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第一章 星野恭子
第八話 生協で女にビンタされた男
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長い夏休みが終わり、大学の後期授業が始まった。
あのあと恭子からの連絡はなく、サークルも合宿以外の活動がなかったため、大輔はひたすらバイトに明け暮れた。
一日だけ、五十嵐に誘われて映画を見に行った。
それでも大輔は満足だった。高校を卒業してから、友達と待ち合わせをして出かけたことなど、一度もなかったからだ。
大学生協の書籍売り場で、彼は雑誌の立ち読みをしている。
大輔の大学の生協は、敷地面積も広く品揃えも充実している。昼休みの時間帯とあって、店内は学生で溢れかえっていた。
「大輔君……?」
不意に名前を呼ばれる。
顔を上げると、通路に恭子が立っていた。隣には友人らしき女性も佇んでいる。
「星野さん……」
大輔が反応すると、彼女は途端に顔を曇らせた。
「なんで会いに来てくれないの? ずっと待ってるのに」
二人の険悪な空気を読んでか、友人の女性は「私、先行ってるね」と小声で耳打ちをして去っていった。戦々恐々とする大輔。
「えっと……留守電、聞きました?」
「全部は聞いてない」
頭を抱える大輔。
ある程度予想はしていたが、これほどルーズだとは。
大輔は手にしていた雑誌を元の場所に戻して、彼女の方を向いた。
「試験が終わってすぐ、遊びに行きましたよ。留守だったけど」
「夏休み前半はペルーに行ってたのよ。話してなかった?」
「……聞いてないですね」
大輔はため息をついた。
この様子だと鍵の件は知らないようだ。
「鍵はポストに戻しておきました。持っていても仕方ないし」
「『仕方ない』ってどういうこと? 一回ぐらいのすれ違いで、もう会わないって決めるの? ペルーのこと教えなかったのは悪かったけど、ちょっと酷くない?」
彼女の声が売り場にこだまする。周りの学生がチラチラと二人に視線を向け始める。
「星野さん、ちょっと外に出よう」
大輔は彼女に外に出るように誘ったが、恭子は動く気配がない。それどころか、ショルダーバッグから何かを取り出すと、大輔に向かって投げつけた。
「痛っ!」
足元に転がった物体を拾うと、小さな革のコインケースだった。アルパカのイラストが施され、【PERU】と焼印が押されている。恭子が自分に買ってきた土産だと、彼はすぐにピンときた。
「なによ! 『いつでも来て』って言ったら、『うん』って返事したくせに! 信じて待ってたのに!!」
怒髪天を衝く勢いで彼女が喚く。
大輔も頭に血が上り、衆人環視の中で言い返す。
「そう言うけどさ、じゃあなんで電話に出ないの? メールも返さないし、留守電も聞かない。何のために携帯持ってるの? 俺と連絡取るために使う気ないの?」
「それは……大輔君から会いに来てくれると思ったから……」
「会いに行ったさ。炎天下の中ね。そしたら留守で、また炎天下の中とんぼ返りしたよ。連絡がついてたら、無駄足踏まずに済んだんだけどね」
「……それは、謝るけど……今までの人は、何度も会いに来てくれたから……」
恭子が徐々にトーンを下げてくる。心なしか、目が潤んでいるようにも見える。
「なんだよそれ。『あなたは他の人とは違う』とか言っておきながら、結局他の男と一緒にしてるじゃん」
「……それは……」
唇を震わせ始める恭子。
大輔は辟易した顔で続けた。
「星野さんは、自分から相手に合わせる気ないよね。言わせてもらうけど、俺にだって自分の時間があるんだよ。男だったら誰でもホイホイ寄ってくると思ったら、大間違いだよ」
「酷い……そんな言い方しなくても……」
恭子は突然、ボロボロと涙をこぼし始めた。
大輔は大きく息を吐いた。
でたよ。
これだから女は嫌なんだ。
泣けばいいと思ってる。泣けば何でも許されると思ってる。
姉さんがいつもこれだった。
自分の思い通りにならないとすぐに泣いて、何とかしようとする。
だから女は嫌なんだ。
「菅原ぁ!!」
突然、背後から名前を呼ばれ、反射的に振り向く。
目の前には、金子が立っていた。
彼女の存在に気付くや否や、大輔は左頬を平手打ちされた。
しなる掌から響く、弾けるような音。
頬を押さえながらよろめく大輔。
何が起きたのか理解できない。
「え? 金子先輩? な……なんで?」
金子は吊り上った目を大きく見開いた。
「あんたバカ? こんなとこで女泣かせて」
気が付くと、ギャラリーはものすごい数に増えていた。見知ったような顔もそこここに見える。
「二人ともこっち来な。周りに迷惑だよ」
金子は顎を使って、二人に外に出るように指示した。
****
「赤くなっちゃったか……ごめん。ちょっと強く叩きすぎた」
法学部棟の外にあるベンチで、左頬に手をあてた大輔が腰かけている。
痛々しく腫れた顔を見て、金子は流石に申し訳なさそうな表情をした。
「勘弁してくださいよ……親にも叩かれたことないのに……」
大輔は今まで感じたことのないような、虚脱感に支配されていた。
痴話喧嘩の仲裁に入られて、公衆の面前で女に叩かれるとか。
マンガやドラマにはありがちなシーンだけど、まさか自分に起こるとは。
このあとの授業、サボろうかな。こんな顔じゃ、周りに何を言われるかわからない。
さっき生協にいたの、体育の授業が一緒の奴らだった。明日の体育、気が重いな。
「だからごめんって。でもさ、あそこでひっぱたかなきゃ、あんた『生協で女泣かせてた男』になっちゃうでしょ。制裁を受けたんだから、これでチャラよ」
「おかげで、『生協で女にビンタされた男』になりましたよ……」
「たまたま通りかかって良かったよ。あんなところで延々修羅場ってたら、あんたら学内の有名人よ。感謝して欲しいわ」
金子と大輔が話をしていると、恭子が法学部棟から出て走ってきた。手には濡れたタオルを持っている。
彼の隣に座り、その左頬にタオルをそっと当てる。
「つめたっ……」
大輔が飛び上ると、恭子は心配そうに彼を見つめた。
「ごめんね、大輔君。私のせいで……」
「星野さんのせいじゃないよ。俺もちょっと言い過ぎた」
大輔が謝ると、金子は大袈裟に掌を前に出し、彼に拍手を送った。
「良く言った、菅原。素直に謝る男は、カッコいいぞ」
「それはどうも……」
複雑そうな大輔。
「恭子。彼、家に連れて帰って看病してあげなよ。あんたも彼と、ちゃんと仲直りしたいでしょ」
顔を見合わせる大輔と恭子。
しかし恭子はゆっくりと首を横に振った。
「ううん。大輔君、疲れちゃってるみたいだから、今日はやめておく」
彼女はぎこちない笑顔を見せると、金子のほうに向きなおった。
「恵美ちゃん、ありがとう。もう授業始まるでしょ、行って良いよ」
金子は「やれやれ」と両肩を落とし、手をブラブラと振りながら去っていく。
「じゃ、お言葉に甘えて。あとは二人でちゃんと話し合って頂戴。菅原、今日はほっぺた冷やしておきな。放っておくと、明日もっと腫れるよ」
彼女の後ろ姿を見送りながら、タオルを頬に当てた大輔がポツリと呟く。
「あの様子だと、人をひっぱたくのは初めてじゃなさそうだな……」
恭子が身体を震わせてクスクスと笑う。
「大輔君、するどい。恵美ちゃんって結構、手が出るタイプなんだよね。私も大学からの付き合いだけど、今回を含めて三回だからね。叩くところ見たの」
「さ、三回?!」
「うん。一回目は飲み会で一緒になった、余所の大学の男。私に肌の色のこと、しつこく訊いてきて。何故か彼女がキレちゃって」
「……で、二回目は?」
「二回目はサークルの三年の女子。理由は……想像つくでしょ」
「まぁ、なんとなく……」
その金子に、自分は「制裁」と言って殴られた。
俺は間違っていたのだろうか。
連絡無精な彼女に、振り回されたのは紛れもない事実だ。
しかし、冷静に考えてみれば、自分もついこの間まで携帯さえ持っていなかった。
語学クラスの飲み会に呼ばれず、後日「携帯番号が分からないから、連絡つかなかった」と理由を聞かされた。
だったら家に電話してくれればいいのにと思ったが、個人の番号を持つのが当たり前となりつつある昨今、わざわざ自宅に掛ける奴など居ないのだ。
ほんの少し前まで、待ち合わせは時間と場所を指定して、相手が来るまで永遠に待った。一時間待ちぼうけなど、ざらにあった。
電話を掛けても本人とは繋がらず、折り返しが来たときはこっちが出られず。パソコンのメールは、一週間読まれず。
自分は、自分たちは、そんな時の流れの中で生きていた。
そして彼女は、そんな時代の変化に追いつけずにいる。レスポンスが急激に短縮された世界を、認識していない。悪気があって連絡していないわけではないのだ。
それなのに俺は、売り文句に買い文句で、感情に任せて泣かせてしまった。
あまりにも子供じみた、衝動的な行動だった。
本音を言えば、金子には殴る前に言い分を聞いて欲しかったが、公の場で彼女を泣かせたことは確かだ。
「大輔君、もう帰る? 帰るなら途中まで一緒に帰ろ」
恭子が立ち上がり、大輔に代わって彼のバッグを持ち上げようとする。
その手を制止する大輔。
いつもの柔らかい口調で話しかける。
「恭子さん。今から、恭子さんの家に行っていい?」
途端に顔を綻ばせる恭子。ほんのりと顔を赤らめる。
「……いいの?」
「うん。こんな時間にこんな顔で家に帰ったら、親が心配するし。それに、その……俺もちゃんと仲直りしたいし。さっきは言い過ぎたよ。本当にごめん」
恭子は大きく頷き、縦長の笑窪を見せる。
「うん。私も、仲直りしたい。ごめんね。ありがとう、大輔君」
彼女の手を握って、大輔は穏やかに微笑んだ。
あのあと恭子からの連絡はなく、サークルも合宿以外の活動がなかったため、大輔はひたすらバイトに明け暮れた。
一日だけ、五十嵐に誘われて映画を見に行った。
それでも大輔は満足だった。高校を卒業してから、友達と待ち合わせをして出かけたことなど、一度もなかったからだ。
大学生協の書籍売り場で、彼は雑誌の立ち読みをしている。
大輔の大学の生協は、敷地面積も広く品揃えも充実している。昼休みの時間帯とあって、店内は学生で溢れかえっていた。
「大輔君……?」
不意に名前を呼ばれる。
顔を上げると、通路に恭子が立っていた。隣には友人らしき女性も佇んでいる。
「星野さん……」
大輔が反応すると、彼女は途端に顔を曇らせた。
「なんで会いに来てくれないの? ずっと待ってるのに」
二人の険悪な空気を読んでか、友人の女性は「私、先行ってるね」と小声で耳打ちをして去っていった。戦々恐々とする大輔。
「えっと……留守電、聞きました?」
「全部は聞いてない」
頭を抱える大輔。
ある程度予想はしていたが、これほどルーズだとは。
大輔は手にしていた雑誌を元の場所に戻して、彼女の方を向いた。
「試験が終わってすぐ、遊びに行きましたよ。留守だったけど」
「夏休み前半はペルーに行ってたのよ。話してなかった?」
「……聞いてないですね」
大輔はため息をついた。
この様子だと鍵の件は知らないようだ。
「鍵はポストに戻しておきました。持っていても仕方ないし」
「『仕方ない』ってどういうこと? 一回ぐらいのすれ違いで、もう会わないって決めるの? ペルーのこと教えなかったのは悪かったけど、ちょっと酷くない?」
彼女の声が売り場にこだまする。周りの学生がチラチラと二人に視線を向け始める。
「星野さん、ちょっと外に出よう」
大輔は彼女に外に出るように誘ったが、恭子は動く気配がない。それどころか、ショルダーバッグから何かを取り出すと、大輔に向かって投げつけた。
「痛っ!」
足元に転がった物体を拾うと、小さな革のコインケースだった。アルパカのイラストが施され、【PERU】と焼印が押されている。恭子が自分に買ってきた土産だと、彼はすぐにピンときた。
「なによ! 『いつでも来て』って言ったら、『うん』って返事したくせに! 信じて待ってたのに!!」
怒髪天を衝く勢いで彼女が喚く。
大輔も頭に血が上り、衆人環視の中で言い返す。
「そう言うけどさ、じゃあなんで電話に出ないの? メールも返さないし、留守電も聞かない。何のために携帯持ってるの? 俺と連絡取るために使う気ないの?」
「それは……大輔君から会いに来てくれると思ったから……」
「会いに行ったさ。炎天下の中ね。そしたら留守で、また炎天下の中とんぼ返りしたよ。連絡がついてたら、無駄足踏まずに済んだんだけどね」
「……それは、謝るけど……今までの人は、何度も会いに来てくれたから……」
恭子が徐々にトーンを下げてくる。心なしか、目が潤んでいるようにも見える。
「なんだよそれ。『あなたは他の人とは違う』とか言っておきながら、結局他の男と一緒にしてるじゃん」
「……それは……」
唇を震わせ始める恭子。
大輔は辟易した顔で続けた。
「星野さんは、自分から相手に合わせる気ないよね。言わせてもらうけど、俺にだって自分の時間があるんだよ。男だったら誰でもホイホイ寄ってくると思ったら、大間違いだよ」
「酷い……そんな言い方しなくても……」
恭子は突然、ボロボロと涙をこぼし始めた。
大輔は大きく息を吐いた。
でたよ。
これだから女は嫌なんだ。
泣けばいいと思ってる。泣けば何でも許されると思ってる。
姉さんがいつもこれだった。
自分の思い通りにならないとすぐに泣いて、何とかしようとする。
だから女は嫌なんだ。
「菅原ぁ!!」
突然、背後から名前を呼ばれ、反射的に振り向く。
目の前には、金子が立っていた。
彼女の存在に気付くや否や、大輔は左頬を平手打ちされた。
しなる掌から響く、弾けるような音。
頬を押さえながらよろめく大輔。
何が起きたのか理解できない。
「え? 金子先輩? な……なんで?」
金子は吊り上った目を大きく見開いた。
「あんたバカ? こんなとこで女泣かせて」
気が付くと、ギャラリーはものすごい数に増えていた。見知ったような顔もそこここに見える。
「二人ともこっち来な。周りに迷惑だよ」
金子は顎を使って、二人に外に出るように指示した。
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「赤くなっちゃったか……ごめん。ちょっと強く叩きすぎた」
法学部棟の外にあるベンチで、左頬に手をあてた大輔が腰かけている。
痛々しく腫れた顔を見て、金子は流石に申し訳なさそうな表情をした。
「勘弁してくださいよ……親にも叩かれたことないのに……」
大輔は今まで感じたことのないような、虚脱感に支配されていた。
痴話喧嘩の仲裁に入られて、公衆の面前で女に叩かれるとか。
マンガやドラマにはありがちなシーンだけど、まさか自分に起こるとは。
このあとの授業、サボろうかな。こんな顔じゃ、周りに何を言われるかわからない。
さっき生協にいたの、体育の授業が一緒の奴らだった。明日の体育、気が重いな。
「だからごめんって。でもさ、あそこでひっぱたかなきゃ、あんた『生協で女泣かせてた男』になっちゃうでしょ。制裁を受けたんだから、これでチャラよ」
「おかげで、『生協で女にビンタされた男』になりましたよ……」
「たまたま通りかかって良かったよ。あんなところで延々修羅場ってたら、あんたら学内の有名人よ。感謝して欲しいわ」
金子と大輔が話をしていると、恭子が法学部棟から出て走ってきた。手には濡れたタオルを持っている。
彼の隣に座り、その左頬にタオルをそっと当てる。
「つめたっ……」
大輔が飛び上ると、恭子は心配そうに彼を見つめた。
「ごめんね、大輔君。私のせいで……」
「星野さんのせいじゃないよ。俺もちょっと言い過ぎた」
大輔が謝ると、金子は大袈裟に掌を前に出し、彼に拍手を送った。
「良く言った、菅原。素直に謝る男は、カッコいいぞ」
「それはどうも……」
複雑そうな大輔。
「恭子。彼、家に連れて帰って看病してあげなよ。あんたも彼と、ちゃんと仲直りしたいでしょ」
顔を見合わせる大輔と恭子。
しかし恭子はゆっくりと首を横に振った。
「ううん。大輔君、疲れちゃってるみたいだから、今日はやめておく」
彼女はぎこちない笑顔を見せると、金子のほうに向きなおった。
「恵美ちゃん、ありがとう。もう授業始まるでしょ、行って良いよ」
金子は「やれやれ」と両肩を落とし、手をブラブラと振りながら去っていく。
「じゃ、お言葉に甘えて。あとは二人でちゃんと話し合って頂戴。菅原、今日はほっぺた冷やしておきな。放っておくと、明日もっと腫れるよ」
彼女の後ろ姿を見送りながら、タオルを頬に当てた大輔がポツリと呟く。
「あの様子だと、人をひっぱたくのは初めてじゃなさそうだな……」
恭子が身体を震わせてクスクスと笑う。
「大輔君、するどい。恵美ちゃんって結構、手が出るタイプなんだよね。私も大学からの付き合いだけど、今回を含めて三回だからね。叩くところ見たの」
「さ、三回?!」
「うん。一回目は飲み会で一緒になった、余所の大学の男。私に肌の色のこと、しつこく訊いてきて。何故か彼女がキレちゃって」
「……で、二回目は?」
「二回目はサークルの三年の女子。理由は……想像つくでしょ」
「まぁ、なんとなく……」
その金子に、自分は「制裁」と言って殴られた。
俺は間違っていたのだろうか。
連絡無精な彼女に、振り回されたのは紛れもない事実だ。
しかし、冷静に考えてみれば、自分もついこの間まで携帯さえ持っていなかった。
語学クラスの飲み会に呼ばれず、後日「携帯番号が分からないから、連絡つかなかった」と理由を聞かされた。
だったら家に電話してくれればいいのにと思ったが、個人の番号を持つのが当たり前となりつつある昨今、わざわざ自宅に掛ける奴など居ないのだ。
ほんの少し前まで、待ち合わせは時間と場所を指定して、相手が来るまで永遠に待った。一時間待ちぼうけなど、ざらにあった。
電話を掛けても本人とは繋がらず、折り返しが来たときはこっちが出られず。パソコンのメールは、一週間読まれず。
自分は、自分たちは、そんな時の流れの中で生きていた。
そして彼女は、そんな時代の変化に追いつけずにいる。レスポンスが急激に短縮された世界を、認識していない。悪気があって連絡していないわけではないのだ。
それなのに俺は、売り文句に買い文句で、感情に任せて泣かせてしまった。
あまりにも子供じみた、衝動的な行動だった。
本音を言えば、金子には殴る前に言い分を聞いて欲しかったが、公の場で彼女を泣かせたことは確かだ。
「大輔君、もう帰る? 帰るなら途中まで一緒に帰ろ」
恭子が立ち上がり、大輔に代わって彼のバッグを持ち上げようとする。
その手を制止する大輔。
いつもの柔らかい口調で話しかける。
「恭子さん。今から、恭子さんの家に行っていい?」
途端に顔を綻ばせる恭子。ほんのりと顔を赤らめる。
「……いいの?」
「うん。こんな時間にこんな顔で家に帰ったら、親が心配するし。それに、その……俺もちゃんと仲直りしたいし。さっきは言い過ぎたよ。本当にごめん」
恭子は大きく頷き、縦長の笑窪を見せる。
「うん。私も、仲直りしたい。ごめんね。ありがとう、大輔君」
彼女の手を握って、大輔は穏やかに微笑んだ。
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