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27 思惑から
しおりを挟む楽しげに談笑する貴族達の合間を縫うようにしてアレクサンドは、目的の人物の元へ脇目も振らず大広間を進んでいく。
今までどんな不足の事態に陥ってもアレクサンドは慌てる事なく事もなげに対応して、その冷静さを欠く事など一度もなかった。
だけど今は。
その表情に焦りを感じさせて、余裕が全くない。
「シュバリエ公爵! 貴方に頼みがある、何も聞かず今すぐ一緒に来てくれ!」
「え、なに……? 突然どうし……」
「のんびりしてないで早く!」
目的の人物の顔を見るなりアレクサンドは、それだけ端的に告げて。
困惑するシュバリエ公爵をその場から、問答無用でどこかに引き摺るように連れていく。
その様子に周囲にいた貴族達は目を見張る、あのシュバリエ公爵にそんな態度を取るなんて命知らずにも程があるから。
でもアレクサンドに問答無用で連れられていくシュバリエ公爵は怒るどころか、どことなく楽しそうで。
そんなシュバリエ公爵の楽しげな様子に余計に貴族達は困惑を露にする、こんな温厚な人物だったか?
と。
でもそれはアレクサンドだからで。
シュバリエ公爵にこんな不敬な態度を取って許されるのは、このガーディンではアレクサンドか国王陛下くらいだろう。
シュバリエ公爵はこの二人に甘い。
それはシュバリエの判断によって、この二人の人生が歪んで狂ってしまったから。
静観などせずに、もっと早く自分が王位継承争いに介入して止めていれば。
何か結果が変わっていたかもしれないから。
それについては愛娘ユーフェミアに対しても言えることだがこのシュバリエ公爵、娘の前ではつい格好をつけてしまって貴族らしい話し方しか出来ず本音で話せない。
だから狸親父だと、余計にユーフェミアに嫌われる事態になってしまっている。
「……なあアレクサンド、どこに連れていく気だい? 君、少しくらい私を敬ってもいいんだよ?」
「フェリクスの所です! あの馬鹿、王の権力使ってユーフェミアを近衛に命令して呼び出しやがった!」
腹立たしそうにアレクサンドは、一応この国では賢王とまで言われるようになった国王フェリクスをあの馬鹿と罵倒する。
「ふむ? うちの可愛いユーフェミアちゃんを……フェリクスが……アレもうちの娘の魅力に気付いてしまったのか……」
「なに呑気な事を! シュバリエ公爵早く歩いて下さい、ユーフェミアの身にもし何かあったらどうするつもりですか!」
「いや流石にそれは無いと思うけど? でもまあ……もしその時は……ユーフェミアちゃんにはまたフェリクスの妃となって貰うしかないかなぁ?」
「シュバリエ公爵……私が言えた事ではありませんが彼女は貴方の手駒じゃない……意思ある人間です!」
「……それはわかっているよ? でもユーフェミアちゃんは私の娘として生まれてしまったから……可哀想だけど本人の意思が尊重されない事もあるよ、出来ればあの子には幸せになって欲しいけど」
「言ってる事と、貴方がユーフェミアにやっている事……めちゃくちゃですね」
「あはは……私は元々王家の人間だからね? 個人の意思より国が大事だと教えられている……だからアレクサンド、君が私達の思惑からユーフェミアちゃんを守るんでしょ?」
アレクサンドをまるで挑発するかのように、シュバリエ公爵は薄く笑う。
「……言われなくても! だから早く歩け! 遅い!」
「……少しくらい私を敬って、優しくしてもいいんだよ?」
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