上 下
6 / 17

6 死にゆくワルツ

しおりを挟む




まるで何かのドラマか、映画の様だった。

僕を取り囲む様にした数人の男たちは、コイツが手配したらしく指示を仰いでいた。

「新庄紘一くん、今日、弁護士入れて話し合いしたよね?
 君も一緒に。」

「そうだな。
 だが、告訴を取り下げてくれたら、こんな事しなくて済む」

「弟くんのために、ここまでやるの?」

「まあ、アイツは自業自得だけどな。
 身内から犯罪者を出したら、俺の将来が潰されるからな。
 それに、今なら、セックスもうまくやってやるよ?」

言葉は汚く、笑顔や立ち振る舞いは紳士然として、新庄紘一は下衆な提案をして来た。

「うーん、間に合ってるし
 君、下手くそすぎて勃たないし」

それこそ、綺麗に笑って見せた。

「きっと、君の粗末なものじゃ気持ち悪すぎて吐いちゃうしね。
 これ、立派な強迫だよね? 
 拉致でもする?」

弁護士資格は当然なくなるだろうし、リスク高いと思うんだけど。
イライラとした感じで、やけに足をパタパタしてみたり、興奮したように汗をかいているのが、不自然だった。

「俺の愛人なら、身内の事として処理できるさ」

「愛人になるつもりなんかないけど」

「なるさ
 薬塗って突っ込めば、病みつきだからな」

きめセクか。

常習犯だと言うことがわかる内容で、うまく録れてるといいなあ、なんてぼんやり思ってた。
薬がキレてきたらしく、本性を出してきた。

「相変わらず綺麗な顔してんなぁ
 あの頃と変わらねぇじゃん」

紳士然とした笑いから、下卑たチンピラの様な笑へと変化した。
取り囲んでいる男達は、どこかのヤクザかなあ。

「そう? 
 別にどうでもいいし」

「お前の意思なんかいらねーんだよ
 ニーナは行方不明でこのまま海外へ売られて、二度と日本では発見されることはないさ」

人目がある白昼堂々やるとはね。

「残念だけど、電話がうちの弁護士とマネージャーに繋がってるから、無理だと思うよ。」

大分時間稼ぎをしたおかげで、私服の警察官が周りを取り囲んでいた。

「お前!!」

「僕は、顔だけなんで、誰かや周りに頼るしかないんで、こうなりました。」

「俺達、恋人だろ!?」

私服警官の横に立ってる顕彰さんの表情が目に入って、こいつが”恋人”と言った言葉を聞かれたのが分かった。

嫌悪感、を見せた。

そっか、そうだよね。
ボクはもう、誰かを好きになる資格も失っていたんだと、この時理解した。
誰も好きにならない、じゃなくて誰も好きになってはいけない、だったんだ。

僕は、ここで、新庄紘一に、新庄という男を7年も経って得た復讐する選択肢を、選んでしまっていたから。
復讐せずに、自分の為に生きて行けば良かったのに、その選択をするには僕と言う人間が汚かったからできなかった。

顕彰さん、ママでマスターで優しい強い人。

こんなに、この人の表情一つで僕は砂を飲み込んだように、苦しくて痛くなるんだ。

「新庄、くん
 君、バカだなぁ
 僕もバカだったけど
 7年も経って、僕は君に言えるよ
 大好きで、大嫌いだった人
 さようなら」

やっと、終わらせらる。

連れて行かれる数人の男たちと同じくして、新庄も拘束され腕を掴まれたまま、近くの車へと押し込められていた。

その姿、車を見送って、僕はこれから立ち向かわなければいけない事を考えた。

マネと顕彰さんが駆け寄ってきて、心配したと言われた。

「ニーナ、お前こんなことになるってわかってて、
 俺たちと離れたな?」

蓮見マネが睨みながら、腕を組んで俺を見下ろした。

「賭け、でした。
 彼が、決定的な何かを仕掛けてくれるように
 あの話し合いの中での彼の視線が、それを示してしいたと思ったんです。」

「危険すぎるだろ。」

「まさか、ヤクザと繋がっているとは思っていませんでしたけど」

こんな業界は、繋がっているところもあったりするらしい。
僕の入ってる事務所がまともで良かった。

「ニーナ、私は言ったよね?
 困ったことがあるなら、頼れって」

最初の?
それとも、さっきの?

「十分、頼ってますよ」

笑顔を貼り付けて、顕彰さんに向き直ると、さっき見せた嫌悪感を浮かべていた。
キツイな…。
こんな表情をされると、自分の汚さを観られているようで、落ち着かない。

「ニーナ、私たちは新庄と君に関係があったなんて聞いてなかった」

「僕も、あの時まで忘れていましたよ」

嘘だ。
忘れてしまう事なんてできなかった。
苦しい気持ちはずっと、ずっと燻ってフラッシュバックしていた。

「ふーっ、あとで話そう」

顕彰さんはその話題を切り上げて、警察の事情聴取を受けたり、本当に疲れた。
ただ、僕にとっては一つの復讐が終わりを告げただけだった。

爽快感は全く無かった。
時間がたち過ぎた復讐だったし、顔だけと言われた僕の顔もメディアでは受け入れられ必要とされ、どこか虚しさがあるものの、充実もしていた。

ネットに晒したのが僕のスマホからだったのか、他の誰かだったのか、それはこれからだけど。
復讐の代償があるなら、それを僕も受けなければいけない。
その後は、僕も踊るのを止めようと決めていた。

愛する資格も、愛される資格もない僕は、隠遁生活の為に動くことにした。








しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

その声に弱いんだってば…。

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:27

セダクティヴ・キス

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:4

王冠にかける恋

BL / 連載中 24h.ポイント:184pt お気に入り:41

独り占めしたい

BL / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

人気アイドルが義理の兄になりまして

BL / 完結 24h.ポイント:362pt お気に入り:280

猫耳アイドル

BL / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:7

ソング・バッファー・オンライン〜新人アイドルの日常〜

BL / 連載中 24h.ポイント:654pt お気に入り:69

【氷のイケメンがやたら甘やかしてくるのだけど】

BL / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:592

処理中です...