【完結（続編）ほかに相手がいるのに】

～拓海～

偶然

「やっほ～！拓海くん～この1週間ちょっと、瑠衣に会えなくて寂しかった～？」

「…　あ…　え…　？…」

瑠衣が、満面の笑みで俺の顔を覗き込む…。
まるで、キスでもする位に至近距離に近付かれ、思わず一歩下がってしまう俺…。

遠慮のない視線が突き刺さる…。

「…　…　…　」

もう一度…瑠衣の向こうに立っている人物の方を見る…。

「…　…　…　」
相手も無言で、驚いた表情のまま、俺の顔をじっと見つめている…。

やはり、間違いない…。　
あの人だ…。

俺は、自慢じゃないが人の顔を覚えるのはわりかし得意な方だ…。

しかも、何度か偶然にもテーブルを一緒に囲んだ人間の顔を、忘れるはずがない…。

確か…　　林…　　なんだっけ…　えっと…

頭ではそんな風に記憶を巡らせながらも…
無意識下では、すぐさまドアを閉めてしまいたい衝動に駆られる…

だが、残念なことに、ドアが動かない…。
瑠衣がしっかり、ドアをつかんでいるからだ…

大体、なんで…　この人が…　…ここに…？

なんで瑠衣と一緒に、林…さんが…俺の部屋の前にいるんだ…　
マジで、意味が分からない…。

「…　何…　？」
そう瑠衣に返すのが、精一杯だった…。

「…　ん…？なんでそんな素っ気ないの…？呆然としてるし。わかってたでしょう？ピンポン、私って…　」

「あ…　あ、　…　あ…　」肯定するべきか、否定した方がよいのか、わからなくなる…。

「ちょっとちょっと…拓海君てば、ほんとどうしちゃったの…？あ！！そっか～！」

　　　いきなり…　　パああン　！　…と…

瑠衣がわかったぞとでもいう風に両手をたたき、俺はビクリと身体を震わせる。

「な…　何…　っ…　ビビる…　」瑠衣は、いちいちリアクションがデカい…。

「拓海君てば～もう…さては、綺麗な智花さんに、見惚れちゃってるんでしょう…！」

「な…　や…　」
肯定すべきか…否定すべきか…というか、もう何をどう返したら良いのかわからない…。

「このお方は…私が今一番仲良くして頂いているお姉さんです！林智花さんていうの～すっごく綺麗でしょう？」

「…　…　…　」

そうか…林、…智花…　。

確か…そんな名前だった…。　
あの…杉崎って男の、彼女…　あの人だ…。

　　…　やっぱり…同一人物　…

ますます、意味が分からない…。

一体、この部屋を訪問してきた目的はなんだ…？

てかなんで…　
その人が、瑠衣と一緒に…　
仲良くってなに…？　　　　　　
　
偶然か…？

俺は呆然と、目の前にいる二人を見つめた…。