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おっさんと王国観光

貴族の家

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「何が神だ! いざという時に助けてくれるという保証がどこにある!」
「まぁまぁ……」

 神父の言葉が気に食わなかったようで、ルーエは早々に教会を出ようと言い出した。
 俺からすると、どちらの言うことにも一理あって、互いに正しいと思える。
 この考え方が中途半端と言われてしまえばそれまでだが。

「じゃ、じゃあ今度は貴族の家の見学に行こうか?」
「……うむ。人の家など見て何が楽しいのか分からんが、とりあえず行ってみるか」

 どうにかルーエを宥めて、俺たちは歩き出した。
 向かっている貴族の家は総じてカントリー・ハウスと呼ぶらしい。
 道ゆく人の言葉を盗み聞……参考にさせてもらった結果、カントリー・ハウスについての知識を得ることができた。
 俺は今まで、貴族の長男は家督を継ぐことができるため、かなり楽な生活を送ることができると思っていた。
 もちろん、俺の予想通りの生活を送っているものは多いらしい。
 だが、アッパークラスの中にもかなりの差があるらしく、ミドルクラスとそう変わらない資産の家もあるようだ。
 そういう家は、貴族としての誇りでもある自らの邸宅を売り払うことも視野に入れつつ、基本的には保持する方針をとるらしい。
 しかし、維持費等で財政面は圧迫され続ける。
 それに対して豪邸の家主は、自らの家を市民に見学させることで、または人々の社交の場として提供することで金銭を得て、それを維持費に充てるのだとか。

「ってことで、これがウォリック伯爵の家らしいよ」
「なんというか……横に広いな」

 ルーエのいう通り、ウォリック伯爵の邸宅は横に広かった。

「あぁ、ようこそいらっしゃいました。私がウォリック伯爵です」
「貴族の方が自ら出迎えてくださるんですか?」
「はい。私が出迎え、私が家の説明をするからこそ観光客が後を絶たないんですよ」

 てっきり鼻持ちならない人ばかりだと思っていたが、ウォリック伯爵は物腰も柔らかく、俺たちに家の隅々まで教えてくれた。
 教会は天井が高く、塔のような見た目であったのに対して、こちらの家はとにかく部屋数が多い。

「このシャンデリアは祖父の代の時に王から贈られたものらしく、魔術を使えるメイドがいないと掃除が大変で……」

 シャンデリアと呼ばれた豪華な照明器具や、大きな暖炉。
 彫刻や絵画も多く飾られている。

「この絵は誰が描いたものなんだ? なかなかに私の好みだ」
「えっとですね……どこかにカタログがあったと思うので後ほどメイドにお持ちさせます」
「じ、自分の家の美術品のことがわからないのか……?」
「えぇ。この国の貴族は大抵そういうものです。他人の暮らしに興味はありますが、自宅の歴史に興味を持つことは少ないですね」

 なんというか、国によって文化の違いがあるのだろう。
 その後も俺たちは図書室、音楽室、ビリヤード室、屋外用のプールなど、様々な部屋を見学することができた。

「……このハンカチはジャケットの色と被っていて良くないですね。もう少し薄いものを用意させましょう」

 微かに声が聞こえた方へ視線をやると、高価そうな服を着た女性が子供の身だしなみについてあれこれ言っているのが見えた。

「これはお恥ずかしいところを、あれは私の娘とその子供です。数日後の社交界のための服装選びをしているんですよ」
「色が合ってるだの合ってないだの、人間は大変だな」
「ははは。ルーエさんのおっしゃる通りです。あなたはこの国で人気になれると思いますよ」
「す、すみませんこいつが失礼なことを……」

 急いでルーエの頭を掴んで下げさせる。
 だが、ウォリック伯爵は今回も愉快そうに笑っていた。

「いえいえ、皮肉ではなく本当にそう思っているのですよ。この国の女性は相続権を持っていないからか奥ゆかしい方が多くてですね、ルーエさんのように恐れずに意見を伝えられる女性は魅力的に見えるのです。もしやエンバー共和国の出身ですかな?」
「いや、違う。私はある王国の出身だ」
「そうでしたか。ケンフォード王国と密接な関係にあるエンバー共和国の女性も同じように自分の意思を持っているものですから。彼女たちには相続権があって、それが関係しているのかもしれませんね」
「確かに私も相続……的なものはしているな。ウォリックと言ったか、なかなかの慧眼じゃないか」
「ははは、ありがとうございます。ジオさんはこのような素敵な女性を伴侶とすることができて幸運ですね」

 詳しいことは分からなかったが、尊大なルーエの態度がウォリック伯爵の気に召したらしい。

「……ふふふ。そうか、ジオは幸運か……」
 
 ルーエもルーエで伯爵の言葉が嬉しかったようで、教会での不機嫌など忘れてしまったかのようにご機嫌だった。
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