【完】私の初恋の人に屈辱と絶望を与えたのは、大好きなお姉様でした

迦陵 れん

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第七章 旦那様の幸せ

来訪者

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「……ま、奥様! 大変です!」

 リーゲル様と、これからは本当の夫婦としてやっていこうと誓い合った次の日。

 初夜のやり直しを無事に済ませ、夢見心地のまま寝台で微睡んでいた私は、焦ったポルテの大声に、いきなり現実へと引き戻された。

「な、なに? 一体何事!?」

 身体を起こそうとした途端、痛みを訴えた腰に「うっ!」となり、再びベッドへ沈み込む。

 昨夜は天にも昇るぐらい幸せな夜を過ごしたけれど、その代償がこれだなんて知らなかったわ。これが幸せの痛みというものなのかしら。

「奥様、大丈夫ですか? 実は先程、お客様がいらっしゃって。旦那様は奥様にはお伝えしなくても良いと仰ったのですが、なにぶん相手が相手だったものですから……」
「その相手というのは、どなたなの?」

 尋ねると、ポルテは何故か言いにくそうに視線を逸らした。

 え? その反応は一体なに? その人が来たから私を起こしに来たのよね? なのに誰だか言えないというのは、どういうことなの?

「と、とにかく急いでお支度を済ませて応接室へ参りましょう。旦那様もそちらにいらっしゃいますから」
「え、ええ。分かったわ」

 今は相手の名前を言いたくないのだろうポルテの気持ちを察して、言われた通りに大急ぎで支度をし、来客がいるという応接室へと向かう。

 扉の前で呼吸を落ち着け、しっかりと聞こえるようにノックすると、リーゲル様が返事を下さった。

「入っていいぞ」
 
 扉を開け、先ず目に入ったのはリーゲル様のお姿。そして、彼と向かい合わせに座っているのが、問題の来客──。

 その方の姿を目にした瞬間、私は驚愕に言葉を失った。

 目を大きく見開き、両手で口を覆って息を呑む。それ程までに、その人の来訪は予想外で。

 なのにその人は、奇跡のように美しい顔でもって私に向かって微笑むと、何でもないことのように、こう言ったのだ。

「グラディス、久し振りね。わたくしのことを覚えていて?」
「………………!」

 覚えている。当たり前だ。突然いなくなってしまってから、一日だって忘れたことはなかった。

 大好きな、大好きなお姉様。賢くて美しく、そして優しいアンジェラお姉様。

「……っ、お姉様っ!」

 涙ながらに駆け寄り、抱き付く。お姉様も私の背に腕を回し、しっかりと抱きしめ返してくれた。

「ごめんなさいね、グラディス。急にいなくなって……大変だったでしょう?」
「だ……大丈夫……ですっ。リーゲル様……優しくっ、して、くださった……からぁっ」

 ハッキリ喋りたいのに、嗚咽が詰まって言葉にならない。

 それでも懸命に言葉を縛り出せば、お姉様はにっこりと微笑んでくれた。

「リーゲルとの結婚は、あなたにとって良いものだったかしら? 今ならまだ間に合うから、その辺りの事を教えて欲しいわ」

 二人掛けのソファへと案内され、お姉様と隣り合って腰を下ろす。

 未だ涙を拭う私の肩を、小さい子供をあやすかのように優しく叩いたお姉様は、リーゲル様に向かって尋ねた。

「見た感じ、上手くやっているようだけれど。実際の所はどうなのかしら?」
「どうもこうも、見たままだが?」

 相変わらず、言い方が素っ気ない。

 まさか、昨晩想いを交わし合ったばかりとは流石に言えず、リーゲル様はしれっとした表情で紅茶に口を付けている。

「見たままというと……あら? グラディスあなた、首筋に赤い痕が付いているわよ」
「ええっ!?」

 真っ赤な顔で首筋を押さえた私と、紅茶を吹き出すリーゲル様。

「──と思ったのだけれど、どうやら気のせいだったみたい」
「お、お姉様っ!?」

 私が顔を真っ赤にして怒ると、お姉様はとても楽しそうに笑った。

「あははは、ごめんなさいね。貴方達を見ていて、二人の雰囲気から何となくそんな気がしたものだから。でも、そうなの……。へぇ……まさかあのリーゲルがねぇ」

 何かを言いた気に、リーゲル様を見つめるお姉様。

 二人の間には何もないと知りつつも、ハラハラしてしまう私。

「わ、私だって日々成長しているんだ。それに、君こそあんな大胆な行動に出るだなんて、予想も出来なかったぞ」
「ああ、あれね。あれはまぁ……若気の至りとでも言うのかしら。若さゆえに勢いで──でも、上手くはいかなかったわ」
 
 お姉様が悲し気に俯く。

 そういえば、お姉様はどうして急に帰って来られたんだろう?

「あ、あの、お姉様はどうして今日、公爵邸へいらっしゃったのですか?」
「ああ。ええとね、駆け落ちしたは良いものの、結構早い段階で見つかってしまって。暫く前から此方へ戻るようにと打診されてはいたのよ」
「そうだったんですか!?」

 そんなに早くお姉様が見つけられていたなんて知らなかった。無論、帰るようにと言われていたことも。

「でもね、駆け落ちして皆に迷惑を掛けたわたくしが、そう簡単に帰るわけにはいかないじゃない? だから無視していたのだけれど、今回はそうもいかなくなってね」

 困ったようにお姉様は肩を竦めるけれど、向かい合って座られているリーゲル様の視線が怖い。

 まるでお姉様を威嚇でもしているかのよう。尤も、お姉様はなんら意に介してはいないようだけれど。



 
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