私の魔力を全て奪って婚約破棄するようですが、奪えるのは１週間だけです

第８９話

　依頼を終えて屋敷に戻り、私とアインは足を止める。

　屋敷の前には黒い小犬のような動物が倒れていて――私とアインはすぐに駆け寄る。

　咄嗟に回復魔法を使うけど、怪我はしていないようだ。

「衰弱しているみたいですね……魔物でしょうか？」

　大きな眼で私を眺めている黒い小犬を撫でて、体内に宿る魔力からアインに尋ねた。

　魔力の多さから魔物の気がするけど、アインは困惑しながら返答する。

「俺達を認識して、敵対行動をとらない魔物ですか……聞いたことがありません」

　アインは今まで冒険者をしてきたけど、魔力を宿した動物が敵意を持っていないことは珍しいようだ。

　私はアインの発言を聞いて、気になることがある。

「冒険者の中には、魔物を使役している人がいた気がします」

「あれは魔力のない普通の動物に契約魔法を使い、魔力を宿して使役しています」

　そうなると……私が抱えている小犬は、誰かと契約している動物なのかもしれない。

「誰かと契約している動物なら、契約者がいない状況が変ですね」

　どうやらアインも同じ考えのようで、契約している動物ではないようだ。

　様子を見ていると、お腹が空いていそうだと私とアインは考える。

「そうですか……とにかく、食事にしましょう」

　屋敷の目の前で小犬が倒れていて、私達を見ても攻撃したりしない。

　そんな小犬を前にして、放置することはできなかった。