代わりはいると言われた私は出て行くと、代わりはいなかったようです

天宮有

文字の大きさ
3 / 70

第3話

しおりを挟む
 私がアリード家を捨ててから、数日が経っていた。

 ザライン国にいたくなかった私は、他国に向かっている。

 隣国の街に到着した私は、宿に泊まることにしていた。

 私が今いるエトラス国は、今までいたザライン国より危険らしい。
 魔物の種類が多くて、貴重で高価な物が入手しやすいようだ。

 危険だけど繁栄しているようで、他国からやってくる人も多い。
 平民となった私は今までいたザライン国よりも、エトラス国の方が暮らしやすそうと考えていた。

 宿の部屋で1人になって、私は呟く。

「ポーション作りの日々から解放されたのはよかったけど、これからどうしましょう」

 所持金も生活に必要なものの購入、移動と宿代でかなり使っていた。

 私は鞄に手を伸ばして、幾つものポーションを手に取って眺める。
 前に作っていたポーションは、準備していたから所持することができていた。

 何かあった時の備えだったけど、今まで飲むような出来事は起きていない。
 所持金が尽きればポーション売るしかないと考えて、これからのことを考える。

 生きるためには、ポーションを作るのが一番よさそうだ。

 疲弊しない程度で調合魔法を使い、ポーションを作って生活しよう。

 そこまで考えた私は、明日の予定を決めて呟く。

「冒険者ギルドでポーションを取引してもらえるはずだから、明日は価値を聞きに行きましょう」

 手持ちのポーションの価値を知ってから、これからの行動を決めよう。

 今後の方針を決めた私は、明日に備えて眠りについていた。

■◇■◇■◇■◇■

 翌日――私は冒険者ギルドに到着して、辺りを見渡して呟く。

「ここが、冒険者ギルド……ですか」

 外からでも賑わっている声が聞こえてきて、私は緊張してしまう。

 詳しくは知らないけど、誰でも依頼を受けて報酬がもらえる場所のはず。

 覚悟を決めて、私は大きな建物の扉を開けて中に入る。
 周囲を眺めていると、飲食店も併設しているようで幾つものテーブル席が見えた。

 そして――カウンターでは制服を着ている女性が、大声で叫んでいた。

「ここにいる方で回復魔法を使える方はいませんか! 緊急です! すぐに受付まで来てください!!」

 席に座っている人達も、飲食店から少し離れたカウンターで叫ぶ人に注目している。
 恐らく叫んだ女性は冒険者ギルドの受付をしている職員の人と推測できて、かなり焦っているようだ。

 受付の人の元には、1人しかやって来ていない。
 回復魔法を使える人はこの場に1人しかいないようで、私は考える。

 私は回復ポーションがあるけど、限りがあるから治せるのは数人程度だ。

 そう考えてから――閃いた私は、受付の人がいるカウンターへ向かう。

 テーブル席でざわめいているけど、回復魔法を使えると思われたのかもしれない。
 受付の人が明るい表情になったから、私は先に鞄からポーションを先に出して話す。

「魔力回復のポーションなら持っています。回復魔法を使う人の魔力が尽きそうな時は、飲んでください」

 明らかに緊急事態なのに放置して、魔力回復ポーションをこの場で売ることが私にはできなかった。

 材料さえあれば問題なく作れるし、渡しても構わない。

 そう考えていると、美青年が驚いた様子で叫ぶ。

「魔力回復ポーションだって!? 確かに……本物のようだ」

「マルクス様が仰るのでしたら、間違いありませんけど……」

 短い黒髪の美青年の名前は、マルクスというらしい。

 鑑定魔法を使って、見ただけでポーションの効果を一瞬で把握した。
 回復魔法を求めていた時にすぐ受付まで来ていたし、回復魔法も使えそう。

 凄そうな人だと考えていると、受付の人が私に話す。

「魔力回復ポーションは貴重ですけど、よろしいのですか?」

「えっと……? はい。大丈夫です」

 貴重という発言が気になったけど、今は一大事だから頷いておこう。

 私とマルクスは受付の人から、何が起きたのか詳しく話を聞いていた。

 魔物ゴブリンの群れを退治する依頼を、複数の冒険者パーティが受けていたらしい。

 戦力的に問題なかったはずだけど、ゴブリンは他の魔物を味方につけていたようだ。
 それによって大勢の負傷者が出て、ギルドマスターと呼ばれる偉い人が応援を呼んで対処した。

 魔物の群れはもう撃退しているようだけど、負傷者が多いようだ。
 大勢の負傷者が街まで戻ってくるから、回復魔法が必要と受付の人は話してくれる。

 そしてマルクスが、私に申し訳なさそうに言う。

「俺は回復魔法の適性があまりなくて、治すためには膨大な魔力を使う必要がある……魔力回復ポーションは、使うことになるだろう」

「どうぞ、使ってください」

「凄いな君は……これから負傷者の元に行く、君も一緒に来て欲しい」

「わかりました。追加のポーションが必要になるかもしれませんものね」

 私が理由を推測して話すと、マルクスと受付の人が唖然としていた。

「いや、使ったことを確認して欲しかったのだけど……とにかく、行こう!」

 私の発言に驚いているのが気になるけど、今は負傷者を治すのが先だ。

 一緒に来て欲しいと言われたから、私はマルクスと街の外に向かおうとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄の翌日に謝罪されるも、再び婚約する気はありません

黒木 楓
恋愛
 子爵令嬢パトリシアは、カルスに婚約破棄を言い渡されていた。  激務だった私は婚約破棄になったことに内心喜びながら、家に帰っていた。  婚約破棄はカルスとカルスの家族だけで決めたらしく、他の人は何も知らない。  婚約破棄したことを報告すると大騒ぎになり、私の協力によって領地が繁栄していたことをカルスは知る。  翌日――カルスは謝罪して再び婚約して欲しいと頼み込んでくるけど、婚約する気はありません。

必要ないと言われたので、元の日常に戻ります

黒木 楓
恋愛
 私エレナは、3年間城で新たな聖女として暮らすも、突如「聖女は必要ない」と言われてしまう。  前の聖女の人は必死にルドロス国に加護を与えていたようで、私は魔力があるから問題なく加護を与えていた。  その違いから、「もう加護がなくても大丈夫だ」と思われたようで、私を追い出したいらしい。  森の中にある家で暮らしていた私は元の日常に戻り、国の異変を確認しながら過ごすことにする。  数日後――私の忠告通り、加護を失ったルドロス国は凶暴なモンスターによる被害を受け始める。  そして「助けてくれ」と城に居た人が何度も頼みに来るけど、私は動く気がなかった。

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

妹と違って無能な姉だと蔑まれてきましたが、実際は逆でした

黒木 楓
恋愛
 魔力が優れていた公爵令嬢の姉妹は、どちらかが次の聖女になることが決まっていた。  新たな聖女に妹のセローナが選ばれ、私シャロンは無能な姉だと貴族や王子達に蔑まれている。  傍に私が居たからこそセローナは活躍できているも、セローナは全て自分の手柄にしていた。  私の力によるものだとバレないよう、セローナは婚約者となった王子を利用して私を貶めてくる。  その結果――私は幽閉されることとなっていた。  幽閉されて数日後、ある魔道具が完成して、それによって真実が発覚する。  セローナが聖女に相応しくないと発覚するも、聖女の力を継承したから手遅れらしい。  幽閉しておいてセローナに協力して欲しいと私に貴族達が頼み始めるけど、協力する気は一切なかった。

見た目が地味で聖女に相応しくないと言われ追放された私は、本来の見た目に戻り隣国の聖女となりました

黒木 楓
恋愛
 モルドーラ国には2人の聖女が居て、聖女の私シーファは先輩聖女サリナによって地味な見た目のままでいるよう命令されていた。  先輩に合わせるべきだと言われた私は力を抑えながら聖女活動をしていると、ある日国王に呼び出しを受けてしまう。  国王から「聖女は2人も必要ないようだ」と言われ、モルドーラ国は私を追い出すことに決めたらしい。   どうやらこれはサリナの計画通りのようで、私は国を出て住む場所を探そうとしていると、ゼスタと名乗る人に出会う。  ゼスタの提案を受けて聖女が居ない隣国の聖女になることを決めた私は、本来の見た目で本来の力を使うことを決意した。  その後、どうやら聖女を2人用意したのはモルドーラ国に危機が迫っていたからだと知るも、それに関しては残ったサリナがなんとかするでしょう。

殿下に寵愛されてませんが別にかまいません!!!!!

さら
恋愛
 王太子アルベルト殿下の婚約者であった令嬢リリアナ。けれど、ある日突然「裏切り者」の汚名を着せられ、殿下の寵愛を失い、婚約を破棄されてしまう。  ――でも、リリアナは泣き崩れなかった。  「殿下に愛されなくても、私には花と薬草がある。健気? 別に演じてないですけど?」  庶民の村で暮らし始めた彼女は、花畑を育て、子どもたちに薬草茶を振る舞い、村人から慕われていく。だが、そんな彼女を放っておけないのが、執着心に囚われた殿下。噂を流し、畑を焼き払い、ついには刺客を放ち……。  「どこまで私を追い詰めたいのですか、殿下」  絶望の淵に立たされたリリアナを守ろうとするのは、騎士団長セドリック。冷徹で寡黙な男は、彼女の誠実さに心を動かされ、やがて命を懸けて庇う。  「俺は、君を守るために剣を振るう」  寵愛などなくても構わない。けれど、守ってくれる人がいる――。  灰の大地に芽吹く新しい絆が、彼女を強く、美しく咲かせていく。

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。 しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。 「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」 身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。 堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。 数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。 妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

処理中です...