【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~帰路~

晩餐

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「いらっしゃいませ~二名様ですね?お好きな席へどうぞ~」
明るい声の女性店員に、席に促される。

すんなり席につけることがわかり、そんな些細なことにも今はホッとしてしまう。

拓海はわかりやすい性格をしている。
空腹のときに機嫌が悪くなることが多く、二人でどこかに出かけている時も、タイミング悪く食事の時間を逃すと、みるみるうちに、眉間にしわが寄ってくる。

そういう時に、拓海に話しかけるのには注意が必要だ。

だから、店内が仮に混んでいれば、別の店をすぐに探した方が良いと思っていた。
とにかく拓海の食欲を満たさないことには、冷静に話が出来ないと思ったからだ。

「良かったね?拓海… お店、すぐに入れて…」

「… おう …」拓海が私から視線を外すようにしながら、俯く。

窓際の広めの四人席が空いていたため、私と拓海はそこに座ることにした。

「… … … 」

座って間もなく、すぐに、会話が終了してしまう…。

正面に座る、いつになく静かな拓海を盗み見るが、やはり下を向いたままだ…。
「えっと… どれにする…拓海… 」

「… … … 」

拓海の沈黙は怖いが、今…いきなり話を始めるわけにはいかない…。

「… 拓海…これ、メニュー… 」拓海の方に、更にメニューを近づける。

「ん… 俺…は、これで、いいや…」

拓海がメニューにある、お店の一番のおススメと書かれたボリューミーなハンバーグ定食を指し示す。
お店の看板やポスターに載ってあるものと恐らく同一の、この店一番の人気定食のようだ。

「… わかった… 私は… 」

…メニューを見つめつつも… 今のこの状況だ…。
正直なところ、全く食欲がない…。

拓海が希望した定食はあまりにハンバーグが大き過ぎて、とても食べきれない…。
見ると、女性向けの少なめのものもあり、私は即断する。

「私は…これに… 」

独り言のようにそう言ってすぐにタブレットで注文を済ませるが、しばらくテーブルの上で沈黙が続く…。

早く、定食がくればいいな…

話をするよりも先に…とにかく、まずは食事だ…
食べて食欲が満たされれば、少しは拓海の今のとげとげしい態度も、柔らかくなるはずだ…。
単純思考だと言われればそれまでだが、拓海にはそんな一面が付き合い始めた当初から、確かにあった。

そのまま、話しかける内容も、きっかけも見つからず、ぼうっと自分のグラスにつく水滴を眺めていると、

「… 俺、さ… 」

下を向いていた拓海が不意に顔を上げ、正面から目が合う…。

私の心臓がドキリと跳ね上がる。
何を言い出すんだろう…。
さっき、ホテルに行くことを拒否したことを、怒っているだろうか…。

「 ん… 何… ?」恐る恐る、拓海を見つめる。

「…マジで、めーーーーっちゃくちゃ、腹減った… 早く、こねえかな…」

少しだけ微笑む拓海。

いつもの拓海だ… 
本当は先ほどのことを怒っているのかもしれないと頭ではわかっているものの、ホッと胸を撫でおろす。

「… うん…私も… …」

この食事を、終えたら… 
食後の珈琲を飲んだら…

拓海に伝えよう…。

別れたいと…拓海の目を真っすぐに見て、毅然とした態度で、言わなければならない…

もう、迷わないし、揺るがない…。

私は心にそう決めて、グラスの水を、一気に飲み干した。



























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