【完結 R18】ほかに相手がいるのに

～杉崎～

仮面

その日、彼女と…水無月葉月と別れて帰宅した俺は、すぐにシャワーを浴びに風呂場へ向かった。
すぐに頭を冷やしたかったのだ…

頭から少し熱めのシャワーを浴びながら…考える。

前に智花と彼女と…その彼氏、４人で…はからずも食事をした時…俺の中に…ドロドロと得体の知れない感情が生まれようとしていた…。

彼女の彼…拓海という人物は…垣根がない男だ…良くも悪くも…。
屈託がなくて、人の言葉の裏を読まない…本当は読めるのに、敢えて読まないようにしているのか、そこは定かではないが、とにかく、天真爛漫な男に思えた。

水無月さんとは対照的な気がして、少し不思議に思った。
なぜ…この二人がうまく行っているのかと…
もしかしたら、水無月さんの我慢のうえに、成り立っている関係だとしたら…それは良くない。

だからと言って、俺は完全な部外者で…彼女の恋愛に口を出す権利なんて微塵もないのだ…。

だけど、拓海が…彼女の全てを知っているような口ぶりで彼女のことを語りだしたときには…俺はなぜだかイラつきを覚えた…。そもそも他人の恋愛の話でイラつくなんて…おかしな話だ…おかしいのは俺だ…。

そんなことはわかっていても、奴が彼女の…全てが小さい…みたいな発言をした時…完全に、頭の中に血が上った…。彼女の全てを…彼女の身体の…胸や…ほか…何もかもを…この男は…拓海は知っているのだ…。
彼女の声も…喘ぐ表情も…身体のどこが…弱いかとか感じやすいとか…そんなこと…全てを…奴は把握している。

そんなことは…恋愛関係にある男女であれば、当たり前のこと。
わかってはいるし、自分にとやかく言う権利もないのに…正直に自分自身で自分の気持ちを問えば、不快…。それしかなかった。

そうだ、間違いなく俺は…不快に思ったのだ。

この感情は一体…なんだというのか…
あんなにも年若い、まるでまだ少女のような女性…　
でも…彼女はその見た目に反して、間違いなく男を知っているのだ…
ああ…イラつく…同時に…彼女を愛おしいと思う…

今日だって、旅館の下見に誘ってしまった…
誘うこと自体、セクハラかな…とか考えはしたものの、気付けば口走っていた…。

旅館の下見を口実に、彼女とドライブが出来る…
そんなことを…もしも俺が彼女に言ったなら…彼女は顔を真っ赤にして怒るだろうか…
でももはや、その怒った顔も愛おしいと思ってしまうかもしれない…。

ああ…駄目だ…　俺は本当に、最近どこかおかしい…

下見の日は…俺のそんな感情を、絶対に彼女に知られてはいけない…
あくまで冷静に、大人の仮面をつけて、彼女を紳士的に、車に乗せよう…

そう決意して、俺は少しのぼせたのかふらつきながら、風呂場を後にした。