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第十六話 彗星

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 静寂を破ったのは私だ。

 私はリボルバーを上に向かって、引き金を引いたのだ。

 すると、青い光を放ちながら、放たれた弾は上に飛んでいく。

 それが開始の合図となった。

 5発の魔法が唱えられ、私に向かって飛んでくる。

 それに私はリボルバーで対応する。

 掻き消すことに成功するがまた魔法を飛んでくる。

 リロードは間に合わない。

 なら、これだ。

 右手でリロードしながら、左手を魔法袋の中に入れた。

 そして、ある魔法具を取り出したのだ。

 それを握りつぶすと私は加速した。

 迫っていた魔法を避け、リロードも完了している。

 移動した場所から引き金を引いた。
  
 6回。

 5発の弾は何かに遮られたが、別の弾種の一発はそれを貫通し、最強の男の頬を通り過ぎたのだ。

 頬からは血が流れている。

 一発だけ、貫通弾を入れておいて良かった。

 そんなことを思いながら、リロードを終えるとあることに気がついた。

 どうやら、気が付かない頬を切ったようだな。

 左手で血を拭い、リボルバーを構えたのだ。

 最強の男も構えたのだ。

 それから、私達は戦い続けた。 

 だが、何も進展しない。

 魔力がある限り、攻撃が止まられないからだ。

 どちらも隙を見て、魔力の回復を行っている。

 そんな状況の中、最強の男は私から距離を取ったのだ。

 「このままでは埒があかない」

 そう言い、最強の男は防御系の魔法を張ったのだ。

 撃ってこいということか。

 なら、乗らないとな。

 そう思い、リロードしたばかりなのだが全ての弾薬を下に落とし、真っ黒な弾薬を取り出したのだ。

 それを一発だけ装填した。

 そして、構えた。

 「撃滅弾」

 そう呟き、引き金を引いたのだ。

 銃口から耳を塞ぐ程の爆音がなり響き、連続して割れる音が聞こえてきた。

 やがて、その音は止まったのだ。

 最強の男の息は荒いが、耐えきったようだ。

 そんな最強の男を見ながら、シリンダーから1つの空薬莢を下に落とした。

 リボルバーの銃口からは白煙が発生している。

 そんなリボルバーをホルスターにしまった。

 「まだ終わってないぞ。私の攻撃は」

 そう言い、私は上を見上げたのだ。

 私につられ、最強の男も上を見上げた。

 見上げた上には青い、いや、蒼い星が迫って来ていたのだ。

 私は最初から上に打ち上げていた。

 最大の切り札を。

 シアと出会うまでは撃滅弾が切り札だったのだが、開発することが出来た。

 「さぁ、これが本当の切り札だ。この弾
の名前は彗星だ。見たままだが、どうか耐えきってくれ」

 そう言い、私はシアのことを守っていた結界を破壊し、お姫様抱っこした。

 そして、使い捨ての転移石を上に上げたのだ。

 使い捨ての転移石は彗星よりも上で割れ、私達は上空に移動した。

 これで地上には最強の男だけだ。

 やがて、彗星は地面に衝突した。

 衝突する瞬間、大量の砂煙を上げたのだ。

 砂煙を上げると地面が大きく抉れていた。

 さて、地上に戻るか。

 そう思い、私達は使い捨ての転移石で地上に戻ったのだ。

 戻ったのは大きく抉れた地表。

 最強の男がいた場所だ。

 そこで私は見つけてしまった。

 ハハ、これは驚きだ。

 まさか、生きているとは。

 そう、彗星を落ちても最強の男は生きていたのだ。

 瀕死の状態で。

 だから、もう長く無いだろう。

 そこで私はあることに気がついてしまった。

 「そうか。貴方は証明したかったのか」

 「し、証明だと?そんなことあるはずが」

 「いや、あるな。愛よりも力が強いという証明をしたかったのだ。過去に失ったのだろ?大切な人を」

 「何故、分かる?」

 「逆だったからもしれないからだ。もし、ラナが居なかったら、私も貴方のようになっていたと容易に想像出来るからだ」

 「そうか、そうか。俺は間違っていたのだな。最後にそれを知れて満足だ」

 「死ぬ前に1ついいか?大切な人は何処にいるのですか?」

 「何故、それを聞く?」

 「そこで安らかに眠ってほしいからだ」
 
 「ハハ、お前のような男に倒され、幸運だったな。私の大切な者は幼馴染で婚約者でもあった。そして、安らかに眠っているのは故郷でもあるリーファ村」

 「そうか、分かった」

 「そうだ。供える花は青い花にしてくれ。エリサが好きだったのだ。一人称は僕なのだが、凄く可愛いかった」

 それから最強の男、いや、1人の者を愛している男は惚気話を続ける。

 やがて、それは止まった。

 「そろそろ時間のようだ。まだ話したかったが、仕方ない」

 そう言い、1人の男は私の方を向いてきたのだ。

 「どうか頼む、俺をエリサの隣に眠らせてくれ。そして、貴方達の幸せを空の上から願おう。それでは、さらばだ」

 それから声が聞こえなくなった。

 それから私は1人の男の死体を回収し、この場を後にしたのだ。
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