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【2章】断食魔女、神殿で華やかな生活を謳歌する(?)

19.世の中には、知らないほうが良いこともあるようです(1)

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 夜会はそれから数日後、あっという間に開かれた。


「見てみて、ジャンヌさん! 可愛いでしょう?」

「はいはい、可愛い可愛い」


 己の髪の色と同じピンクのドレスを身に纏い、マリアが嬉しそうにターンをする。

 六歳の少女に相応しいフリルやレースがふんだんにあしらわれたそのドレスは、王室からの贈り物らしい。
 子供心をくすぐる大きな宝石のはめ込まれたヘッドティカにイヤリング。日曜朝の戦うヒロインが身につけていそうな愛らしいデザインだ。


(わたしもああいうものに憧れていた頃があった……んだっけ?)


 悲しいかな、とてもぼんやりとしか覚えていない。
 我ながら随分と擦れたおとなになってしまったものだ。マリアのように、素直にオシャレを楽しめるような性格なら良かったのに。


「さてさて、ジャンヌ殿もお着替えの時間ですよ」

「――――分かってるわよ」


 上機嫌の神官様に急かされ、わたしも渋々着替えを始めた。

 魔法を使ってコルセットを締め、神官様が用意したドレスに身を包む。
 髪色に近いシャンパンゴールドのドレス。細かな刺繍が施されていて、派手すぎず、そして地味すぎない。浮いてしまうのが一番問題だから、良い感じに場に溶け込めそうな印象で、わたしはホッと胸を撫で下ろした。


「わぁ、ジャンヌさん綺麗っ! 素敵!」

「はいはい、ありがとう。マリアはホント、褒め上手だね」


 ぶっきら棒に頭を撫でれば、マリアは嬉しそうに目を細めた。


「本当に思ってるもん! ジャンヌさんが一番綺麗! セドリックもそう思うでしょう?」


 マリアが問いかけると、神官様は呆けた表情でその場に突っ立っていた。


「――――別に、無理して褒めなくて良いわよ」


 神官様がハッと大きく目を見開く。それから彼は、大きく首を横に振った。


「そんなまさか! 私はただ、美しいジャンヌ殿の姿に見惚れていたんですよ!」

「どうだか。貴方は自分が一番美しいと思っているでしょう?」


 神官様はナルシストだから。
 己の顔が基準だから、他の人間は全員へのへのもへじ状態に違いない。


「それについては否定しませんが、女性の中でジャンヌ殿が一番美しいと思ってますよ」

(否定しないんかい!)


 思わず吹き出しそうになりながら、わたしは小さく息を吐く。


「神官様って、本当に素直な人ですよね」


 天邪鬼なわたしとは大違い。
 まぁ、ペラペラとよく口が動くから、何処までが本心か分からないけど。


「えぇ? ジャンヌ殿も十分、素直だと思いますよ?」

「ハッ! これの一体どこが?」

「見ていたら分かりますから」


 神官様はそう言って、わたしの頭をよしよしと撫でる。慈愛に満ちた笑顔。思わぬことに、わたしは飛び上がってしまった。


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