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3 逃げた王妃

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「自由っ! 最高っ!」

 自由、なんて甘美な響き……!

 王都の夜空に煌めく星達に見守られながら。

 廃妃だと昼に告げられたユーフェミア王妃は。

 10年間住んだ王宮からこっそりと一人、闇夜に紛れて脱け出す事にまんまと成功せしめた。

 たった10歳で王家に嫁がされたあの日から、自由なんてものはユーフェミア王妃には与えられず。

 勉強と王妃としての社交活動に明け暮れる日々。

 遊ぶ事なんていくら幼い少女でも、大国の王妃となったユーフェミアには許されない。

 同年代のご令嬢達は親元で、ぬくぬくと育ち子どもらしく遊んでるというのに。

 なぜ私だけこんなに頑張って働かなきゃいけないのかと、幼い頃はよく一人嘆いていた。

 だけどそんな鬱々とした日々とはもうおさらば。

 私は夢にまで見た自由を手に入れた……!

 イラナイなら、もう好き勝手させて頂きます!

 ……もうこんな国、知らん!

 と拗ねたユーフェミアは。

 昼に廃妃と告げられてそう時間は経っていないのに、夜にはささっと荷造りを済ませて。

 大きなトランクケース片手に、意気揚々と夜の街へと希望を胸に足を踏み出した。

 だが、生まれも育ちもその血統さえも高貴で貴く。

 身分が高過ぎるやんごとなきユーフェミア。

 貴婦人というには、頼りない印象をそのほんわかとした雰囲気や繊細で美しい容姿からは受けてしまう。

 市井に下ってユーフェミアが生きていけるのかと聞かれたら、普通は無理だとそのおっとりとした雰囲気から誰しも答えるだろうがこの元王妃。

 ……普通の貴婦人ではなかった。

 迷うことなく王都でも評判の良い宿にたどり着き、手慣れた旅人のように宿泊手続きを済ませて。

「こんばんはー! あ、素泊まりで1泊!」

「はい素泊まりね! お代は銀貨2枚ね!」

「オバチャン! 素泊まりなんだから、相場は銀貨1枚でしょ!」

「なんだいあんた、お嬢ちゃんみたいな見た目なのに……仕方ないね! ほら銀貨1枚でいいよ!」

「そうこなくっちゃっ!」

 軽い足取りで繰り出した王都の外れにある屋台で、平民達にまじってエールと屋台料理に舌鼓して。

 相席となった平民達と談笑を交わす。

「はい、お待ち! 熱いから気をつけてー!」

「んふふー! これ美味しー!」

「お嬢ちゃん、えらいべっぴんだなー! どっかの令嬢か? こんな夜にほっつき歩いてて大丈夫か?」

「いやん! べっぴんだなんて! うふふ! そんな褒めてもなにも出ませんよー? あとご令嬢じゃないですー! 夫にポイっと捨てられた可哀想な女ですー!」

「こんなべっぴんな嫁さん捨てるだなんて、そいつは酷ぇ馬鹿な野郎だな!」

「でしょでしょ!? ほんとーに酷い男なのよ! あのあんぽんたん! ちょっとオッチャン、私の話聞いてくれるー?」

 そしてほろ酔い気分で自分を捨てた夫の愚痴を、たまたま相席となった平民達相手に語る。
 
 だがいくら平民達と同じ質素な服を着て、侍女達に磨き上げられた艶やかな肌を泥を塗って隠していたとしても。

 ユーフェミアが意識することなく勝手に醸し出される高貴さを漂わす、その気品は隠しきれない。

 だがユーフェミアは王妃としての社交活動で獲得した柔軟な思考で、それを軽やかに切り抜けた。

 おっとりとした雰囲気のユーフェミアだが、その内面は幼き頃からの王妃教育と社交活動で肝が据わっていた。

 そうして廃妃となったユーフェミアの逃亡生活1日目の自由な夜は、鼻歌交じりに更けていった。
    
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