上 下
5 / 30

第5話

しおりを挟む
ダゴン視点

 時間は、アリカがイリド伯爵家から出て行く1ヵ月前まで遡る。
 俺はメディナの発言を聞き、婚約者アリカに対して怒るしかなかった。

 婚約者アリカの妹メディナとは仲がよく、屋敷に招待している。
 部屋で話を聞いた俺は、思わず叫ぶ。

「連絡用の魔法道具はメディナが作ったのに、アリカが作ったことにされていたのか!」
「はい……お姉様に脅されて、私は従うしかありませんでした」

 婚約者のアリカは魔法道具作りに没頭することがあり、あまり人と関わらない。
 その点メディナは明るく貴族達から人気があり、俺としてもアリカよりメディナを婚約者にしたかった。

 それなのに俺の婚約者がアリカなのは、連絡用の魔法道具を考案したからだ。
 メディナの功績を奪っていたなら俺としても都合がよくて、メディナの発言を信じ切ってしまう。

「許せん! 魔法道具のことばかり考えているアリカより、なんでもできるメディナの方が優秀に決まっている!」
「はい。私としては、お姉様にはイリド家を出て行ってもらいたいと思っています」

 メディナの提案を聞き、俺は思案する。
 確かに……アリカをイリド伯爵家から追い出せば、俺はメディナを婚約者にできそうだ。

 賛同しそうになるが……アリカの魔法道具の技術は、メディナほどではないが高い。
 今後のことを考えると傍に置いておきたいから、俺はメディナに提案する。

「俺としてはアリカを糾弾して、罪を償う形で酷使させたいと考えている」
「それは……そうかもしれませんね。誓約書を用意してサインさせましょう」

 メディナは俺の発言に困惑していたが、アリカを従わせようとは考えていなかったようだ。
 その反応が気になり、俺は尋ねる。

「家から追い出すより、利用した方がいいと思うのだが……メディナは違うのか?」
「そ、それは……お姉様が怖いから、追い出したいと思っていました」

 この時の俺は、メディナの発言に納得しながら誓約書の内容を決めていく。
 誓約書は話し合って内容を決めたが、メディナはアリカが絶対に家を出るぐらい無茶苦茶な内容にするよう俺を誘導していたようだ。

 真相が知られないよう、メディナはアリカを家から追い出そうとしている。
 そんな考えを今の俺は知ることができず、この時は全てメディナの思い通りになっていた。

 そして、アリカはイリド伯爵家から出て行き――俺達は、これから後悔することとなる。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:5,303pt お気に入り:104

悪役令嬢はご病弱!溺愛されても断罪後は引き篭もりますわよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:248pt お気に入り:3,604

婚約破棄されましたが、幼馴染の彼は諦めませんでした。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,604pt お気に入り:279

あなたを愛していないわたしは、嫉妬などしませんよ?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:575pt お気に入り:2,191

突然訪れたのは『好き』とか言ってないでしょ

BL / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:24

大好きなあなたを忘れる方法

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:14,858pt お気に入り:1,026

初恋の王女殿下が帰って来たからと、離婚を告げられました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:51,254pt お気に入り:6,938

処理中です...