二人の為のピアノソナタ

book bear

文字の大きさ
16 / 21

コンサート2

しおりを挟む
曲目は順調に進み、いよいよ最後の曲が始まろうとしていた。

湊音と二人きりの夢のような時間ももう終わる。
早く聴きたいと思う気持ちと、まだ始まらないでほしいという気持ちがせめぎ合っていた。

そんな凛音の気持ちはお構いなしに二人のピアニストはピアノの前に押しを下ろす。

会場は静まり、観客は始まる瞬間を待つ。

そして演奏が始まった。

2台のピアノが軽快に、そして絶妙なハーモニーを奏でていた。

そんな演奏に観客は引き込まれていく。

湊音も凛音も、引き込まれていく。

この時、二人ともこの曲に同じイメージを抱いていた。

二人は自分の想像の中、春の温かい日差の降る草原に居た。

春風が優しく通り過ぎていく。
そして、風になびいた植物が音を立てていた。

そんな草原の真ん中に、2台のピアノが花に囲まれて置かれていた。
気持ち良さそうに佇んでいるピアノの元へゆっくりと近づいていく。

花の香りが鼻腔をつく。
とても心地が良かった。

そのままピアノの前に座ってみる。
陽に温められていていた椅子からは、じんわりと温もりを感じる。

そして今聞いている「2台の為のピアノソナタ」を演奏しはじめた。

すると向かいのピアノからも音色が聴こえてきた。
自分の演奏に合わせてくれている。
誰だろう、こんなにも自分の演奏を理解してくれている。

二人は演奏というコミュニケーションで会話を続けていく。

「君は?」

「私はあなたの事をよく知る人よ、昔からあなたの演奏を聴いていた、だからあなたの事をよく知っている、あなたは?」

「僕かい?僕も君の事を知っているような気がするんだ、どこか懐かしさを感じる演奏、なんでだろう、不思議と君に合わせることができるんだ」


「私達気が合うのね」

「そうみたいだね、音楽を共有することがこんなにも楽しいなんて知らなかったよ。

僕は今まで一人で弾いてたからね」

「そうなのね、私も一人で気ままにピアノを弾いてきたから二人でやる楽しさは初めて」

「そうだ、君の名前聞いてもいい?」

「私?私の名前は・・・・」

「え?聞こえない」

「あなたの名前は?」

「僕?僕の名前は・・・・」


二人は演奏を止めてお互いの顔を確認するために立ち上がった。

顔を見ようとしたが、演奏が終わり想像の世界から帰ってきてしまった。

すると湊音の目の前に凛音の顔があった。

そして凛音の前に湊音の顔が。

二人は見つめ合っていた。

言葉をかわさずともお互いが今見た事は共有されていた事を感じ取ることができた。

湊音は言った。

「君は凛音だったのか」

うんと頷いて凛音は

「あなたは湊音だったのね」

お互いの名前を知っているのに、まるで知らなかったような不思議な会話となった。

その事におかしくなった二人は静かに笑いあった。
この日から二人は下の名前で呼び合うようになった。

そして、お互いにお互いを意識しはじめるきっかけとなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

押しつけられた身代わり婚のはずが、最上級の溺愛生活が待っていました

cheeery
恋愛
名家・御堂家の次女・澪は、一卵性双生の双子の姉・零と常に比較され、冷遇されて育った。社交界で華やかに振る舞う姉とは対照的に、澪は人前に出されることもなく、ひっそりと生きてきた。 そんなある日、姉の零のもとに日本有数の財閥・凰条一真との縁談が舞い込む。しかし凰条一真の悪いウワサを聞きつけた零は、「ブサイクとの結婚なんて嫌」と当日に逃亡。 双子の妹、澪に縁談を押し付ける。 両親はこんな機会を逃すわけにはいかないと、顔が同じ澪に姉の代わりになるよう言って送り出す。 「はじめまして」 そうして出会った凰条一真は、冷徹で金に汚いという噂とは異なり、端正な顔立ちで品位のある落ち着いた物腰の男性だった。 なんてカッコイイ人なの……。 戸惑いながらも、澪は姉の零として振る舞うが……澪は一真を好きになってしまって──。 「澪、キミを探していたんだ」 「キミ以外はいらない」

処理中です...