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30 親切の理由
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「それはキアラも聞きたい」
「こんな男の言いなりとは――メフィスト様の仰られたとおりキアラ様は卑劣な隷属刻印を受けておられるに違いない。ならば失礼!」
騎士はガイルを激しく睨んでから右手をさらに伸ばしキアラの腕を掴もうとした。同時に槍を構えた兵士達がガイルへさらに詰め寄る。明らかに前もって決められていた行動である。だがキアラの体が一瞬早く後ろへ引っ張られる。騎士の目には白金の波の後ろへ少女が隠されたような光景が映った。
「あなたはさっきから何を勝手なことを言ってるの?」
「パメラ、大事なところなんだ! 少し落ち着いてくれ!」
「悠長なことを! キアラの隷属はとっくに解けている。あなたは陥れられようとしているのよ!」
ガイルにもそのくらいはわかっている。彼が城門をくぐるのを待ち構えていたのだろう。目の前の騎士の相手をしている間に取り囲む兵士と騎士が続々と増え続けているのだ。
しかしここで何を言い争ったところで多勢に無勢、捕まることに変わりはない。長い冒険者生活で横暴な権力を見せられたことなどいくらでもある。
誰の誤解か悪意かはわからない。だからこそどんなに頼りなくても救いとなる手を失うわけにはいかなかった。
今のところの捕縛対象は彼だけらしくパメラへは誰も槍を向けていない。
ガイルは、弓を構えて騎士を狙おうとしているハイエルフを見て首を振った。
「パメラ、頼むからすぐに冒険者ギルドへ行ってアルザスのロキへ連絡して欲しい。それにベルゲンクライのコルト司教にも伝えてくれ」
「――くっ、わかったわ」
パメラも状況は嫌というほど理解している。かと言って真っ直ぐな気性の彼女は黙って見過ごすことなどできず、ガイルにたしなめられ唇の端をかみしめて弓を下した。
今の彼女には何の力もない。弓矢で騎士を倒したところでガイルを救い出せることもなく、兵士に取り囲まれてガイルと一緒に捕縛されるだけである。
美しい顔を口惜しさにゆがめるパメラの横を騎士が通り過ぎてキアラの手を取った。キアラは嫌がる素振りをまったく見せなかった。
どうしてっ!?
パメラの声にならない問い掛けの視線にキアラは顔を俯けて答えようとしない。
連行されるガイルと保護されたキアラをパメラは見送るしかできなかった。
しばらく茫然とたたずんでいた彼女が我に返ったのは肩を叩いた男の声だった。
「冒険者ギルドへ行きたいのか? 私達も所用があるので連れて行ってもかまわないがどうする?」
彼女に声を掛けてきたのは、ガイルとキアラを連れて行った騎士とかなり似かよった格好の二人組の男だった。異なるのは王家の紋章が左手甲にある点である。
パメラは眉をひそめて彼らを観察した。
エルフの中でもハイエルフのパメラは飛びぬけて容姿が優れている。邪な考えで彼女へ近づく輩も多々いる。そのような彼女の様子を察した男の一人が軽く肩をすくめた。
「別に嫌ならいいんだよ。俺達はさっきの男の最後の言葉を聞いていたから何か力になれたらと思っただけだ。レックス、行こうか」
「そうだな。ではエルフのお嬢さん。冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ行って一つの大きな通りを右へ曲がったらすぐに左手へ入った細い路地のほうが近道だ」
あっさり立ち去ろうとする男二人の言葉にパメラは王都の道に不案内だったことを思い出す。ガイルに頼まれたギルドへの説明は一刻を争う。さらに男達のしつこくない誘いもパメラの態度を軟化させた。
「ちょ、ちょっと待って。ややこしそうだから連れて行ってもらえる!?」
「――ああ、かまわないよ」
「ハイエルフの弓使いさん、冒険者ギルドなら私が連れて行ってあげましょう。その人達についていくのはおやめなさい」
パメラが男二人と歩き出そうとしたところ、彼らの前に少女が立ちはだかった。広場や町中に多く見られる少女とは違って身綺麗な服を着て腕には木製のバスケットを下げている。一人で歩いていることから貴族の令嬢ではなさそうではあるものの、言葉遣いから富裕な商家の娘か貴族の使用人と思われた。
「いきなり出てきてついて行くなとは失礼な言い草ですね、お嬢さん?」
「アルフレッド、いいじゃないか。私達かお嬢さんか、どちらを選ぶかはハイエルフの彼女が決めればいい。ただそこのお嬢さんが、私達と同じような近道を知っているとは思えないけれどね」
「近道を通ろうが大して時間は掛かりません!」
「それはそうでしょう。私達が言っているのはギルドへ入ってからの時間もですよ。あなたに同じことができますか?」
アルフレッドと呼ばれた騎士は手の甲に彫られた王家の紋章を指さす。それを見た彼の仲間レックスも困ったような笑みを浮かべる。この意図はパメラにも飛び出した少女にも明らかだった。普通の冒険者とは違う特別な扱いを受けられると公言しているのである。
パメラを呼び止めた少女は悔しそうな表情のまま返事に窮する。彼女を面白そうに見ていたアルフレッドは急に得心顔を見せた。
「こんな男の言いなりとは――メフィスト様の仰られたとおりキアラ様は卑劣な隷属刻印を受けておられるに違いない。ならば失礼!」
騎士はガイルを激しく睨んでから右手をさらに伸ばしキアラの腕を掴もうとした。同時に槍を構えた兵士達がガイルへさらに詰め寄る。明らかに前もって決められていた行動である。だがキアラの体が一瞬早く後ろへ引っ張られる。騎士の目には白金の波の後ろへ少女が隠されたような光景が映った。
「あなたはさっきから何を勝手なことを言ってるの?」
「パメラ、大事なところなんだ! 少し落ち着いてくれ!」
「悠長なことを! キアラの隷属はとっくに解けている。あなたは陥れられようとしているのよ!」
ガイルにもそのくらいはわかっている。彼が城門をくぐるのを待ち構えていたのだろう。目の前の騎士の相手をしている間に取り囲む兵士と騎士が続々と増え続けているのだ。
しかしここで何を言い争ったところで多勢に無勢、捕まることに変わりはない。長い冒険者生活で横暴な権力を見せられたことなどいくらでもある。
誰の誤解か悪意かはわからない。だからこそどんなに頼りなくても救いとなる手を失うわけにはいかなかった。
今のところの捕縛対象は彼だけらしくパメラへは誰も槍を向けていない。
ガイルは、弓を構えて騎士を狙おうとしているハイエルフを見て首を振った。
「パメラ、頼むからすぐに冒険者ギルドへ行ってアルザスのロキへ連絡して欲しい。それにベルゲンクライのコルト司教にも伝えてくれ」
「――くっ、わかったわ」
パメラも状況は嫌というほど理解している。かと言って真っ直ぐな気性の彼女は黙って見過ごすことなどできず、ガイルにたしなめられ唇の端をかみしめて弓を下した。
今の彼女には何の力もない。弓矢で騎士を倒したところでガイルを救い出せることもなく、兵士に取り囲まれてガイルと一緒に捕縛されるだけである。
美しい顔を口惜しさにゆがめるパメラの横を騎士が通り過ぎてキアラの手を取った。キアラは嫌がる素振りをまったく見せなかった。
どうしてっ!?
パメラの声にならない問い掛けの視線にキアラは顔を俯けて答えようとしない。
連行されるガイルと保護されたキアラをパメラは見送るしかできなかった。
しばらく茫然とたたずんでいた彼女が我に返ったのは肩を叩いた男の声だった。
「冒険者ギルドへ行きたいのか? 私達も所用があるので連れて行ってもかまわないがどうする?」
彼女に声を掛けてきたのは、ガイルとキアラを連れて行った騎士とかなり似かよった格好の二人組の男だった。異なるのは王家の紋章が左手甲にある点である。
パメラは眉をひそめて彼らを観察した。
エルフの中でもハイエルフのパメラは飛びぬけて容姿が優れている。邪な考えで彼女へ近づく輩も多々いる。そのような彼女の様子を察した男の一人が軽く肩をすくめた。
「別に嫌ならいいんだよ。俺達はさっきの男の最後の言葉を聞いていたから何か力になれたらと思っただけだ。レックス、行こうか」
「そうだな。ではエルフのお嬢さん。冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐ行って一つの大きな通りを右へ曲がったらすぐに左手へ入った細い路地のほうが近道だ」
あっさり立ち去ろうとする男二人の言葉にパメラは王都の道に不案内だったことを思い出す。ガイルに頼まれたギルドへの説明は一刻を争う。さらに男達のしつこくない誘いもパメラの態度を軟化させた。
「ちょ、ちょっと待って。ややこしそうだから連れて行ってもらえる!?」
「――ああ、かまわないよ」
「ハイエルフの弓使いさん、冒険者ギルドなら私が連れて行ってあげましょう。その人達についていくのはおやめなさい」
パメラが男二人と歩き出そうとしたところ、彼らの前に少女が立ちはだかった。広場や町中に多く見られる少女とは違って身綺麗な服を着て腕には木製のバスケットを下げている。一人で歩いていることから貴族の令嬢ではなさそうではあるものの、言葉遣いから富裕な商家の娘か貴族の使用人と思われた。
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「アルフレッド、いいじゃないか。私達かお嬢さんか、どちらを選ぶかはハイエルフの彼女が決めればいい。ただそこのお嬢さんが、私達と同じような近道を知っているとは思えないけれどね」
「近道を通ろうが大して時間は掛かりません!」
「それはそうでしょう。私達が言っているのはギルドへ入ってからの時間もですよ。あなたに同じことができますか?」
アルフレッドと呼ばれた騎士は手の甲に彫られた王家の紋章を指さす。それを見た彼の仲間レックスも困ったような笑みを浮かべる。この意図はパメラにも飛び出した少女にも明らかだった。普通の冒険者とは違う特別な扱いを受けられると公言しているのである。
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