【完結(続編)ほかに相手がいるのに】

もえこ

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~不安~

質問

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ある日の朝

「おはよう、水無月さん」

背後から優しい声がして、思わず肩が震える。

「あ… おはようございます…」

振り向けば、いつもと変わらない柔らかな表情の杉崎さんが、私を見下ろして微笑んでいた。
ドキリと、心臓が小さく音を立てる。

綺麗な瞳が私をとらえ、私は咄嗟に、なぜだか視線をそらしてしまった…。

駄目だ… 

いまだに、杉崎さんの存在に慣れていない自分がいる…。
あんなことをしたのに…何を今さらとも、思う…

でも…慣れないものは、慣れない…。

「… あ、ごめんなさい…使います…?もうすぐ、あのっ… 」

私は慌てて、まだ、温かな珈琲を抽出中の珈琲カップに手を伸ばした。

早く、部屋に戻ろう… 
やはり、心臓がもたない… 
もはや、何を話せば良いかわからないほどに、極度に緊張していた。

杉崎さんと別れた後の、拓海とのことをいまだに引きずっていた私は、
あれ以来、仕事のこと以外では、まともに杉崎さんと言葉を交わせずにいた…。

「あっ!いや、ごめん、全然いいよ…その…ただ、おはようって、言いに来ただけだから…」

慌てたように、杉崎さんが言葉を発した。

「あ…  は、はい… すみません…」私は珈琲カップに視線を戻す…。

 ・・・・  シン ・・・・

途端に、給湯室のあたり一帯が、静けさに見舞われる…

どうしよう… 
何を話せば良いのか本当にわからない…

差しさわりのない雑談をと試みるが、何ひとつ浮かばない… 

その状況に耐えかね「では、失礼します。」そう言って、私が立ち去ろうとしたその時、
目の前に、薄いピンク色のカーディガンを羽織った女性が、ぴょこんと顔を出す…。

「あ… … 」

想像通りだった。

「ああ~~!見つけましたよ~杉崎さん!…あっ!水無月さんもいる~~!!おはようございます~!」

「… … … 」
朝から彼女のテンションが高すぎて、咄嗟に言葉が出ない…。

「あ、あ…おはよう…細野さん。今日も元気だね。」杉崎さんが笑って答える。

「お…おはよう、ございます…。」私も何とか、返事をする。

「そうそう、お二人~聞きましたよ~ 私、びっくりしちゃった~~!出張、行ってたんでしょ~?」

「… … …」彼女のその言葉を聞き、なんとなく嫌な予感がした。

「あ、ああ… そうそう、細野さんに言う暇もなかったね、結構、急に決まったからね…」
杉崎さんの言葉を聞いているのかいないのか、細野さんが言葉を続ける。

「しかも、2人きり~~!いいな~水無月さん!私もそのへんのおじさんとなら絶対やだけど、杉崎さんとなら泊りでもなんでも、出張とか行きたかったな~~いいな~いいな~~杉崎さんと何してたんですか~?」

クリクリとした目が、興味津々に私の顔色を分析しているように感じ、ここでも私は思わず視線を逸らしてしまう。

「… 何、って…その…  」駄目だ… 何と返せばいいのか、全然わからない…。

私が固まっているのを見かねてか、すぐに杉崎さんが答える。

「何してたって、仕事に決まってるよ。出張は遊びじゃないんだから、向こうの会社の社員にもかなり気を遣ったし、夜は夜でしっかり懇親会はあるしで、ほんとに疲れたよね…水無月さん。」

「は、はい… 」なんとか、頷く。

「… そうなんですか~?へ~じゃあ、真面目な出張だったんですね~ それは、お疲れ様でした~。」
細野さんがニコリと笑う。

意外にも、それ以上の追及はなかったことに、ホッと胸を撫でおろす。

「さあ、もうそろそろ始業の時間だ、行こう。」

杉崎さんはそう言って細野さんを促し、並んで歩いて行ってしまった。

「… … … 」ビックリした…。

細野さんは、果たして本当に、杉崎さんの説明を全て信じたのだろうか…

どうしても、そうではない気がする…。
少なくとも、私が杉崎さんと二人きりで出張に行ったことを快く思っていないことだけは雰囲気でわかるし、本当は、私と杉崎さんの動向を…出張の実態を、探ろうとしているのではないか…。

彼女とは、今後絶対、二人きりになりたくない… 
二人きりになった途端、あの調子で、色々なことをずかずか追及されそうで怖い…  

私は彼女に対してある種の恐怖を感じながら、静かにデスクへ向かった。



  







 
















 




















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