冷徹公爵は、契約妻に亡き妻の愛を重ねる

白桃

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第五話「陰謀の影」

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 エルネストが突きつけた羊皮紙には、信じがたい内容が記されていた。レオンハルトの領地で、違法な魔道具の取引が行われているというのだ。それも、レオンハルトの許可なしではありえない規模で。

「こんなはずはない……」

 レオンハルトは、激しく動揺した。自分が知らないところで、そんなことが行われていたなんて。

「レオンハルト様、一体どういうことなのですか?」

 アリアが、心配そうにレオンハルトを見つめる。レオンハルトは、アリアの問いかけに、首を振ることしかできなかった。

「俺も、何も知らない」

「何を言っている!証拠は全て揃っているんだぞ!貴様は、領民を裏切ったも同然だ!」

 エルネストが、さらに激しくレオンハルトを詰る。レオンハルトは、反論しようとするが、言葉が見つからない。

 その時、応接室にセバスチャンが入ってきた。

「旦那様、少しよろしいでしょうか?」

 セバスチャンは、レオンハルトに近づき、耳元で何かを囁いた。レオンハルトは、セバスチャンの言葉を聞くと、ハッと息を呑んだ。

「……分かった。ありがとう、セバスチャン」

 レオンハルトは、セバスチャンに礼を言うと、エルネストに向き直った。

「エルネスト、お前の言っていることは事実ではない。俺は、領民を裏切るような真似はしていない」

「何を!証拠はここにあるぞ!」

 エルネストは、羊皮紙を叩きつけ、なおも食い下がろうとした。しかし、レオンハルトは、冷静な口調で言った。

「その証拠は、偽物だ」

「な、何を言っている!?」

 エルネストは、レオンハルトの言葉に、激しく動揺した。

「セバスチャン、例の物を」

 レオンハルトが言うと、セバスチャンは、一冊の帳簿を持ってきた。それは、ベルンハルト公爵領の取引記録が記された、重要な帳簿だった。

「この帳簿には、エルネスト、お前が裏で不正な取引を行っていた記録が、全て記されている」

 レオンハルトが言うと、エルネストは顔色を変えた。

「そ、そんなはずはない!」

「証拠は全て揃っている。お前こそ、領民を食い物にし、私腹を肥やしていたのだ!」

 レオンハルトが告発すると、エルネストは言い逃れできなくなり、ついに観念した。

「……くそっ!いつか必ず、この借りは返してやる!」

 エルネストは、捨て台詞を吐き、応接室から出て行った。

 エルネストが出て行った後、レオンハルトは、安堵の息を吐いた。

「レオンハルト様……」

 アリアが、レオンハルトに近づき、心配そうに声をかける。

「心配かけたな、アリア」

 レオンハルトは、アリアの頭を優しく撫でた。

「いえ……それよりも、レオンハルト様こそ、大丈夫ですか?」

「ああ、平気だ。セバスチャンのおかげで、事なきを得た」

 レオンハルトは、セバスチャンに感謝の言葉を述べると、アリアを見た。

「……アリア、お前のおかげでもある。お前が、俺を信じてくれたから、俺も、冷静でいられた」

 レオンハルトがそう言うと、アリアは照れたように微笑んだ。

「当たり前のことをしただけです」

「……ありがとう」

 レオンハルトは、アリアに心から感謝の言葉を述べた。

 その夜、レオンハルトは、アリアに夕食に誘われた。レオンハルトは、アリアの誘いを断る理由もなく、喜んで承諾した。

 夕食の席で、レオンハルトは、アリアと様々な話をした。アリアの聡明さ、優しさ、そして何よりも、レオンハルトを信じようとする気持ちに、レオンハルトは心を奪われていた。

「アリア、俺は……」

 レオンハルトは、アリアに何かを伝えようとしたが、言葉に詰まってしまった。

「レオンハルト様?」

 アリアが不思議そうにこちらを見つめる。レオンハルトは、首を横に振った。

「……いや、何でもない」

 その時、レオンハルトは、ふと思った。アリアといると、心が温かくなる。初めての感情だった。レオンハルトは、この感情が何なのか分からなかったが、アリアを失いたくないと強く思った。

「……レオンハルト様、明日はお休みですが、何かご予定は?」

 アリアに尋ねられ、レオンハルトは少し考えた。

「そうだな……アリア、明日、一緒に町へ行かないか?」

「え?」

 アリアは、驚いたように目を見開いた。

「……ダメ、だろうか?」

 レオンハルトが不安そうに尋ねると、アリアは嬉しそうに微笑んだ。

「いいえ!ぜひ、ご一緒させてください!」

 アリアの言葉に、レオンハルトは安堵の息を吐いた。
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