桜の下でさよならを

book bear

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現実

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愛弓と一矢は急いで弦希の居る病院へと向かった。

向かう途中何も考える事が出来なかった。
弦希が亡くなったという実感が沸かなかった。

病院に入ると薬品の匂いが鼻をついた。
昼なのに、どこか暗い雰囲気の病院を蛍光灯がぼんやりと照らしていた。

案内所で弦希の居場所を調べてもらい、地下の霊安室へと向かう。

地下へ続く階段を一段降りる度に心が重くなってくる。

永遠に続くかとおもうほど長く感じた。

そして、霊安室の前につき愛弓に声をかけた。

「大丈夫か?少し休むか?」

不安な表情をしながら愛弓は大丈夫と言った。
その声は震えていた。

霊安室の扉がとても重く感じた、開けるとお香の匂いが部屋から流れ出ててくる。

弦希の両親がこちらに気づき、微笑みながら

「来てくれてありがとう」

と言った。

二人とも目が腫れていてる。
真ん中にある台を見るとそこには白い布を被せられた弦希が横たわっていた。

一歩、また一歩と弦希の方へ恐る恐る歩み寄る。
愛弓はまだ入口で立ちすくんでいた。

弦希の横にたどり着いた一矢は、弦希の顔を見つめた。

まるで寝ているようにしか見えない、本当に死んでいるのか?

起きろよ!と言えば目を擦りながら今にも起きそうだった。

「事故にあったのよ、今朝登校する時に信号無視した車に跳ねられてね、どうやら運転手はスマホをいじってたらしいの」

弦希の母はそう言ってまた泣き始めた。
お父さんが母の肩を抱きしめて、二人で泣いていた。

そんな、理由で弦希の命は奪われたのか。
俺たちの約束は、弦希の愛弓に対する想いはもう取り返しがつかないのか。

一矢は受け入れることができなかった。
リセットボタンがあるなら今すぐ押してやり直しをしたいと思った。

だが、現実はそんなあまくない、例え理不尽であったとしても受け入れなければならない。

もう、弦希が戻ることはない。
弦希は死んだのだ。


「くそ!弦希!・・・・なんでだ・・・・」

ショックで立てなくなりそうな体を弦希の眠る台に両手を置き支えた。

「うぅ・・・うそだろ、なんとかならないのか・・・」

一矢の涙が弦希にかけられた白い布に吸い込まれていく。

一矢の様子を見ていた愛弓もゆっくりと弦希の元へ歩み寄る。

不安そうに両手を胸元で握りしめながら。

弦希を見た愛弓は静かに声を殺して泣き、そのまま床にへたりこんでしまった。
運転手のたった一瞬の油断が3人の想いと、約束、人生を奪ってしまった。





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