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29 カッサバの陰謀
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ガイル一行は、クラフト王国のほぼ北の端アルザスの町から王弟領ベルゲンクライを経て王都ウライユールへ一月足らずで到着した。
依頼主のギルドマスターが寄る町ごとに馬を替えるよう手配してくれていたので通常よりかなり早い旅程となっている。
クラフト王国はこの世界でも指折りの大国であるため王都へ入るのも厳重な審査がされる。長い列に並んで身分証や入場許可証の提示、王都への来訪理由やらを城門の衛兵へ説明し終わって入場が許される。
入場門は複数用意されているのだがどこも長蛇の列である。並んでいる者達を見るとガイル達のような旅人もいれば幌馬車の隊商らしきものも多い。人族以外にもドワーフ族、獣人族でも勇猛で知られる虎人族の姿もある。
ガイル達も必要な入場手続きをようやく終えて噴水のある広場で一息ついていた。入場前は中空にあった太陽は傾いて高い城壁に掛かり始めている。
ここは入場審査のために荷解きをした隊商が荷物の積み直しをしたり、出発する隊商が荷物の確認をするための場所に使われる。どの入場門の前にも設けられて一日中ごった返しているのが常だ。
変わりない王都の光景と活気に満ちた様子を少し眩しく感じたガイルが隣に立つハイエルフの娘に尋ねた。
「パメラは王都へ来たことがあるのか」
「ないわ」
「それは意外だったな」
「私に依頼するような物好きがいないから」
少し顔を背けたパメラを見たガイルは言い掛けた言葉を呑み込む。
王都は人と物が最も集まる。いうなれば冒険者への依頼がもっともある場所のためガイルも度々訪れて依頼をこなしている。パメラも同じだろうと考えていたのは違ったようだ。
広場の中で彼女に向けられる多くの視線。あまたの者の王都入場審査をする兵士であってもハイエルフは珍しいらしく、ずっと興味本位の目が向けられていた。
容姿が一際優れているのだからあきらめるしかない、などと贅沢な悩みと言い切るには彼女の事情は少し違う。
ハイエルフを見る目には憧憬と畏怖が伴う。それは彼女の祖先が、世に厄災をもたらした凶悪な魔王を強大な魔法を使って封じた功績による。そのためハイエルフの冒険者を雇う誰もが魔法を期待する。だけど彼女は魔法は使えない。彼女は向けられる視線にとても居心地の悪い思いをしていた。
彼女の素っ気ない返事を聞いたガイルは、久し振りに地雷を踏んだことへ頭を掻きながら何とも言えず空を見上げる。視界の端に過った影を確認しようとした彼の革鎧の裾を、真っ白な長衣を着た少女が引っ張った。
「キアラもない」
「あ、ああ、それはそうかもな」
「むう、パメラと反応が違う」
「だってキアラはログレスからあまり出ることはなかっただろう」
「そんなことない。ヴァーナルにも行った」
「ヴァーナルだって!? 一体――」
「居たぞ!! 総員散会して取り囲め!!」
ガイルの言葉が終わらないうちに20名ほどの兵士が槍を構えて広場へ乱入し騒然とした空気になった。訳も分からず身の危険を察知した人々が我先に逃げ出した。慌ててキアラを小脇へ抱かかえたガイルも逃げ出そうとする者達に混じる。しかし逃げ出すことはできなかった。全ての槍が彼の方にだけ向いていたのだ。
身動きできないガイルのほうへゆっくりと馬に乗ってやってきたのはクラフト王国騎士団の騎士だった。金属鎧の左胸にガイルも見慣れた王家の紋章が光っている。
王都防衛を担う第一王子テオドール配下の者だとガイルも気づいた。
「アルザスの町の冒険者ガイルだな?」
「――そうです」
ガイルは黙り通そうかと考えたもののすぐに諦めた。持っている冒険証を見られればすぐにばれる。余計なことをして痛くもない腹を探られるは愚策である。
抱えていたキアラを下ろしたガイルは険しい表情で指揮者らしき騎士を睨んだ。
「いきなり乱暴なお出迎えですね。俺達に何の用ですか」
「用があるのはお前だけだ。聖女略取犯への扱いとしてはこれでも十分丁重なつもりだがな」
「聖女略取犯? 一体何のことですか?」
「そちらにおられる聖女キアラ様を連れ去った不埒者がいるとアーレイ教団から通報があった」
「待ってくれ! それは何かの間違いだ!」
「言いたいことは詰所で聴く」
ガイルから視線を移した騎士は馬を下りて慇懃に片膝を着いた。ゆっくりと利き手である右手をキアラに差し出して害意のないことを正規の所作で示して微笑みかける。
「キアラ様、どうぞこちらへ」
「ガイルはルキウスに頼まれた。キアラは自分で決めてガイルと一緒にいる。連れ回されていない」
「すべてはメフィスト様からお聞きして承知しております。されどひとまずこちらへ」
「キアラ行かない。でもどうしてメフィスト? ルキウスじゃない?」
「ルキウス殿――いや導主ルキウスには国家騒乱罪の疑いが掛けられております」
「ルキウスが騒乱罪だと? どういうことだ!?」
「お前に答える義務はない」
騎士の穏やかではない言葉を聞いたガイルが詰め寄ろうとしたところ槍衾が厳しく迫る。彼はキアラへ軽く目配せをする。キアラであれば聞き出せると考えたのだが、それは大きな間違いであった。
依頼主のギルドマスターが寄る町ごとに馬を替えるよう手配してくれていたので通常よりかなり早い旅程となっている。
クラフト王国はこの世界でも指折りの大国であるため王都へ入るのも厳重な審査がされる。長い列に並んで身分証や入場許可証の提示、王都への来訪理由やらを城門の衛兵へ説明し終わって入場が許される。
入場門は複数用意されているのだがどこも長蛇の列である。並んでいる者達を見るとガイル達のような旅人もいれば幌馬車の隊商らしきものも多い。人族以外にもドワーフ族、獣人族でも勇猛で知られる虎人族の姿もある。
ガイル達も必要な入場手続きをようやく終えて噴水のある広場で一息ついていた。入場前は中空にあった太陽は傾いて高い城壁に掛かり始めている。
ここは入場審査のために荷解きをした隊商が荷物の積み直しをしたり、出発する隊商が荷物の確認をするための場所に使われる。どの入場門の前にも設けられて一日中ごった返しているのが常だ。
変わりない王都の光景と活気に満ちた様子を少し眩しく感じたガイルが隣に立つハイエルフの娘に尋ねた。
「パメラは王都へ来たことがあるのか」
「ないわ」
「それは意外だったな」
「私に依頼するような物好きがいないから」
少し顔を背けたパメラを見たガイルは言い掛けた言葉を呑み込む。
王都は人と物が最も集まる。いうなれば冒険者への依頼がもっともある場所のためガイルも度々訪れて依頼をこなしている。パメラも同じだろうと考えていたのは違ったようだ。
広場の中で彼女に向けられる多くの視線。あまたの者の王都入場審査をする兵士であってもハイエルフは珍しいらしく、ずっと興味本位の目が向けられていた。
容姿が一際優れているのだからあきらめるしかない、などと贅沢な悩みと言い切るには彼女の事情は少し違う。
ハイエルフを見る目には憧憬と畏怖が伴う。それは彼女の祖先が、世に厄災をもたらした凶悪な魔王を強大な魔法を使って封じた功績による。そのためハイエルフの冒険者を雇う誰もが魔法を期待する。だけど彼女は魔法は使えない。彼女は向けられる視線にとても居心地の悪い思いをしていた。
彼女の素っ気ない返事を聞いたガイルは、久し振りに地雷を踏んだことへ頭を掻きながら何とも言えず空を見上げる。視界の端に過った影を確認しようとした彼の革鎧の裾を、真っ白な長衣を着た少女が引っ張った。
「キアラもない」
「あ、ああ、それはそうかもな」
「むう、パメラと反応が違う」
「だってキアラはログレスからあまり出ることはなかっただろう」
「そんなことない。ヴァーナルにも行った」
「ヴァーナルだって!? 一体――」
「居たぞ!! 総員散会して取り囲め!!」
ガイルの言葉が終わらないうちに20名ほどの兵士が槍を構えて広場へ乱入し騒然とした空気になった。訳も分からず身の危険を察知した人々が我先に逃げ出した。慌ててキアラを小脇へ抱かかえたガイルも逃げ出そうとする者達に混じる。しかし逃げ出すことはできなかった。全ての槍が彼の方にだけ向いていたのだ。
身動きできないガイルのほうへゆっくりと馬に乗ってやってきたのはクラフト王国騎士団の騎士だった。金属鎧の左胸にガイルも見慣れた王家の紋章が光っている。
王都防衛を担う第一王子テオドール配下の者だとガイルも気づいた。
「アルザスの町の冒険者ガイルだな?」
「――そうです」
ガイルは黙り通そうかと考えたもののすぐに諦めた。持っている冒険証を見られればすぐにばれる。余計なことをして痛くもない腹を探られるは愚策である。
抱えていたキアラを下ろしたガイルは険しい表情で指揮者らしき騎士を睨んだ。
「いきなり乱暴なお出迎えですね。俺達に何の用ですか」
「用があるのはお前だけだ。聖女略取犯への扱いとしてはこれでも十分丁重なつもりだがな」
「聖女略取犯? 一体何のことですか?」
「そちらにおられる聖女キアラ様を連れ去った不埒者がいるとアーレイ教団から通報があった」
「待ってくれ! それは何かの間違いだ!」
「言いたいことは詰所で聴く」
ガイルから視線を移した騎士は馬を下りて慇懃に片膝を着いた。ゆっくりと利き手である右手をキアラに差し出して害意のないことを正規の所作で示して微笑みかける。
「キアラ様、どうぞこちらへ」
「ガイルはルキウスに頼まれた。キアラは自分で決めてガイルと一緒にいる。連れ回されていない」
「すべてはメフィスト様からお聞きして承知しております。されどひとまずこちらへ」
「キアラ行かない。でもどうしてメフィスト? ルキウスじゃない?」
「ルキウス殿――いや導主ルキウスには国家騒乱罪の疑いが掛けられております」
「ルキウスが騒乱罪だと? どういうことだ!?」
「お前に答える義務はない」
騎士の穏やかではない言葉を聞いたガイルが詰め寄ろうとしたところ槍衾が厳しく迫る。彼はキアラへ軽く目配せをする。キアラであれば聞き出せると考えたのだが、それは大きな間違いであった。
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