所詮俺は、彼女たちの性の踏み台だった。

並河コネル

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第四章 水沢綾乃

第二十二話 初めてのセフレ *

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「え? いいの?」

 少し安堵したような、綾乃の表情。

 なんだ、今のは。
 今の応え。今の表情。
「フェラをしなくても済んだ」とでも言いたげな。

 大輔はあれこれ思いを巡らせながらも、購入したばかりのコンドームを手にした。ホテルに入る前にコンビニで買っておいたものだ。

 ラブホテルのコンドームなど、危なっかしくて使えない。
 僅かな手間を惜しんで、自分の輝かしいキャリアに泥を塗るわけにはいかない。

 避妊具を用意している間に、綾乃が彼の性器を弄り出す。
「やだ。結構大きいね。可愛いっ」
 陰茎を軽く握り、上下させる綾乃。大輔がその手をやんわりと制止する。

「つけるから、いい?」
「ふふっ。せっかちね」

 年下の男を弄んでいるつもりなのだろうが、正直どうでもいい。
 目下自分は、フェラチオを回避することだけに専念している。
 この様子ならうまくいきそうだが、冷静な思考になっている分、若干角度が足りない。

 綾乃はスタイルも良いし、バストもソコソコある。三十代の女性としてはかなりレベルが高いだろう。
 だが、演技がかった喘ぎ声が鼻につく。感度もそれほど良くなさそうだし、経験はあるが経験は積んでいない印象だ。
 
 まずい。
 こんなことばかり考えていると、萎えてしまう。
 
 大輔は彼女にキスをして、仰向けにさせた。
 襞の間に鈴口を当てて、縦にこすりつけていると、次第に大輔のそれは挿入に足る硬さになってきた。満を持してゆっくりと押し込む。

「あんっ!! すっごい、おっきいっ!」
 シーツを鷲掴みにして悶える綾乃。

 オーバーなリアクションだ。
「こう言えば男って、興奮するのよね」とでも言いたげな。
 ダメだ。どんどん冷めていく。

 綾乃の中に杭を打ちつつ、大輔はどうすれば気持ち良くなれるか考えていた。
 あれこれ体位を変えても、全く燃えない。
 彼女が喘ぐ顔を見ても、全く興奮しない。

 これが「愛してもいない女を抱く」ということなのだろうか。
 思い返してみれば、恭子と初めてセックスした時も、彼女に対してまだ愛情を持ち合わせていなかった。

 でもあの時は、恐ろしく気持ちが良かった。
 自分が初めてだったせいなのか、それとも彼女のテクニックのせいなのか。

「もっと、突いてぇ」
 綾乃が四つん這いになって、こちらに臀部を突き出してくる。

「いいよ。いっぱい突いてあげる」
 彼女の尻の狭間に男根を埋める大輔。その表情は冷め切っていた。

 彼女の腰に手をあてて打ち付け、男性器が出入りする様子をまじまじと眺める。
 逆再生した音声のような綾乃の喘ぎ声に、大輔は苦笑いをした。

「綾乃さん。ヤバい、俺もうイキそう。イッていい?」
「うん、いいよ。早く来てっ……大輔」
「ああっ、イクっ!」

 彼女の背中に覆いかぶさるようにして、身体を大きく震わせる大輔。綾乃はそのまま押しつぶされるように、うつ伏せになった。
 大輔はすぐに彼女の上から飛び退き、コンドームの後始末をする。

「大輔……凄かった……最高だったよぉ」
 綾乃が甘ったるい声で、彼の首にまとわりついてくる。

「俺もだよ。綾乃さんの中、すごく気持ち良かった」
 済みの避妊具を素早くティシュに包み、ダストボックスに放り投げる。
 綾乃を腕の中に導き、横向きになって彼女を抱きしめた。
 
 まさか自分が、【イッたふり】をする日が来ようとは。

 女性が達したフリをするというのは良く聞く話だが、男の自分がすることになろうとは。
 しかしあの状態では、何時間やっても射精できる気がしなかった。
 バックで彼女の視界から外れた時、チャンスだと思ってやってみた。
 彼女は気づいていないようだ。きっと成功したのだろう。
 
 彼の胸に顔を埋めた綾乃が、物欲しそうに鼻を鳴らす。
「大輔ぇ。私たちさ、セックスフレンドにならない?」
「セックスフレンド?」

 随分と自分を下げるようなことを提案する女性だ。プライドはないのか。
 他にもそういう関係の男がいるのだろうか。

「別に良いけど……あんまり頻繁には会えないよ。仕事が割と忙しいんだ。今日だって強引に参加させられたし……」
「それはお互い様。適当に連絡するから、暇だったら会ってよ」
「……わかった」

 まぁいい。
 無理にここで断って、気まずい雰囲気でホテルを出る必要もない。
 どうせ連絡なんて来やしない。自然消滅するだろう。

 綾乃は彼を仰向けにさせて、体の上に乗ってくる。
 形の良いバストが、大輔の胸の上でぐにゃりとつぶれる。

「でも、ホントびっくりした。大輔、クンニめっちゃ上手くない? 私初めての男とはイカないんだけど、思わずイキそうになっちゃった」
 
 本当だろうか。
 とてもそんなふうには見えなかったが。
 しかし彼女はセフレを申し出ているし、俺とのセックスを気に入ったことは間違いなさそうだ。

「それとさ。大輔ってもしかして、フェラ駄目なタイプ?」
「……」
「あー、そんな顔しないで。私は平気。潔癖な男って、今わりといるよね。わたし的にはラッキーって感じだし」

「ラッキー」か……。
 世の中の女性は、概してフェラチオが嫌いなのだろうか。
 五十嵐が言っていたように、恭子は別格だったのだろうか。

 千夏も経験は少なそうだったし、進んでするタイプではないようだった。
 それでも続けさせた俺は、本当に最低な男だったんだ。

 ****

 大輔の予想通り、その後綾乃から連絡は来なかった。
 年齢的に仕事もプライベートも充実している時期だろうし、過去の男を振り返る暇などないのだろう。

 一方で、新井からは頻繁に、合コンの誘いが来るようになった。

『いやぁ、まさか菅原君が抜け駆けするなんてね。人は見かけによらないな』

 メールだと断られるだろうと察してか、彼は直接大輔の携帯に電話を掛けてきた。

「すみません。水沢さん体調が悪そうだったんで、送ってあげたんです」
 適当に嘘をつく。
 綾乃がどこまで話しているか知らないが、まさか情事まではバラしていないだろう。

『彼女も策士だなぁ。純朴な菅原君を、そういう手で誘ったのか』
「本当に送っただけですよ」
『ははは。そういうことにしておいてあげるよ。でもね、君たちが抜けてから、みんな目つきが変わったよ。焦ったんだろうね。最終的に二組カップル成立したからね。大成功だよ』

 幹事として言うことなしの結果を得ることができ、新井はすこぶる機嫌が良かった。

「でさ、また頼まれてくれないかな」


 のらりくらりと言い訳をして断り続けたが、それでも数回に一度は義理で参加した。
 大学の先輩を邪険にしたくないのと、経産省の人間と関わりを持っておくのも悪くないと思ったからである。

 参加する度に驚いたのは、女性陣の反応が常に悪くないことであった。【霞が関官僚】の名は伊達ではなかった。

 しかし、キャリア官僚と言えば聞こえはいいが、概して高収入かと言えばそうでもないのが現状である。エスカレーターでなれる課長クラスなら、一般のサラリーマンと大差ない。
 同期を蹴落としてその先に上らない限り、夢に描いていた人生は望めない。世間で言う天下りにしても、そういったレベルの人間にしか話が回ってこない。

 自分が女性なら、相手は三十過ぎで、ある程度将来のビジョンが見えている官僚を選ぶ。自分のような若造は、将来設計を構築する材料がなさすぎる。

 しかし参加する女性たちは押し並べて、そんな将来設計どこ吹く風であった。
 大輔は参加する度に、女性からアプローチを受けた。

 だいたいお開きのあとに二人だけでカラオケに行ったり、飲みなおしたり。勿論、大輔の奢りである。
 そのうちの数名とは情交を結んだが、彼が多忙なこともあり、長続きする相手は一人も現れなかった。 


「菅原さんって、見かけによらず経験あるのね」
 ラブホテルのベッドの中で、ある女性は言った。

 大輔は腕枕の上にあるその顔を、指で撫でる。
「なさそうに見えた?」
「うん。第一印象はね。でも喋ってるうちに『この人もしかして』って思った。私の予想、大当たりだったわね」

 彼女は不動産会社で秘書をしている。
 今回のパーティーに集まったのは、同じ秘書室の女性と広報部の女性。計六人が集まった。
 幹事はいつもの通り新井だったのだが、とにかく彼は華のある職業・職種の女性とセッティングしたがった。


 彼女がくちづけを求め、それに応える大輔。
 綾乃と違い、彼女はなかなか感度が良かった。おかげで無事に最後まで達することができ、これなら二回戦に突入しても良いとさえ思っていた。
 
 それでも、彼女にもフェラチオは遠慮してもらった。
 遠回しにアピールして気づかれないと面倒なので、最初から「自分は女性にそういうことをさせたくない」と断りを入れておいた。彼女はあっさり承諾し、セックスが始まると触れることすらしてこなかった。
 
【女性は基本的にフェラチオが嫌いなのだ】と、大輔は自分の中で結論を導いた。

 綾乃との一件で触られないと興奮しないのかと思ったが、今回は全く問題なかった。やはり綾乃とは、相性が悪かっただけなのだ。

 女性の善がる姿や、喘ぎ声で十分燃えた。演技はないように見えた。
 数時間前まで赤の他人だった女性の、淫猥な姿。その経緯を妄想すると、益々興奮した。

「……ねぇ、携帯。あなたのじゃない?」
 彼女は大輔の顔に鼻先をつけながら、視線をテーブルの上に流した。そこには大輔のビジネスバッグと、女性の赤いトートバッグが置かれている。

 耳を澄ますと、微かにバイブレーションの振動音が聞こえる。
「そうかも」
 ムクリと起きあがり、裸のままバッグに近づく。

 普段、携帯はスーツの内ポケットに入れているのだが、場合、流れで落したり失くしたりする可能性があるので、前もってバッグに入れている。

 鞄のポケットから携帯を取り出すと、小さい画面に相手の名前が表示された。

『着信-水沢綾乃-』
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