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24.なんでも屋の初仕事
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「ジジ殿には秘密裏に国境に入る手段があると?」
「密入国の罪を、儂らが被らなくて済むなら力をお貸し出来ますぞ」
「ジジ殿……怖いお方だ。何処まで知っておられるのか」
「まぁ、他言致しませんゆえ、ご一考下され。返事は明日にでも」
そう言うとジジはジャンに背を向け屋敷の中に入ってしまった。
その途端、周囲の虫の音が耳に入ってくる。
ジジが今の会話を孫娘達に聞かれないように結界を張っていたのだとジャンは気付いた。
魔力の動きは全く感じなかった。
(これが賢者の実力か。これは考えるまでもないな)
ジャンの腹は決まった。
◇◆◇
「ジジ殿の申し出。是非お長いしたい。ジジ殿の懸念は私が保証しましょう。謝礼も可能な限り致します」
次の日の朝、朝食の席で早速ジャンはジジに返事をした。
この場には、やはりアーティアはいない。
話が見えず、カロンがポカーンとしていた。
「ほっほ、報酬はお金では無く、アーティアのお手伝いをお願いしたいのですがのう」
ジジの言葉でカロンはピーンと来た。
ジジイが大切なお姉ちゃんの為にイケメンさんを巻き込む気なのだと。
(ちょびっとだけ見直したよジジイ)
カロンのジジに対する敬意がほんの少し上昇した。
カロンのジジに対する評価は今日も辛口だった。
「アーティアさんの……具体的にはどの様な?」
お手伝いでは余りに抽象的に過ぎる。
ジャンの質問は尤もなことだ。
しかしアーティアに掛けられた邪法の話をしなければならないし、邪法を解く手がかりを探すのもこれからなのである。
「アーティアはある呪いを掛けられておる。その呪いなんじゃが、ジャンの殿のご専門の可能性が高くてのう」
「そこまでご存知とは。判りましたそういう事なら報酬の方も了解しました。ご協力しましょう」
「ん、どういう事? ま、いいけど。それよりお姉ちゃん抜きで決めちゃっていいの」
「儂から話すかの」
こうしてジジが説得に当たることになった。
◇◆◇
朝食の後暫くしてアーティアが寝室から出てきた。
アーティアが見渡した限り、ジャンとカロンの気配は無い。
2人には散歩に出て貰っている。
だから、今屋敷にいるのはジジとアーティアの2人だ。
「ジジ様おはよう御座います」
「おはようアーティア。少し良いかのう」
「はい」
アーティアは勧められて席に着いた。
「あの、それでどの様なお話ですか?」
「実はジャン殿より仕事の依頼を受けてのう。帝国までジャン殿を密入国させることになったのじゃよ」
「え、密入国…… 大丈夫でしょうか。捕まったりとか」
「ジャン殿は帝国の騎士じゃからその辺は不問にしてくれるそうじゃ。そもそもジャン殿がお国の中で陰謀に巻き込まれているので表立って入国出来ないから仕方がないのじゃよ。入国した後で黒幕を処断するための証拠探しが本当の仕事じゃな」
「お話は判りましたけど。私はどうしたらいいでしょう」
「勿論アーティアにも来てもらうつもりじゃよ。儂の仕事の手伝いをすることになっておるじゃろ」
「はい、判りました」
アーティアは不安だったが、この命はジジに助けられたもの。
だからジジ達の為に失われても文句はない。
ジジとカロン、2人との穏やかな生活に、日々感謝もしている。
アーティアが異を唱えるはずも無かった。
「アーティア有難う」
「そんな、ジジ様。お礼を申し上げるのは私の方です」
「ほっほ、アーティアはいい娘じゃのう。それでアーティアには辛いじゃろうが、依頼を受ける以上、アーティアの邪法の件をジャン殿には理解してもらう必要があってのう。大丈夫アーティアの存在が漏れるような事にもならんから」
その言葉をアーティアは予想していた。
暫く一緒に行動するなら、何時までも顔を隠したままにしておけない。
もしジャンに嫌悪感を持たれたとしても、ジジとカロンがいてくれる。
アーティアは意を決して静かに頷いた。
「ジジ様、ジャン様には今までの無礼のお詫びもしたいので2人で話させて下さい」
◇◆◇
アーティアの願いにより、今アーティアの目の前にはジャンがいる。
アーティアはいつものフードを被っていた。
2人きりでの会話を望んだのは、当然理由がある。
それはアーティアが自身の意志で前に進む為。
ジジやカロンに頼らずに自分で伝える為だった。
「お早うアーティア殿」
「お早う御座いますジャン様。お話するお時間を頂きありがとうございます」
「構いませんとも。それでどの様なお話でしょうか」
アーティアは目を閉じ、自分の決意を再確認する。
まぶたの裏にジジとカロンの顔が浮かぶ。
(大丈夫、私にはジジ様もカロンちゃんもいるわ)
目を開けたアーティアにはもう迷いは無かった。
「私は今まで騎士であられるジャン様にフードを被ったままという大変な失礼をしておりました。大変申し訳ございませんでした」
アーティアは深々と頭を下げる。
「頭をお上げ下さい。失礼などと考えてもいませんよ」
ジャンの優しい言葉を受け、アーティアは頭を上げる。
ジャンはアーティアを安心させる様に優しげに微笑んでいた。
「寛大なお言葉、有難うございます。それでジジ様よりジャン様のご依頼のお話をお聞きしました。それで今のままではいけないと思い、このお時間を作って頂きました」
「心してお聞きしよう」
改めてジャンが姿勢を正した。
アーティアの言葉に真剣向き合おうとするジャンの紳士さにアーティアは心打たれた。
「私は王都にある王立魔術学院の生徒で、ある日顔に火傷を負いました。自ら《火傷治療》を何度も掛けたのですが治らず、結局私は学院を去りました。ジジ様のお話ではこの火傷は邪法によるもので、その影響で私の顔は見たものに必要以上の嫌悪感を与えてしまうそうです。今日は見苦しい顔をお見せするので心苦しいのですがお付き合い頂けませんか?」
「アーティアさん、私の一族は邪法の類には強い抵抗力があるんだ。だから大丈夫、邪法の影響で私が君を嫌うことは無い」
ジャンはアーティアが頷くの見た。
そして、アーティアは被っているフードを捲り顔を顕にした。
「これが、私です」
アーティアは俯いていたが、言葉と共に顔を上げ、瞳はしっかりとジャンを捕らた。
ジャンは自分がつばを飲んだのを自覚できなかった。
ジャンの目に映るアーティアの右半分は爛れている。
ジャンには耐性があるので呪いの影響は受けず、嫌悪感は無い。
そしてその爛れが自分の一族の敵の仕掛けた呪いであることも直ぐに判った。
だがそんな事以上に、アーティアの顔の左半分に心を奪われてしまった。
ジャンにはアーティアの顔と今までの話から彼女の素性に思い当たる事があった。
美しい金髪と青い瞳。
呪いを受けるような妬まれる立場。
王立魔術学院の生徒だったという事は魔法が使うことができる者で、この国でそれはほぼ貴族である事。
所作仕草から貴族の中でも高位の貴族であると思われる事。
そして、自ら光属性魔法《火傷治療》を使ったと言っていた。
なにより、魔の陥没湖の近くでひっそりと隠れる様に生活している事。
ジジの孫娘と紹介されたが、ジジの事を「お爺様」ではなく「ジジ様」と呼んでいた。
それらが何を示しているのか。
直ぐに思い当たる人物に行き着いた。
ジャンが会いたいと思っていた人物に。
(貴女は私が絶対にお助けします)
アーティアの言葉からは恨み辛みが出てこない。
心優しく、それでいて物事を冷静に判断できる女性。
ジャンはアーティアに惚れてしまったと自覚した。
自分の都合はこの際どうでもよい。
只々、彼女に笑顔を取り戻してあげたい。
その笑顔を見たいという思いがジャンに、彼女の呪いを解く事に全面協力する事を決意させた。
「有難うアーティアさん。大丈夫、君は美しい人だ」
その言葉はアーティアは驚かせた。
ジャンの言葉が嬉しくてアーティアは目から涙が溢れそうになる。
が、そうならならなかったのはジャンに両手を握られてしまい、そちらの驚きがあったからだ。
そして、手を離してくれない。
白磁気のように白い肌は直ぐに耳まで真っ赤に染まった。
アーティアは感動以上に恥ずかしさが勝ってしまったのだった。
恥ずかしさのあまりアーティアは固まり、言葉も出せなかった。
アーティアがこの羞恥から救出されるまであと1分だが、アーティアには10分に感じられたのだった。
「密入国の罪を、儂らが被らなくて済むなら力をお貸し出来ますぞ」
「ジジ殿……怖いお方だ。何処まで知っておられるのか」
「まぁ、他言致しませんゆえ、ご一考下され。返事は明日にでも」
そう言うとジジはジャンに背を向け屋敷の中に入ってしまった。
その途端、周囲の虫の音が耳に入ってくる。
ジジが今の会話を孫娘達に聞かれないように結界を張っていたのだとジャンは気付いた。
魔力の動きは全く感じなかった。
(これが賢者の実力か。これは考えるまでもないな)
ジャンの腹は決まった。
◇◆◇
「ジジ殿の申し出。是非お長いしたい。ジジ殿の懸念は私が保証しましょう。謝礼も可能な限り致します」
次の日の朝、朝食の席で早速ジャンはジジに返事をした。
この場には、やはりアーティアはいない。
話が見えず、カロンがポカーンとしていた。
「ほっほ、報酬はお金では無く、アーティアのお手伝いをお願いしたいのですがのう」
ジジの言葉でカロンはピーンと来た。
ジジイが大切なお姉ちゃんの為にイケメンさんを巻き込む気なのだと。
(ちょびっとだけ見直したよジジイ)
カロンのジジに対する敬意がほんの少し上昇した。
カロンのジジに対する評価は今日も辛口だった。
「アーティアさんの……具体的にはどの様な?」
お手伝いでは余りに抽象的に過ぎる。
ジャンの質問は尤もなことだ。
しかしアーティアに掛けられた邪法の話をしなければならないし、邪法を解く手がかりを探すのもこれからなのである。
「アーティアはある呪いを掛けられておる。その呪いなんじゃが、ジャンの殿のご専門の可能性が高くてのう」
「そこまでご存知とは。判りましたそういう事なら報酬の方も了解しました。ご協力しましょう」
「ん、どういう事? ま、いいけど。それよりお姉ちゃん抜きで決めちゃっていいの」
「儂から話すかの」
こうしてジジが説得に当たることになった。
◇◆◇
朝食の後暫くしてアーティアが寝室から出てきた。
アーティアが見渡した限り、ジャンとカロンの気配は無い。
2人には散歩に出て貰っている。
だから、今屋敷にいるのはジジとアーティアの2人だ。
「ジジ様おはよう御座います」
「おはようアーティア。少し良いかのう」
「はい」
アーティアは勧められて席に着いた。
「あの、それでどの様なお話ですか?」
「実はジャン殿より仕事の依頼を受けてのう。帝国までジャン殿を密入国させることになったのじゃよ」
「え、密入国…… 大丈夫でしょうか。捕まったりとか」
「ジャン殿は帝国の騎士じゃからその辺は不問にしてくれるそうじゃ。そもそもジャン殿がお国の中で陰謀に巻き込まれているので表立って入国出来ないから仕方がないのじゃよ。入国した後で黒幕を処断するための証拠探しが本当の仕事じゃな」
「お話は判りましたけど。私はどうしたらいいでしょう」
「勿論アーティアにも来てもらうつもりじゃよ。儂の仕事の手伝いをすることになっておるじゃろ」
「はい、判りました」
アーティアは不安だったが、この命はジジに助けられたもの。
だからジジ達の為に失われても文句はない。
ジジとカロン、2人との穏やかな生活に、日々感謝もしている。
アーティアが異を唱えるはずも無かった。
「アーティア有難う」
「そんな、ジジ様。お礼を申し上げるのは私の方です」
「ほっほ、アーティアはいい娘じゃのう。それでアーティアには辛いじゃろうが、依頼を受ける以上、アーティアの邪法の件をジャン殿には理解してもらう必要があってのう。大丈夫アーティアの存在が漏れるような事にもならんから」
その言葉をアーティアは予想していた。
暫く一緒に行動するなら、何時までも顔を隠したままにしておけない。
もしジャンに嫌悪感を持たれたとしても、ジジとカロンがいてくれる。
アーティアは意を決して静かに頷いた。
「ジジ様、ジャン様には今までの無礼のお詫びもしたいので2人で話させて下さい」
◇◆◇
アーティアの願いにより、今アーティアの目の前にはジャンがいる。
アーティアはいつものフードを被っていた。
2人きりでの会話を望んだのは、当然理由がある。
それはアーティアが自身の意志で前に進む為。
ジジやカロンに頼らずに自分で伝える為だった。
「お早うアーティア殿」
「お早う御座いますジャン様。お話するお時間を頂きありがとうございます」
「構いませんとも。それでどの様なお話でしょうか」
アーティアは目を閉じ、自分の決意を再確認する。
まぶたの裏にジジとカロンの顔が浮かぶ。
(大丈夫、私にはジジ様もカロンちゃんもいるわ)
目を開けたアーティアにはもう迷いは無かった。
「私は今まで騎士であられるジャン様にフードを被ったままという大変な失礼をしておりました。大変申し訳ございませんでした」
アーティアは深々と頭を下げる。
「頭をお上げ下さい。失礼などと考えてもいませんよ」
ジャンの優しい言葉を受け、アーティアは頭を上げる。
ジャンはアーティアを安心させる様に優しげに微笑んでいた。
「寛大なお言葉、有難うございます。それでジジ様よりジャン様のご依頼のお話をお聞きしました。それで今のままではいけないと思い、このお時間を作って頂きました」
「心してお聞きしよう」
改めてジャンが姿勢を正した。
アーティアの言葉に真剣向き合おうとするジャンの紳士さにアーティアは心打たれた。
「私は王都にある王立魔術学院の生徒で、ある日顔に火傷を負いました。自ら《火傷治療》を何度も掛けたのですが治らず、結局私は学院を去りました。ジジ様のお話ではこの火傷は邪法によるもので、その影響で私の顔は見たものに必要以上の嫌悪感を与えてしまうそうです。今日は見苦しい顔をお見せするので心苦しいのですがお付き合い頂けませんか?」
「アーティアさん、私の一族は邪法の類には強い抵抗力があるんだ。だから大丈夫、邪法の影響で私が君を嫌うことは無い」
ジャンはアーティアが頷くの見た。
そして、アーティアは被っているフードを捲り顔を顕にした。
「これが、私です」
アーティアは俯いていたが、言葉と共に顔を上げ、瞳はしっかりとジャンを捕らた。
ジャンは自分がつばを飲んだのを自覚できなかった。
ジャンの目に映るアーティアの右半分は爛れている。
ジャンには耐性があるので呪いの影響は受けず、嫌悪感は無い。
そしてその爛れが自分の一族の敵の仕掛けた呪いであることも直ぐに判った。
だがそんな事以上に、アーティアの顔の左半分に心を奪われてしまった。
ジャンにはアーティアの顔と今までの話から彼女の素性に思い当たる事があった。
美しい金髪と青い瞳。
呪いを受けるような妬まれる立場。
王立魔術学院の生徒だったという事は魔法が使うことができる者で、この国でそれはほぼ貴族である事。
所作仕草から貴族の中でも高位の貴族であると思われる事。
そして、自ら光属性魔法《火傷治療》を使ったと言っていた。
なにより、魔の陥没湖の近くでひっそりと隠れる様に生活している事。
ジジの孫娘と紹介されたが、ジジの事を「お爺様」ではなく「ジジ様」と呼んでいた。
それらが何を示しているのか。
直ぐに思い当たる人物に行き着いた。
ジャンが会いたいと思っていた人物に。
(貴女は私が絶対にお助けします)
アーティアの言葉からは恨み辛みが出てこない。
心優しく、それでいて物事を冷静に判断できる女性。
ジャンはアーティアに惚れてしまったと自覚した。
自分の都合はこの際どうでもよい。
只々、彼女に笑顔を取り戻してあげたい。
その笑顔を見たいという思いがジャンに、彼女の呪いを解く事に全面協力する事を決意させた。
「有難うアーティアさん。大丈夫、君は美しい人だ」
その言葉はアーティアは驚かせた。
ジャンの言葉が嬉しくてアーティアは目から涙が溢れそうになる。
が、そうならならなかったのはジャンに両手を握られてしまい、そちらの驚きがあったからだ。
そして、手を離してくれない。
白磁気のように白い肌は直ぐに耳まで真っ赤に染まった。
アーティアは感動以上に恥ずかしさが勝ってしまったのだった。
恥ずかしさのあまりアーティアは固まり、言葉も出せなかった。
アーティアがこの羞恥から救出されるまであと1分だが、アーティアには10分に感じられたのだった。
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