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~拓海~
空耳
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「どれにする?長谷川さん。」
「あ、俺は…これにします。」
「了解、すみません。あの…このランチを二つ、お願いします。」
ぼうっと、男を眺める。
あ…意外だ。
あんまり男を至近距離で見たこともなかったが…意外に、睫毛が長い。
薄い唇…
ああ、それでなんか、冷たそうに…いや、無表情に見えるのかもしれない。
気分的に、高級レストランで食事をご馳走になりたいところだったが、連れて行かれたのはごく普通の、会社近くのイタリアンの店。
既に席は沢山の女性で埋め尽くされていたが、真ん中たあたりに席を見つけ、大の男が二人向かい合わせに座る。
思えば、この人と…笠村課長とサシで食事をするのは初めてかもしれない。
課長を含め、もちろん数人で仕事帰りに飲みに行くことはあったが、上司との二人きりの食事はなんとなく緊張するなと、改めて思う。
大体、なんで今日はいきなり誘われたのか、皆目見当がつかない。
もしかして、さっきの居眠りを注意されるんだろうか…。
それとも、何か仕事のことでお説教でもされるんだろうかと、ほんの少し嫌な気持ちになる。
笠村が注文を終え、グラスの水を飲み干すのを見つめつつ、俺自身もコップに手を伸ばした瞬間。
「それで、長谷川さん…最近何か、あった…?」
「…は… え…?」
「… いや… なんとなくだけど… ここ最近、君が仕事に…あまり集中できてないように見えるんでね。」
男の視線が真っすぐに俺をとらえる。
こえーー
少しは笑えよと、頭の隅で思う…。
「あ… ああ…す、すみません、… 」
やっぱり説教か…
ただでさえ葉月のことで頭がぐるぐるしてるってのに、その上、上司からの小言かよと、内心うんざりした気持ちになる。
やっぱ、なんとか理由付けて誘いを断って、休憩室で横になってればよかったと後悔するが、時すでに遅し。
男は俺の様子に構わず続ける。
「もし、何か悩みがあるなら話してみるといい…仕事はいいとして、もしかして何か私生活で困ったことでも…?」
「あ… いえ… …」
私生活で困ったこと、だと…?
ある…困ったことは、あるに決まっている…。
いやもはや…困ったことどころか、もはや、事態は絶望に近い…恐らくもう、修復不可能な事態。
だが、話すわけにはいかない。
こんなプライベートな話を、この男に話す義務もない…。
葉月とのあれこれを…彼女とのいざこざを…この男に相談したところでどうなる?
好転するわけもない。
「…今日はどうやら二日酔いのようだが、数日前も浮かない顔で仕事をしていたし、こう言っちゃなんだが、ミスも連発していたし…」
「はあ…すみません…ご迷惑を…今後は気を付けます…」
二日酔いもしっかりばれている。
それはそれとして、俺はいったい、何を謝っているんだ…
マジで、楽しくね~~…
なんなんだよ、飯がまずくなる…。
熱々の、なんとかクリームのパスタが、もうすぐ到着するというのに。
「何があった…?話してくれないかな。」
「いえ…その…別に何も…。」
「…君は嘘が下手だから、顔を見ていたらすぐにわかるよ…言うんだ…何があった…?」
「は… いや… 別に…」
嘘が下手…?
何でそこまで言われなきゃいけないんだ…。
なんでここまで詰められるのか、意味が分からない…こっわ…。
「や… マジでほんと、か…課長に話すようなことは何も。」
「…さては、フラれたな…?」
・・・・は・・・?今、コイツなんつった・・・?
空耳か… そう、きっと空耳だな…
「さては…例の彼女に、フラれたんだな…」
二度目の発言は、あまりにもハッキリ聞こえた…。
「は… ? 」
「君がここに配属になった時に、歓迎会の時に言ってた例の彼女だよ…学生時代からの…やはり、そうか…?そうなんだな…?」
空耳じゃない…。
空耳じゃないとして…なんで、そんな風に詰め寄られなきゃいけない…?
意味が、わからない…そもそも、さすがに失礼過ぎるだろ…。
「… か、課長… 何言って… 」
「やっと… チャンス、到来かな …」
独り言のように呟きながら、男がクイと、やけに長い中指で自身の眼鏡を上げて俺を見る眼が、蛇みたいでマジで、恐怖…。
「… はあ …?」 チャンスって、なんだ… ?
男の言葉が…発した言葉が意味不明過ぎて、俺は言葉を失ったまま、眼の前の男を見つめた…。
「あ、俺は…これにします。」
「了解、すみません。あの…このランチを二つ、お願いします。」
ぼうっと、男を眺める。
あ…意外だ。
あんまり男を至近距離で見たこともなかったが…意外に、睫毛が長い。
薄い唇…
ああ、それでなんか、冷たそうに…いや、無表情に見えるのかもしれない。
気分的に、高級レストランで食事をご馳走になりたいところだったが、連れて行かれたのはごく普通の、会社近くのイタリアンの店。
既に席は沢山の女性で埋め尽くされていたが、真ん中たあたりに席を見つけ、大の男が二人向かい合わせに座る。
思えば、この人と…笠村課長とサシで食事をするのは初めてかもしれない。
課長を含め、もちろん数人で仕事帰りに飲みに行くことはあったが、上司との二人きりの食事はなんとなく緊張するなと、改めて思う。
大体、なんで今日はいきなり誘われたのか、皆目見当がつかない。
もしかして、さっきの居眠りを注意されるんだろうか…。
それとも、何か仕事のことでお説教でもされるんだろうかと、ほんの少し嫌な気持ちになる。
笠村が注文を終え、グラスの水を飲み干すのを見つめつつ、俺自身もコップに手を伸ばした瞬間。
「それで、長谷川さん…最近何か、あった…?」
「…は… え…?」
「… いや… なんとなくだけど… ここ最近、君が仕事に…あまり集中できてないように見えるんでね。」
男の視線が真っすぐに俺をとらえる。
こえーー
少しは笑えよと、頭の隅で思う…。
「あ… ああ…す、すみません、… 」
やっぱり説教か…
ただでさえ葉月のことで頭がぐるぐるしてるってのに、その上、上司からの小言かよと、内心うんざりした気持ちになる。
やっぱ、なんとか理由付けて誘いを断って、休憩室で横になってればよかったと後悔するが、時すでに遅し。
男は俺の様子に構わず続ける。
「もし、何か悩みがあるなら話してみるといい…仕事はいいとして、もしかして何か私生活で困ったことでも…?」
「あ… いえ… …」
私生活で困ったこと、だと…?
ある…困ったことは、あるに決まっている…。
いやもはや…困ったことどころか、もはや、事態は絶望に近い…恐らくもう、修復不可能な事態。
だが、話すわけにはいかない。
こんなプライベートな話を、この男に話す義務もない…。
葉月とのあれこれを…彼女とのいざこざを…この男に相談したところでどうなる?
好転するわけもない。
「…今日はどうやら二日酔いのようだが、数日前も浮かない顔で仕事をしていたし、こう言っちゃなんだが、ミスも連発していたし…」
「はあ…すみません…ご迷惑を…今後は気を付けます…」
二日酔いもしっかりばれている。
それはそれとして、俺はいったい、何を謝っているんだ…
マジで、楽しくね~~…
なんなんだよ、飯がまずくなる…。
熱々の、なんとかクリームのパスタが、もうすぐ到着するというのに。
「何があった…?話してくれないかな。」
「いえ…その…別に何も…。」
「…君は嘘が下手だから、顔を見ていたらすぐにわかるよ…言うんだ…何があった…?」
「は… いや… 別に…」
嘘が下手…?
何でそこまで言われなきゃいけないんだ…。
なんでここまで詰められるのか、意味が分からない…こっわ…。
「や… マジでほんと、か…課長に話すようなことは何も。」
「…さては、フラれたな…?」
・・・・は・・・?今、コイツなんつった・・・?
空耳か… そう、きっと空耳だな…
「さては…例の彼女に、フラれたんだな…」
二度目の発言は、あまりにもハッキリ聞こえた…。
「は… ? 」
「君がここに配属になった時に、歓迎会の時に言ってた例の彼女だよ…学生時代からの…やはり、そうか…?そうなんだな…?」
空耳じゃない…。
空耳じゃないとして…なんで、そんな風に詰め寄られなきゃいけない…?
意味が、わからない…そもそも、さすがに失礼過ぎるだろ…。
「… か、課長… 何言って… 」
「やっと… チャンス、到来かな …」
独り言のように呟きながら、男がクイと、やけに長い中指で自身の眼鏡を上げて俺を見る眼が、蛇みたいでマジで、恐怖…。
「… はあ …?」 チャンスって、なんだ… ?
男の言葉が…発した言葉が意味不明過ぎて、俺は言葉を失ったまま、眼の前の男を見つめた…。
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