万年Aクラスのオッサン冒険者、引退間際になって伝説を残す?

ナギノセン

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11 お風呂に勝る癒しはない

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 防壁での戦闘を終えたガイルは、石畳の大通りをゆっくり歩いていた。
 時折頭を動かして周りを見ているのは、戦いの前に言葉を交わしたあの少女の姿を探しているからだった。
 町中へモンスターが入ることはなかった。よほどのことが無い限りは大丈夫と思ってはいたけれど気になるものは仕方ない。少女と出会った辺りを少しだけ見回り、何も問題が起きていないことを確認をして服の下にあるメダルを少しだけ撫でた。

 ガイルが歩く大通りは、町の中心を十字に走っている。四つに区画分けをされたうちの南西区画の中ほどに彼の家、正確には彼の師の家があった。
 アルザスは町自体の歴史が古く、冒険者ギルドのある中心部などは石造りの立派な建物も多い。世界に7つだけあるオリジナルダンジョンを飯のタネにした商売が繁盛しているので活気も満ちている。強固な防壁が築けた理由も町の財源が潤っているからこその話だった。

 このまま西へ進めば冒険者ギルド、手前の路地を曲がれば家に戻れる地点でガイルは立ち止まった。
 ギルドはごった返しの大騒ぎになっているだろう。ガイルとしては引退を視野に入れたこれからの活動の相談などをしたいところだった。もちろん今すぐは絶対に無理なのもわかっている。

 今回は仕方なくクエストを引き受けた。挙句に危うく命を落としかけた。ずっと同じ轍を踏むまいと考えていた彼の師と、同じ憂き目に遭いそうになったのである。
 戦闘中の油断といい、反省することの多い戦いであったのは間違いないし、反省できる命があることに彼は深く感謝する。と同時にその気持ちを形として表さなければならないとも考えた。
 町はまだざわついているけれど、商魂たくましい者たちはすでに商売を再開し始めていた。

「あの娘は確か甘いものが好物だったな」

 誰に話すわけでもなく独り言を口にしたガイルは、食材を手に入れるために行きつけの店へ立ち寄った。
 料理は、師のデニスに仕込まれてかなりの腕前になっている。駆け出しの頃などは旅に出てもせいぜい雑用しかできない。料理もその一つだとデニスに言われてずっとやらされていた。

 デニスはそのような考え方だったが、ガイルは今では違う。クエストの最中にも彼が料理をして仲間達へ振る舞うことはよくあった。うまい食事はそれだけで旅を楽しくするし、仲間との絆も深まる。気位の高いエルフの娘と打ち解けるための口実も、手作り料理を一緒にと誘ったからだった。

 ガイルは何も言わなかったのに、彼が防衛戦へ加わっていたことを気づいた店の主人はいつもより多めに食材を分けてくれた。些細なことだったけれど少しだけ機嫌よく家へ足を向けることができた。

 元の持ち主はSSクラス冒険者のデニスなので、万年Aクラスと揶揄されるガイルにしては立派な家に住んでいる。
 小さいながらも入口には木の門があり、十歩ほど歩いて庭を横切れば二階建の家の玄関へ至る。一階にはリビングやキッチン、お風呂もある。二階は寝室と倉庫になっている。
 引退後は庭に薬草でも植えて小遺いの足しにでもと考えていた。

 ガイルは買ってきた食材をキッチンヘ置いてそのまま浴室へと向かった。
 最後は数えることもなくなっていたオークの討伐数は優に二十を超えている。乱戦の中を走り回って剣を振り続けていたのだから、自分の汗やモンスターの返り血でベトベトでとても気持ち悪い。
 
 説明もなしで食材屋の店主が気づいたのも無理はない。逆にこの汚れきった体で店へと入って、よく怒られなかったものだと店主の器の大きさに感心させられた。

 この家はガイルの師が凝った物好きだったことから、風呂もお湯が沸かせるようになっている。
 クラフト王国の王都ウィンザーやアーレイ教の総本山ログレス教区では珍しくなかったけれど、王国でも辺境に近いアルザスではかなり贅沢な作りと言えた。
 原理としては、炎の魔術式が埋め込まれた釜の中へ魔石と呼ばれる魔力を貯めた石を入れて、水を通すことで熱されたお湯が出てくる。

 王都やログレスと比較をすると、アルザスは魔石の流通量も少なく価格も高い。
 デニスは湯張りのお風呂にしか入らなかったけれど、ガイルはあまり使うこともなく水浴びで済ますことが多かった。しかし今日は温かいお湯へ浸かり、汚れを疲れと一緒に洗い流したい気分だった。

 魔石の数で温度が変わる仕組みになっていて、今日は少し熱めがいい。湯船に水を張り終えると、家の外にある鉄の箱へ朱色の魔石を三つ投入する。みるみる湯気が立ち始めた湯船を見た彼は、早速衣類を脱ぎ捨てる。湯加減を確認してからゆっくり湯船へ体を入れた。

 こわばっていた筋肉に血液が急速に回り始める。しばらくするとお湯がぬるく感じ始めた。もう少し魔石を追加しようかと思ったけれど、体が湯船から出ることを拒否している。
 激しく疲れていたことを改めて知らされた彼は、唐突に襲ってきた心地よい睡魔に抗えず深い眠りへと落ちていった。
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