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28.ありがとう、あなたのその表情が見たかったの
3.
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「どうして、マンティス!? どうしてそんなことを!?」
ローズは髪を振り乱し、大きな声で泣き叫んだ。
あんなにも素直で、可愛かったマンティスが。優しく母親想いで、優秀で、何処に出しても恥ずかしくない自慢の息子のマンティスが。アカデミーを停学になり、不貞腐れたように座っている。
狭い貴族社会、マンティスは一生後ろ指を指されながら生きて行くことになってしまう。彼には輝かしく、約束された未来が用意されていたというのに、これでは台無しだ。あんまりだ。
「母上には関係ないって言っただろう? 僕はヴァイオレットさんと結婚する。本気で彼女を愛しているんだ。母上にも、父上にも、誰にも文句は言わせないよ」
そう言ってマンティスはローズの手を振り払う。初めての経験だった。
「そんな……そんな馬鹿な…………」
ローズの瞳は怒りのあまり血走っていた。怒りの矛先は当然、相手の女教師へと向かう。
大事な息子を誑かされ、将来を台無しにされてしまった。いや、それより何より息子が女を優先してしまった。母親である自分を差し置いて――――。
「あの、奥様……。お取込み中に申し訳ございません。ただ今奥様に会いしたいと、お客様がいらっしゃってまして」
侍女が必死にローズを宥める。このままでは客に声が聞こえてしまう。更なる醜聞を産んでしまうというのに。
「客!? そんなもの、今会えるはずが無いでしょう!? 早く追い返しなさい!」
「ですが……」
「わたくしはマンティスの目を覚まさなければならないのよ! 分かったら、さっさと行って――――」
「――――ヴァイオレット!?」
けれどその時、外出していた筈の夫の声が響いて聞こえた。玄関ホールの方角だ。
「――――ヴァイオレットですって?」
ローズが肩を震わせる。それは先程、息子の口から飛び出した、憎き女と同じ名前じゃないか。
けれど、ローズが身を翻すよりも早く、マンティスが勢いよく走り出す。
「ヴァイオレットさん!?」
瞳をキラキラと輝かせ、マンティスは螺旋階段を駆け下りる。ローズを顧みることなく、真っ直ぐに前へ――ヴァイオレットの元へ向かっていく。
「待ちなさい、マンティス!」
ローズは走った。心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響く。足はガクガク震えているが、怒りのせいで身体は熱かった。一瞬が永遠にも思えるような感覚に襲われる。
「マンティス!」
叫びつつ、階段の上から玄関ホールを見下ろす。
その瞬間、ローズは思わず息を呑んだ。
眩い金の髪に、神秘的な紫の瞳。深紅のドレスが真っ白な肌と豊満な肢体によく映える。しっとりと成熟した大人の色香を感じるが、あどけない表情、瑞々しい肌のせいで、まるでマンティスと同年代のようにも見えてくる。まるで大輪の薔薇のように美しい女性がそこに立っていた。
「止めてください、父上! ヴァイオレットさんに触らないで! 彼女は僕の恋人です! あなたが触れて良い人じゃない!」
ローズがハッと目を見開く。マンティスの声だ。
「なにを言うんだマンティス。ヴァイオレットは父さんの恋人だ! 俺達は心から愛し合っている。ローズと離婚するから結婚してほしいと、何年も何年も言い続けていた。 ようやく決心がついたのだろう? だからここに来てくれたんだろう?」
ヴァイオレットは問いかけに答えぬまま、ゆっくりと静かに微笑む。
ローズは驚愕に目を見開いた。
ローズは髪を振り乱し、大きな声で泣き叫んだ。
あんなにも素直で、可愛かったマンティスが。優しく母親想いで、優秀で、何処に出しても恥ずかしくない自慢の息子のマンティスが。アカデミーを停学になり、不貞腐れたように座っている。
狭い貴族社会、マンティスは一生後ろ指を指されながら生きて行くことになってしまう。彼には輝かしく、約束された未来が用意されていたというのに、これでは台無しだ。あんまりだ。
「母上には関係ないって言っただろう? 僕はヴァイオレットさんと結婚する。本気で彼女を愛しているんだ。母上にも、父上にも、誰にも文句は言わせないよ」
そう言ってマンティスはローズの手を振り払う。初めての経験だった。
「そんな……そんな馬鹿な…………」
ローズの瞳は怒りのあまり血走っていた。怒りの矛先は当然、相手の女教師へと向かう。
大事な息子を誑かされ、将来を台無しにされてしまった。いや、それより何より息子が女を優先してしまった。母親である自分を差し置いて――――。
「あの、奥様……。お取込み中に申し訳ございません。ただ今奥様に会いしたいと、お客様がいらっしゃってまして」
侍女が必死にローズを宥める。このままでは客に声が聞こえてしまう。更なる醜聞を産んでしまうというのに。
「客!? そんなもの、今会えるはずが無いでしょう!? 早く追い返しなさい!」
「ですが……」
「わたくしはマンティスの目を覚まさなければならないのよ! 分かったら、さっさと行って――――」
「――――ヴァイオレット!?」
けれどその時、外出していた筈の夫の声が響いて聞こえた。玄関ホールの方角だ。
「――――ヴァイオレットですって?」
ローズが肩を震わせる。それは先程、息子の口から飛び出した、憎き女と同じ名前じゃないか。
けれど、ローズが身を翻すよりも早く、マンティスが勢いよく走り出す。
「ヴァイオレットさん!?」
瞳をキラキラと輝かせ、マンティスは螺旋階段を駆け下りる。ローズを顧みることなく、真っ直ぐに前へ――ヴァイオレットの元へ向かっていく。
「待ちなさい、マンティス!」
ローズは走った。心臓がバクバクと嫌な音を立てて鳴り響く。足はガクガク震えているが、怒りのせいで身体は熱かった。一瞬が永遠にも思えるような感覚に襲われる。
「マンティス!」
叫びつつ、階段の上から玄関ホールを見下ろす。
その瞬間、ローズは思わず息を呑んだ。
眩い金の髪に、神秘的な紫の瞳。深紅のドレスが真っ白な肌と豊満な肢体によく映える。しっとりと成熟した大人の色香を感じるが、あどけない表情、瑞々しい肌のせいで、まるでマンティスと同年代のようにも見えてくる。まるで大輪の薔薇のように美しい女性がそこに立っていた。
「止めてください、父上! ヴァイオレットさんに触らないで! 彼女は僕の恋人です! あなたが触れて良い人じゃない!」
ローズがハッと目を見開く。マンティスの声だ。
「なにを言うんだマンティス。ヴァイオレットは父さんの恋人だ! 俺達は心から愛し合っている。ローズと離婚するから結婚してほしいと、何年も何年も言い続けていた。 ようやく決心がついたのだろう? だからここに来てくれたんだろう?」
ヴァイオレットは問いかけに答えぬまま、ゆっくりと静かに微笑む。
ローズは驚愕に目を見開いた。
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