても、嫌いだったらこんなことしないよ」

 大輔さん。今は勘違いしてもいいよね?
 セフレとか恋人とか、面倒なこと抜きにして。
 本当に私のことが「好き」って、思っていいよね?

「キスして」
 明日香が彼の頬に手を添える。それに応える大輔。
 
 長いディープキスの後、大輔は彼女の首筋や鎖骨を舌でなぞり、乳頭に吸い付いた。そして再び、明日香の脚の間に掌を滑らせる。

「明日香。すごく溢れてるよ」
 彼女の太腿を開かせ、身体を入れる。
 大輔は顔を陰部に近づけ、小陰唇を唇で挟んだ。ヒャッと声を出す明日香。

「明日香。俺、明日香の全部が見たい。見せて。明日香の全部」
 掌で顔を覆う明日香。
「恥ずかしいよ……」

「明日香、自分で広げて見せて。俺に見えるように」
「……無理だよ。そんなこと、できない……」
「俺に見せてくれないの?」

 彼女は返事をせずに、両手で自らの性器を広げて見せた。
 固く目を閉じて、唇を噛む。

「良く見えるよ。明日香の大事なところ」
「恥ずかし過ぎる……」
「とっても綺麗だよ。すごく可愛い……もう我慢できない」

 露わになった果実をベロリと舐める。
 小さく悲鳴を上げる彼女に構わず、大輔は蜜壺に指を入れて遊ばせた。そして膨れ上がった小さな粒に、舌をそっとあてる。

「いやっ、ダメっ、大輔さんっ!」
 明日香が彼の頭を両手で掴む。

「明日香、リラックスして」
「無理ぃ……」
「どうなっても、明日香のこと受け入れるから。もっと俺のこと、信じて」

 彼女の抵抗が弱まると、大輔は指を入れながら、舌の裏側で叩くように秘部を攻めた。顎を天井に向ける明日香。

「だっ、だめぇ……あっ、ああっ……」
 明日香が太腿に力を入れてくる。身体を小さく丸めようとしながら、喘ぎ声を上げる。

「明日香のここ、すごくヒクヒクしてる。とっても綺麗なピンク色だよ。あぁ、すごい。溺れそうだ」
 大輔の言葉に、感情が高まっていく明日香。

「あぁっ、いやっ……やだっ、イキそうっ……やっ、だっ……大輔さんっ!」
 シーツを鷲掴みにする明日香。
 痙攣しながら背中を仰け反らせると、糸が切れた人形のように横向きになった。

 この時彼女は、生まれて初めて、セックスで絶頂を迎えた。

 自慰行為では毎回達するのに、男性に導かれたことは一度もなかった。
 それが自分のせいなのか、相手のせいなのか、悩んだこともあった。そしてそういった期待を込めて、健斗と関係を持った。

 しかし健斗とのセックスでも達せず、しかもその事実に、彼は向き合おうとしなかった。
「明日香はイッたかどうか、分かりづらい」
 そう彼に言われた時、この人でもダメなのかと思った。

 その後はセックスの度に、露骨にイッたふりをするようになった。
 自分の演技がどの程度なのかはわからないが、彼は「明日香はいつも気持ち良さそうだね」と満足そうだった。

 暎子曰く、「間違ったオナニーを繰り返すと、セックスでイケなくなる」らしい。
 恐らく、自分はそのパターンなのだろう。
 
 セックスの仕方すら教えてくれないのに、オナニーのやり方まで、学校で教えてくれるわけがない。
 でも、こんなのってアリなのだろうか。自業自得で済まされるものなのか。

 同じ教育課程を経てきたはずなのに、暎子は分かっていて、自分は何も知らずに大人になった。そして今更後戻りできないときている。
 下手をすれば、自分は永遠にセックスで絶頂を体感することなく、生涯を終えるかもしれない。

 暎子から【本当に気持ちいいセックス】について聞かされた時、自分はイケないから一生無理ではないかと思った。

 しかし彼女の言わんとしていることは、別のことだった。
 テクニックやエクスタシー云々ではなく、「お互いに自分をさらけ出せれば、極上のセックスを堪能できる」、彼女はそう言った。
 大輔も「絶頂に達することだけが目的じゃない」と、自分に諭した。

 だが、それは本当だろうか。
 それは既に、そのレベルを通過した人間の意見なのではないか。
 自分はまだそのレベルにも達していない。上級者の余裕のコメントなど、参考にならないのではないか。
 
 こんなの不公平だ。
 こんなだから、日本はセックス後進国だとか言われるんだ。
 私は女として確実に損をしている。絶対納得できない。

 ずっと、そんなふうに考えていた。

「明日香、大丈夫?」

 大輔の声で我に返る。
 気が付くと、彼は明日香を後ろから抱き締めていた。

「ごめんなさい。ぼーっとしちゃって……」
「いいよ。明日香、気持ち良さそうだったから、嬉しいよ」
「大輔さん……」
 顔を仰け反らせてキスを求めると、大輔は優しく舌を絡めてくる。

「俺も勝手だよな。明日香に『絶頂に達することが目的じゃない』とか、偉そうなこと言っておいて、実際こうやってイクとメチャクチャ嬉しいんだから」
「そんなに嬉しかったの?」
「明日香の【初めて】になったんだから、そりゃ光栄だよ」

 指で鼻先をこする彼を見て、明日香は幸福感に満たされた。
 こんなに彼に喜んでもらえるなら、今までイケなかったこともまんざら悪くない。
 
 明日香は身体を回転させて、彼の上に覆いかぶさった。彼女のほうからキスの雨を降らせ、彼の手を取って自分の乳房に当てる。

「明日香……もう我慢できない。挿れてもいい?」
「うん」

 明日香の許可を得ると、彼は起き上がってシャツを脱いだ。ショートパンツも脱ぎすて、トランクスをずり下げると、彼の男根がヒョイと顔を出した。

 明日香は息を呑んだ。

 うそ。
 大きくない? 大きいよね?
 絶対大きいよ。あんなの、全部入るの?
 
 健斗は、自分の性器の大きさに自信があるようで、それらしき発言をすることがたまにあった。
 彼のものが平均以上かどうかは分からなかったが、実際挿入には痛みを伴っていたし、性交の翌日は膣口がヒリヒリした。

 それほど経験がないので確信はない。しかし、大輔のそれは、健斗とは明らかに違う。明日香はかなり動揺した。

「大輔さん、ちょっと、その……大きく、ない?」
「大きい? 俺のが? そんなこと無いよ」
「うそ……入らないと、思う」
「そんなこと無いって。ゴムだって普通の、着けれるし」
「本当?」

 ちょっと待って。
 もしかして私、健斗に騙されてたの?
 もしかして健斗はごくごく普通、もしくは平均以下で。大輔さんがちょっと大きいぐらい、とか?

「大丈夫だよ。明日香がちゃんと潤ってなきゃ、挿れないから。もし明日香が痛がったら、絶対無理に続けたりしない」
 真剣ではあるものの、非常に穏やかな表情の大輔。明日香は彼の掌を両手で包んだ。

「本当?」
「本当だよ。約束する」

 私は何も知らなかった。
 知ってるつもりで、何も知らなかったんだ。
 こんなんで暎子に追いつこうなんて、身の程知らずも良いところだ。

 ねぇ、大輔さん。
 私に教えてよ。あなたの知ってること、全部教えて。

 私を連れて行って。
 私の知らない世界へ、連れて行って。
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