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修行編

第六話 妹よ、俺は今レベルを上げています。

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「トキオ様、いい加減に機嫌を直してください」

「・・・・・・・」

 現在、俺は自室に鍵をかけ絶賛引きこもり中だ。

 レベルアップ後、身体の様子を確かめている最中にカミリッカさんが放った衝撃の一言。いくら俺がお人好しでも、あれは看過できない。
 カミリッカさんは故意にやっていたのだ。男の純情を踏みにじる許されざる行為だ。自分の罪と向き合ってもらう為にもしばらく口を聞いてあげない。

 時間が出来たのでステータスを確認しておこう。


 名前 トキオ セラ(21)
 レベル 2
 種族 人間
 性別 男

 基本ステータス
 体力 3600/3600
 魔力 4900/4900
 筋力 3160
 耐久 3380
 俊敏 3700
 器用 5400
 知能 5120
 幸運  180

 魔法
 火  D
 水  D
 風  C
 土  B
 光  D
 闇  E
 空間 D
 時間 C

 スキル
 自動翻訳10 鑑定10 隠密9 不動心8 瞑想5 交渉4 料理4 創造4 体術2 剣術1 双剣1 槍術1 弓術1

 加護
 創造神の加護


 基本ステータスがきっかり20倍になっているのを見て、改めて恐ろしい加護だと実感した。

 この世界の冒険者がどれくらいのレベルかは知らない。カミリッカさんからもその辺りは自分で調べるよう言われている。仮にレベルにカンストがあるとしてそれがレベル100だったとするなら、俺はレベル10にするだけで人類のトップクラスと並んでしまう。
 すでにレベル20相当のステータスを持っている俺にとって、レベル10になるのは難しいことではない。創造神様の加護を最大限生かすためあえてレベルを上げす訓練で基本ステータスを八倍ほどに上げていた俺は、レベル20相当どころかレベル100相当を遥かに超えた可能性もある。

 力を持つ者には責任が伴う。いや、それ以前にカミリッカさんの「誓約」を忘れてはならない。俺が悪しきことに力を使えばカミリッカさんの魂は奪われてしまう。そんなこと、絶対にあってはならない。


「トキオ様、お許しください。トキオ様」

 そろそろ許してあげるか。腹を立てていたのは事実だが、本当はそれ以上に恥ずかしさのあまり逃げてきたようなものだし。

 ドアを開けると普段はクールなカミリッカさんが随分と慌てている。

「申し訳ありません、トキオ様。あまりにも無神経でした」

「今後、絶対にしないと約束してくれますか?」

「はい、約束いたします」

「それでは、今日の晩御飯をすき焼きにしてもらえるなら許します」

「かしこまりました。腕によりをかけて最高のすき焼きを準備致します」

 条件を付けないで許すと変に罪の意識を持ち続けちゃうかもしれないし、少しぐらい我儘を言ってもいいよね。


 ♢ ♢ ♢


「ウォーターボム」

 指先から飛び出した水の弾丸が巨大なゴーレムの胸に突き刺さる。次の瞬間ゴーレムは爆散した。

 今使ったのは俺のオリジナル魔法。まず、魔法で水を出し空間魔法で圧縮する。液体は圧縮しても殆ど体積を変えないが、まったく圧縮できない訳ではない。着弾と同時に水の弾丸にあらかじめ仕掛けておいた火魔法で一気に温度を上げると空間魔法が耐えきれなくなり今のように破裂する。
 使った魔法属性は水、空間、火、時間の四つ。この魔法の利点は魔力をほんの少ししか必要としないことだ。四つの属性をかけ合わせることで少しの魔力でもこれだけの効果的な攻撃が可能になる。
 俺はこの魔法を半永久的に出し続けられる。レベルが10を超えたところでカミリッカさんから結界外へレベル上げに行く許可が出てわかったのだが、俺の魔力回復にかかる時間は異常なほど早かった。
 魔力を枯渇ギリギリまで使って全回復までの一般的な平均は八時間。異世界に来てすぐ自分の魔力回復にかかる時間を計測したが、その時は六時間四十分だった。かなり優秀な方だが一度魔力を使い果たしてしまえば、魔力回復のアイテムを使わない限り戦闘中に魔法は使えなくなる。結界外へレベル上げに行く際に注意すべき点だったので、いつも戦闘後の魔力量に気を使っていた。そして気付く。

 全然魔力が減らない・・・

 改めて魔力回復の時間を計測すると驚異の四十分。六時間四十分かかっていた筈がいつの間にか四十分で全回復できるようになっていた。六時間四十分は四百分。俺の魔力全回復にかかる時間は四十分。そう、創造神様の加護が鑑定には現れないステータスまで上げていたのだ。
 結果、使用魔力量の少ない魔法なら魔力消費より回復が上回るため魔力が減らない。厳密には減った直後に回復する。

 この世界に来て八ヶ月、レベル上げを始めて四ヶ月が経過しステータスは格段に上がった。


 名前 トキオ セラ(22)
 レベル 32
 種族 人間
 性別 男

 基本ステータス
 体力 57920/57920
 魔力 78720/78720
 筋力 50880
 耐久 54400
 俊敏 59520
 器用 86720
 知能 82240
 幸運  2880

 魔法
 火  C
 水  C
 風  B
 土  A
 光  C
 闇  E
 空間 C
 時間 B

 スキル
 自動翻訳10 鑑定10 隠密9 不動心8 創造6 瞑想5 交渉5 料理5 体術5 剣術5 双剣5 槍術4 弓術4 発掘2

 加護
 創造神の加護


 改めて基本ステータスを見るとレベル上げ前の特訓がいかに重要だったかわかる。唯一上げられなかった運のステータスが2880。俺の運は一般平均の半分程しかなかったことを考えても、特訓なしでいきなりレベル上げをしていたなら今のレベルでの基本ステータスは平均6000前後、創造神様の加護が無ければ600前後といったところだ。
 ヒールを駆使してパワートレーニングをしてくれたカミリッカさんには感謝してもしきれない。


 さて、今俺が何をしているかというと、レベル上げをしながら鉱物資源を集めている。「創造」で俺専用の武器を作る為の材料集めだ。始めは闇雲に探していたが、最近鉱山の近くにはゴーレムが居ることに気付いた。
 ここは人類未開の地、魔獣の大森林最奥地。鉱山さえ見つけてしまえば鉱石は摂り放題。俺にとってゴーレムは金脈なのだ。
 ゴーレムを見つけた付近を捜してみると案の定洞窟発見!

「鑑定」

 スキルで隈なく調べながらどんどん奥へ。途中で現れた魔獣はウインドカッターで狩っていく。なぜウォーターボムを使わないかだって、ゴーレム以外の魔獣にウォーターボムを使うと辺り一面、血と肉塊が飛び散り酷い惨状になるからだよ。

「うーん、外れだな・・・金ばかりだ」

 前世だったらウハウハだが今必要なのはお金じゃない。まあ、持っていても困るものじゃないから少し貰っていこう。

「発掘」

 新たに得たスキル「発掘」で金を100㎏程掘り出しマジックボックスに入れていく。
 マジックボックスは本当に便利な魔法だ。放り込んでおけば欲しい物を思い浮かべて手を入れるだけで取り出せる。

 今日はこれぐらいにするか。帰りにジャイアントボアを二三頭狩ってカミリッカさんのお土産にしよう。


 ♢ ♢ ♢


「ただいま戻りましたー」

「お帰りなさいませ、トキオ様」

 結界外へレベル上げに出掛けた日はカミリッカさんがお出迎えしてくれる。誰もいない家に帰るのが当たり前だった俺にとっては大好きな時間だ。

「ジャイアントボアを狩ってきたので、後で解体して厨房に運んでおきますね」

「お気遣いありがとうございます。夕食の準備が整っていますので食堂へどうぞ」

「はい。あー、お腹減った」

 食事は体作りの基本、特に体を動かした後の食事は大切だ。もりもり食べるぞ!



「なんだか今晩の夕食・・・えらく豪華ですね・・・」

「誕生日に豪華な食事を摂るのは、どんな世界でも共通ですよ」

 今日、ステータスの年齢欄が一つ上がっていた。それの伴い基本ステータスも少しだけ上がった・・・それだけの日。
 両親が他界してから俺の誕生日を祝う人が居なくなった。家に帰り、いつもと同じ適当な食事を摂り、シャワーを浴びて寝るだけ。年齢が一つ増えるだけの日。
 何年もそうやって誕生日を過ごしてきた。

「トキオ様、お誕生日おめでとうございます」

 祝ってもらえるのが当たり前のままだったら、こんなに心を揺さぶられなかっただろう。何年も、誰にも気付かれることなく過ぎて行った分、感情が込み上げてくる。

「あ゛・・あ゛りがどう・・・ごだい・・・ばず」

 嬉しい。嬉しすぎる。駄目だ、涙が止まらない。何故だろう、こんなとき「不動心」はまったく仕事をしてくれない。


 泣き笑いながらカミリッカさんが用意してくれた豪華な食事をお腹いっぱい食べた。食後にケーキが出てきてまた泣いた。
 生きていくのに必死で気付かない振りをしてきた。もう戻れない。自分がこれ程までに人との触れ合いを欲していたと気付いてしまった。誰かに祝ってもらえるのがこんなにも嬉しいと知ってしまった。
 今日カミリッカさんに祝ってもらったことを忘れず、今度は俺が色々な人を祝ってあげたい。新しい世界では積極的に人と触れ合っていこう。

「トキオ様、これは私からの誕生日プレゼントです」

 カミリッカさんから渡されたのは一冊の本。タイトルは「カミリッカのレシピ」

「こ、こんな素晴らしい本を貰っていいのですか?」

「はい、トキオ様が旅立たれた後も美味しい食事を摂っていただきたいですから」

「あ・・ありばどぶ・・・こだい・・・ばす」

 心が・・満たされていく。苦しい生活の中、忘れかけていた感情が溢れて涙が止まらない。こんなにも相手を思いやったプレゼントがあるなんて・・・

 妹よ、俺は今猛烈に感動しています。
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