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6 全ての元凶

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 ……遡ること数時間。

 アレクサンドはユーフェミアの屋敷を訪ねる少し前、シュバリエ公爵の屋敷を訪問していた。

 それはもちろん。

 ユーフェミアと婚約破棄しろとか、寝ぼけた事を伝えてきたシュバリエ公爵と話し合う為に。

「それで、シュバリエ公爵? はいったいどういう事ですか、事と次第によってはいくらユーフェミアの父親だろうと私は一切容赦いたしませんよ?」

「あはは、なんだいアレクサンド。珍しく私に会いにやって来たかと思えば藪から棒に、本当に君は酷いなぁ? 少しは敬ったらどうなんだい?」

 急ぎ訪ねてきたアレクサンドを、茶をのんびりと飲みながら出迎えたシュバリエ公爵は。

 揶揄するようにニヤニヤと笑っている。

 全く悪いと思っていないらしい。

「酷いのはいったいどちらですか? 私との約束をシュバリエ公爵は破るおつもりですか……!」

「……仕方ないじゃないか。私だってユーフェミアちゃんには幸せになってもらいたいんだけどねぇ?」

「貴方またユーフェミアを利用するおつもりですか? 次はいったい何を企んでいるんです、敵国との縁談なんて……」

「んー? 宰相を辞した君に詳しく話す事はちょっと出来ないなぁ。コレ、国政に関わる事だからね?」

 アレクサンドが宰相を辞めてしまい、国政が現在滞っている事をシュバリエ公爵は根に持っているのでこんな事を言う。

 だが国政が滞っているのは、別にアレクサンドが辞めたせいだけではないのだ。

 確かにこの男ほど仕事が出来る人間はそうそういない、だが現在国政が滞っている主な原因は。

 アレクサンドが辞める際に後任に指名し業務を引き継ぎしていた、其なりに有能な人物ではなく。

 政治上の都合によりあまり有能ではない人物を周囲の反対を押し切って、シュバリエ公爵が推薦し就任させた為である。

「……シュバリエ公爵? 貴方が何を企んでいるのか知りませんし興味もありませんが、この私からユーフェミアをまた奪ったら、この国……ぶっ潰しますよ? 正直このガーディン国がどうなろうと私はどうでもいいんですよ愛国心とかありませんし」

「え……ちょ、アレクサンド……?」

 ユーフェミアと結婚し、不自由のない生活をさせる為にはそれなりの地位と資金は必要なので実際潰す気はないが。

 国の為にユーフェミアを奪われるくらいなら、国を潰した方がいいとアレクサンドは本気で思っている。

 最悪の場合お隣の友好国にでもユーフェミアを連れて亡命でもすれば、アレクサンドは潤沢な個人資産があるので特に困らず二人で生きていけるだろうし。

 それにお隣の友好国の王太子ユリウスとアレクサンドは、親友と呼べるくらい仲が良いので喜んで亡命した二人を受け入れてくれるだろう。

「確かに私は宰相の職は辞しました。ですが国を潰す程度、私にかかれば造作もない些末な事です。シュバリエ公爵、貴方が一番私の能力を知っていますよね」

「え、あー……アレクサンド? ちょっと私と話し合おう……? そんな怒らないで、ね!」

「それでシュバリエ公爵、次は何を企んでいるんですか? さっさと白状してください、貴方と腹の探り合いするの面倒なんで」

「……あの国の王太子さ? ユーフェミアちゃんを寄越せば国交を正常化して、友好国になるっていうから」

「たったそれだけの事で、実の娘を敵国に? ちょっと貴方、頭オカシイんじゃないですか? やっぱり……」

 前々からアレクサンドは思っていた。

 シュバリエ公爵はちょっとばかり、世間の一般常識からかけ離れた考えをする変わった人間だと。

 基本的にこのシュバリエという男は個人よりも国、国の為ならば個人の幸せなんて全く考えない。

 それは王族として産まれたからか、それともシュバリエ個人の思想だからなのかはわからない。

「やっぱりって、アレクサンドお前ほんと酷いっ! いやでもさ、それで友好国になれば……いいかなって? 思うでしょう……」

「……ユーフェミアは貴方の駒じゃありませんよ? 娘への愛情って、貴方には全く無いんですか?」

「んー、ユーフェミアちゃんは可愛い娘だよ? でもさ、国の為になるならそれは仕方ないでしょ」

「はあぁ!? 何が仕方ないだ、このくそ親父! 国なんかよりも大事なモノが何故わからない!? ユーフェミアの気持ちはいったいどうなるんだ! あの子にそんな事言って傷付けたら、いくら貴方でもただでは済まさないからな!」

 そしてアレクサンドはキレた。

 いくらなんでも、もう我慢の限界である。

 またユーフェミアを手駒のように扱い、国の為なら喜んで犠牲にしようとするシュバリエ公爵の考え全てがアレクサンドの怒りを買った。

「いや、そんな怒らなくても……?」

「これが怒らずにいられるか! 人の人生なんだと思っているんだ! いい加減にしろよ……!」

「だってユーフェミアちゃんは王家の血を引く娘、国の為に生きる、それが当たり前だろう……?」

 アレクサンドに本気でキレられて脅されてもなお、シュバリエ公爵はそんな事を平気で宣った。

 実際にそれが当たり前と、シュバリエ公爵は本気で思っていたから。

 それにアレクサンドの事をシュバリエ公爵は舐めていた、まだまだ若造だと。

「……シュバリエ公爵? 貴方さっきからこの私に喧嘩売ってます? 喜んで買いますよ? いっそのこと断頭台に送ってあげましょうか? 自分がその責任王位継承争いの責任を取りたくないからと、まだ年端もいかない少年少女にイカれた王家の責任を擦り付けて人生を歪めた罪でね?」

 なのでとても久し振りにアレクサンドは、嫌味ったらしくネチネチとした口調になって。

 冷たく淡々と『断頭台に送るぞ?』と、シュバリエ公爵を笑顔で脅した。

「アレクサンド、お前……黙って聞いてれば誰に向かってそんな口を……!」

 そして最後に。

「それに貴方が死んでもユーフェミアは泣きませんし、いっそ嫌っているので大喜びしそうですしねぇ?」

 『お前が死んだらきっと娘は大喜び』だど皮肉たっぷりに告げて、嘲笑った。
 
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