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美香の母親の訃報
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美香の母親が入院したことを池田に伝えてからは、暇があればこっちに来ているらしい。
美香の家にはただの様子見だけ。
そのあと、どこでどう調べたのか、美香の母親の見舞いにも行っている、とのこと。
それから五か月ほど経ってから、池田から驚くべき報告を受けた。
「美香が見舞いに行ってる?」
『というより、付き添いのつもりみたいね。身振り手振りでそんなこと言ってた……っぽい』
まぁ家を戸締りしても、物理的な遮断も素通りできる美香には無効。
けど家と病院の往復は難しかろう。
『お斎が終わった後もお母さんにしがみついて帰宅してたから、退院の後も家に帰れると思うんだけど」
病室に付き添う幽霊……って……シャレにならないような気がする。
が、一人きりで家の中にいるよりは、美香にはいいかもしれない。
母親がこれからどうするのかも知らないまま入院されて、母親がいつ戻ることができるか分からない家の中に一人きり。
子供に戻りつつある美香には過酷だろう。
成仏してくれりゃ何の問題もないんだが。
「いずれお母さんの方は、池田さんとか、他の見舞客に任せるしかない。俺が首突っ込むわけにはいかないからな」
『たくさんの檀家さん抱えてるから、この一軒だけ入れ込むわけにはいかない、だっけ? 分かってるよ。美香のことも、ある程度なら任せて。多くて月二回くらいしか来れないけど、お兄さんが時々顔出してるらしいし連絡は頻繁にとってるみたいだし、心配ないと思うよ?』
池田の本業、何なんだろうな。
交通費も出せる。休みも自由。
羨ましい限りだ。
「なら、ひとまず池田さんに任せた。よろしくな」
※※※※※ ※※※※※
雪の季節が、四季の一周を感じさせられるこの地域。
そんな意味で、また季節が一周し、美香の七回忌に当たる年を迎えた。
新年早々から池田の連絡を受けた。
「なんか、入院長引くみたいね。美香も入院してたでしょ。その面倒を見なきゃいけないからって気が張ってたんじゃないかなぁ。それから解放されて、気が抜けて、って感じかしらね」
よく聞く話だ。
だが、毎日飲む薬が、そんなに気に病む必要のない血圧だけってくらいには元気だった人だ。
半年たたずに退院するだろう。
気がかりなのは美香の方だ、と思ってた。
その通りだった。
『美香がね、小学生っぽくなってる』
なんだそりゃ。
「白装束もぶかぶかになってるだろうな」
『それが、サイズは体に合ってるのよ』
歩くと、白装束の裾を踏んづけて、床にビターンと音を出して倒れて、顔面をぶつけちゃうんじゃなかろうか、とか思ったりしたが。
まぁ普段からふわふわ浮いてるから、歩いて躓いて転ぶってことはないだろうが……。
「でも、どこまで若返るんだろうな」
『そんなのあたしも分からないわよ。見守るしかないわ』
だろうな。
そんなこんなで、池田が見舞いに来るたびにそんな連絡が来る。
その一言目は美香について。
しかも毎回毎回「子供になってる」だ。
どれだけ世代を遡ってるのやら。
だが、美香の様子を気にかけてばかりもいられない。
こんな風に時折来る池田からの連絡を受けつつも、日常の業務もこなしていく毎日。
雪が消えた頃に、その連絡は来た。
『もしもし、三島ですが』
その電話をかけてきた男は、美香の兄だった。
『入院していた母が亡くなりましたので、枕経をお願いします』
人はいつ死ぬか分からない。
それは頭の中では理解している。
だが、感情では理解できていなかった。
真っ先に浮かんだ言葉は「まさか」だった。
そして頭の中で渦巻くいろんなこと。
あんなに元気そうだったのに。
退院するんじゃなかったの?
亡くなってしまうほど、病状は悪かったの?
月命日どうすんだ?
家はどうするんだ?
そして。
美香はどうするんだ?
だが、この仕事をしている以上、即座に対応しなければならない。
「はい、分かりました。場所は? ではそうですね……今から一時間後に迎えをこちらに寄こしてもらえます? はい、はい、では……」
既にご遺体は、葬儀会場となる葬儀社に運び込まれてるらしい。
準備を整えて、迎えまでの空き時間に池田への連絡。
『うん、知ってる。お兄さんから連絡が来て、今ここにいるの』
いるのかよ。
『それがね、美香のお母さんはもう棺に納まってるんだけど』
特に何の問題もない。
気にするほどの事ではないのだが。
『美香が……子供になってる』
突拍子もない事を言ってきた。
子供……って……。
いや、今はそれどころじゃない。
迎えのタクシーが到着したからな。
※※※※※ ※※※※※
葬儀社の棺安置室には、美香の兄と池田の二人がいて、枕経の準備が整えられていた。
美香の兄は俺を迎えてくれたが、疲労感が何となく感じ取れる。
池田は困り顔で何やら思案しているようだ。
池田はタイミングよくその場に居合わせられたものだと思ってたら、美香とは幼馴染だったらしいから、三島家の人達とも仲がいいのは納得だ。
美香の兄とも頻繁に連絡を取り合ってたのも頷ける。
ちなみに、兄は美香の他の同期にも連絡はしていたらしいが、誰も自由に時間を空けられなかったとのこと。
それに、美香と同じくらい母親と仲がいいというわけではなかった。
まぁそれはもっともだ。
というか、それが普通なんだがな。
そして美香はというと……確かに子供になってた。
池田の言うことには間違いはなかった。
間違いじゃなかったんだが……小学校低学年……いや、幼稚園年長くらいにまでなっていた。
池田からの連絡だけでは、美香のこの姿は想像もできなかった。
けど……髪の毛、長すぎ。
毛先が腰のあたりまで届いてる。
美香の母親が横たわっている棺の上に、自分の母親の顔を覗き込めそうな位置で、ニコニコ顔で座っていた。
(あ、おしょうさんだあ。おかあさん、おしょうさんがきたよ。おきてー)
口調も子供になっている。
姿にも驚いたが、姿相応の言葉遣いにも驚いた。
だが、美香の観察のために来ているのではない。
「それでは、これから枕経を執り行います」
「お願いします」
美香の兄は頭を下げる。
池田からは言葉はなく、ただ頭を下げるのみ。
棺の上に座っている子供姿の美香が気になるが、人間だったならその場から降ろすところだが、池田と俺以外誰からも見られることはない。
そのままいつも通りに読経を始めるところだが、やはりそこでも普通じゃない現象が起きてしまった。
美香の家にはただの様子見だけ。
そのあと、どこでどう調べたのか、美香の母親の見舞いにも行っている、とのこと。
それから五か月ほど経ってから、池田から驚くべき報告を受けた。
「美香が見舞いに行ってる?」
『というより、付き添いのつもりみたいね。身振り手振りでそんなこと言ってた……っぽい』
まぁ家を戸締りしても、物理的な遮断も素通りできる美香には無効。
けど家と病院の往復は難しかろう。
『お斎が終わった後もお母さんにしがみついて帰宅してたから、退院の後も家に帰れると思うんだけど」
病室に付き添う幽霊……って……シャレにならないような気がする。
が、一人きりで家の中にいるよりは、美香にはいいかもしれない。
母親がこれからどうするのかも知らないまま入院されて、母親がいつ戻ることができるか分からない家の中に一人きり。
子供に戻りつつある美香には過酷だろう。
成仏してくれりゃ何の問題もないんだが。
「いずれお母さんの方は、池田さんとか、他の見舞客に任せるしかない。俺が首突っ込むわけにはいかないからな」
『たくさんの檀家さん抱えてるから、この一軒だけ入れ込むわけにはいかない、だっけ? 分かってるよ。美香のことも、ある程度なら任せて。多くて月二回くらいしか来れないけど、お兄さんが時々顔出してるらしいし連絡は頻繁にとってるみたいだし、心配ないと思うよ?』
池田の本業、何なんだろうな。
交通費も出せる。休みも自由。
羨ましい限りだ。
「なら、ひとまず池田さんに任せた。よろしくな」
※※※※※ ※※※※※
雪の季節が、四季の一周を感じさせられるこの地域。
そんな意味で、また季節が一周し、美香の七回忌に当たる年を迎えた。
新年早々から池田の連絡を受けた。
「なんか、入院長引くみたいね。美香も入院してたでしょ。その面倒を見なきゃいけないからって気が張ってたんじゃないかなぁ。それから解放されて、気が抜けて、って感じかしらね」
よく聞く話だ。
だが、毎日飲む薬が、そんなに気に病む必要のない血圧だけってくらいには元気だった人だ。
半年たたずに退院するだろう。
気がかりなのは美香の方だ、と思ってた。
その通りだった。
『美香がね、小学生っぽくなってる』
なんだそりゃ。
「白装束もぶかぶかになってるだろうな」
『それが、サイズは体に合ってるのよ』
歩くと、白装束の裾を踏んづけて、床にビターンと音を出して倒れて、顔面をぶつけちゃうんじゃなかろうか、とか思ったりしたが。
まぁ普段からふわふわ浮いてるから、歩いて躓いて転ぶってことはないだろうが……。
「でも、どこまで若返るんだろうな」
『そんなのあたしも分からないわよ。見守るしかないわ』
だろうな。
そんなこんなで、池田が見舞いに来るたびにそんな連絡が来る。
その一言目は美香について。
しかも毎回毎回「子供になってる」だ。
どれだけ世代を遡ってるのやら。
だが、美香の様子を気にかけてばかりもいられない。
こんな風に時折来る池田からの連絡を受けつつも、日常の業務もこなしていく毎日。
雪が消えた頃に、その連絡は来た。
『もしもし、三島ですが』
その電話をかけてきた男は、美香の兄だった。
『入院していた母が亡くなりましたので、枕経をお願いします』
人はいつ死ぬか分からない。
それは頭の中では理解している。
だが、感情では理解できていなかった。
真っ先に浮かんだ言葉は「まさか」だった。
そして頭の中で渦巻くいろんなこと。
あんなに元気そうだったのに。
退院するんじゃなかったの?
亡くなってしまうほど、病状は悪かったの?
月命日どうすんだ?
家はどうするんだ?
そして。
美香はどうするんだ?
だが、この仕事をしている以上、即座に対応しなければならない。
「はい、分かりました。場所は? ではそうですね……今から一時間後に迎えをこちらに寄こしてもらえます? はい、はい、では……」
既にご遺体は、葬儀会場となる葬儀社に運び込まれてるらしい。
準備を整えて、迎えまでの空き時間に池田への連絡。
『うん、知ってる。お兄さんから連絡が来て、今ここにいるの』
いるのかよ。
『それがね、美香のお母さんはもう棺に納まってるんだけど』
特に何の問題もない。
気にするほどの事ではないのだが。
『美香が……子供になってる』
突拍子もない事を言ってきた。
子供……って……。
いや、今はそれどころじゃない。
迎えのタクシーが到着したからな。
※※※※※ ※※※※※
葬儀社の棺安置室には、美香の兄と池田の二人がいて、枕経の準備が整えられていた。
美香の兄は俺を迎えてくれたが、疲労感が何となく感じ取れる。
池田は困り顔で何やら思案しているようだ。
池田はタイミングよくその場に居合わせられたものだと思ってたら、美香とは幼馴染だったらしいから、三島家の人達とも仲がいいのは納得だ。
美香の兄とも頻繁に連絡を取り合ってたのも頷ける。
ちなみに、兄は美香の他の同期にも連絡はしていたらしいが、誰も自由に時間を空けられなかったとのこと。
それに、美香と同じくらい母親と仲がいいというわけではなかった。
まぁそれはもっともだ。
というか、それが普通なんだがな。
そして美香はというと……確かに子供になってた。
池田の言うことには間違いはなかった。
間違いじゃなかったんだが……小学校低学年……いや、幼稚園年長くらいにまでなっていた。
池田からの連絡だけでは、美香のこの姿は想像もできなかった。
けど……髪の毛、長すぎ。
毛先が腰のあたりまで届いてる。
美香の母親が横たわっている棺の上に、自分の母親の顔を覗き込めそうな位置で、ニコニコ顔で座っていた。
(あ、おしょうさんだあ。おかあさん、おしょうさんがきたよ。おきてー)
口調も子供になっている。
姿にも驚いたが、姿相応の言葉遣いにも驚いた。
だが、美香の観察のために来ているのではない。
「それでは、これから枕経を執り行います」
「お願いします」
美香の兄は頭を下げる。
池田からは言葉はなく、ただ頭を下げるのみ。
棺の上に座っている子供姿の美香が気になるが、人間だったならその場から降ろすところだが、池田と俺以外誰からも見られることはない。
そのままいつも通りに読経を始めるところだが、やはりそこでも普通じゃない現象が起きてしまった。
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