【短編集】全力で愛を叫ばせろ!

鈴宮(すずみや)

文字サイズ
小 中 大 特大
28 / 33
6.生きててよかった!(……いや、死んでよかった?)

1.

(あれ……?)


 なんだろう、この既視感。わたし、目の前の男性にものすごく見覚えがある。
 サラサラした金色の長い髪、鋭い水色の瞳。スラリと長い手足に、あまり人を寄せ付けない雰囲気――。


(わかった! ブレディン様だ!)


 合点がいったその瞬間、脳裏に記憶が押し寄せてくる。わたしとは違う『わたし』の記憶。間違いない。これは前世のわたしの記憶だ。


 状況を整理しよう。


 わたしはマヤ・アップグルント。十七歳。侯爵の娘だ。
 両親は健在。三歳年上の兄が一人いて、家族仲良く領地で暮らしている。
 幼い頃の記憶だってバッチリ残っている。わたしがわたしであることは間違いない。

 そして、今しがた思い出した記憶――前世のわたし、摩耶は病弱で、人生の殆どを病院のベッドで過ごしていた。学校に通うこともできず、友達だっておらず、家か病院でジッと過ごす日々を送っていた。


 そんなわたしを支えてくれたのは、大好きな少女漫画の存在だった。


 漫画の主人公たちはいつも活き活きと人生を楽しんでいた。学校生活だったり、夢や魔法の世界だったり、恋愛だったり……わたしが経験してみたくて、けれどできないことを教えてくれた。漫画はわたしの生きがいだった。


 けれど、わたしは病気に勝てなかった。
 若くして亡くなった摩耶は、マヤとして生まれ変わったらしい。

 ……いや、生まれ変わったというより、もしかしたらここはわたしにとっての天国なのかもしれない。


 だって、今目の前にいるのはブレディン・グアダルーペ様。摩耶が最終回まで見届けられなかった作品の――一番大好きだった漫画のヒーローなんだもの。


(生きててよかった! ……いや、死んでよかった?)


 ここが天国だろうが、なんなら作者様の頭の中だとしても一向に構わない。神様には感謝しなきゃならない。このお話の続きが読めなかったのはわたしにとって唯一の心残りだったのだから。


 それにしても、原作でこんな場面は見た覚えがない。もしかしたらこれって、お話の続きなんじゃなかろうか? 次号新展開って書いてあったし。だけど、わたしと一体なんの関係が……?


「マヤ、紹介しよう。彼はブレディン・グアダルーペ侯爵令息。お前の婚約者だよ」


 わたしの隣でお父さまが微笑む。


「……は!?」


***


 お父さまの嘘つき。ただのお茶会だって言ってたじゃん! 
 まさか婚約者を紹介する流れだなんて思ってなくて、わたしは大いにテンパってしまった。ブレディン様だって驚いていたし。こんなのってない。完全な騙し討ちだ。驚きすぎて、なんにも言葉が出てこなくて、早々に場を辞して部屋に引きこもってしまった。


(っていうか本気で無理)


 だって、ブレディン様にはヒロインが――アイラがいるんだもの。二人は絶対に結ばれなきゃダメなんだもの。こんなところでポッと出の婚約者がでてくるなんてありえない。少女漫画はハッピーエンドじゃなきゃいけないのに!


「失礼します、お嬢様」


 そのとき、部屋の外から声をかけられた。執事のアンセルだ。


「旦那様がお呼びです。ブレディン様ともう少し交流を深めるようにと。明日まで屋敷に滞在なさるので、それまでに……」

「いやだって言っといて」


 こたえると、アンセルが部屋の中に入ってきた。


「お嬢様ならそうおっしゃると思ってました」


 テーブルに色とりどりのスイーツが載ったティースタンドと、あんずの香りのする紅茶が並べられていく。先程のお茶会で食べ損ねたものだ。


「どうぞ」

「……いいの? アンセルがお父さまに怒られるんじゃない?」

「構いません。私はお嬢様の執事ですから」


 アンセルが微笑む。わたしは思わずドキッとしてしまった。


(よく考えたら、アンセルってものすごいイケメン……っていうか、漫画映えしそうな執事よね)


 艷やかな黒髪に神秘的な紫色の瞳、バカみたいに整った顔立ちをしていて、執事服がめちゃくちゃ似合っている。当然のようにハイスペックで文武両道、いつもわたしの思考を完璧に読み取って、やりたいようにやらせてくれる。漫画のキャラだって言われたらものすごくしっくりくるんだけど、脇キャラにしておくにはもったいない――それがわたしにとってのアンセルだ。


「あのさ……信じなくてもいいからわたしの話を聞いてくれる?」

「はい、なんでございましょう?」

「わたしね、前世の記憶を思い出したんだ」



感想 8

あなたにおすすめの小説

真実の愛の正しい処理方法 表紙

真実の愛の正しい処理方法

王立学院で婚約者の第五王子ループレヒトから突然の婚約破棄を宣言されたアーレルスマイアー公爵家嫡女マルガレーテ。王子は異母妹ミリヤムこそ真実の愛だと叫び、彼女を「国母に相応しい」と持ち上げる。しかし貴族社会には、一代前に筆頭公爵家嫡男が示した『真実の愛の正しい処理方法』という前例があった。責任を負う覚悟もなく愛を振りかざした愚かな王子と異母妹、そしてその家族を待ち受けるのは、断罪劇ではなく国家反逆罪としての厳正な裁き。勘違いした恋の果てを描く、悪役令嬢ざまぁファンタジー。 ※王位継承権・貴族制度などはこの創作限定の設定です。現実世界や筆者の他の創作との関連はございません。 ※AIに設定とプロットをぶん投げて、出力された文章をベースに大幅な加筆修正を加えて作成したものです。
ファンタジー 完結 短編
文字数 14,790
悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。 表紙

悪役令嬢がヒロインからのハラスメントにビンタをぶちかますまで。

乙女ゲームの悪役令嬢に転生した私は、ざまぁ回避のため、まじめに生きていた。 でも、ヒロイン(転生者)がひどい!   彼女の嘘を信じた推しから嫌われるし。無実の罪を着せられるし。そのうえ「ちゃんと悪役やりなさい」⁉ シナリオ通りに進めたいヒロインからのハラスメントは、もう、うんざり! 私は私の望むままに生きます!! 本編+番外編3作で、40000文字くらいです。 ⚠途中、視点が変わります。サブタイトルをご覧下さい。
恋愛 完結 短編
文字数 42,073
悪役令嬢のビフォーアフター 表紙

悪役令嬢のビフォーアフター

婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。 腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ! とりあえずダイエットしなきゃ! そんな中、 あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・ そんな私に新たに出会いが!! 婚約者さん何気に嫉妬してない?
恋愛 完結 短編
文字数 34,145
やり直しわがまま令嬢はさよならと決めた 表紙

やり直しわがまま令嬢はさよならと決めた

エレン・アバンズは疲弊していた。それは婚約者のアナ・ブラウンの事である。 彼女はとても貴族らしい女性だった。プライドが高く、我儘で傲慢なせいで手を焼いていた。それだけなら良かった。アナはエレンの大切な人を殺そうとしたのだ。 激昂したエレンは、アナへ絶縁を言い渡す。だがその帰り道、アナは事故に遭い意識不明となる。 目が覚めたと聞いたエレンがアナの元へ訪れると、アナの様子が変わっている事に気付く。 一体アナの身に何が起こったのかーー。
ファンタジー 完結 短編
文字数 13,632
悪役令嬢が行方不明!? 表紙

悪役令嬢が行方不明!?

乙女ゲームの設定では悪役令嬢だった公爵令嬢サエナリア・ヴァン・ソノーザ。そんな彼女が行方不明になるというゲームになかった事件(イベント)が起こる。彼女を見つけ出そうと捜索が始まる。そして、次々と明かされることになる真実に、妹が両親が、婚約者の王太子が、ヒロインの男爵令嬢が、皆が驚愕することになる。全てのカギを握るのは、一体誰なのだろう。 ※初めての悪役令嬢物です。
恋愛 完結 長編
文字数 191,372
悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。 表紙

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。
恋愛 完結 短編
文字数 34,848
「白い結婚だから息子は独身同然」ですか? お義母様、私たちまだ離縁しておりませんが 表紙

「白い結婚だから息子は独身同然」ですか? お義母様、私たちまだ離縁しておりませんが

 夫の再婚相手を募集する招待状が届いた。――差出人は義母。ちなみに、私はまだ妻である。 白い結婚を理由に、勝手に夫の再婚話を進める義母。 ところが調べてみると、令嬢たちから多額の準備金を集めていたことが発覚! 冷静で芯の強い妻クラリスと、実は妻を溺愛している公爵レオン。 夫婦で義母の企みを暴く、痛快ざまぁ&じれ甘異世界恋愛。
恋愛 完結 短編
文字数 30,175
信用という名の財産 表紙

信用という名の財産

伯爵令嬢セシリアには、幼い頃から婚約している侯爵令息アルフレッドがいた。 だがアルフレッドは、乳母の娘である幼馴染リディアを「妹のようなものだから」と何かにつけて優先する。 セシリアの誕生日には夜会のエスコートをすっぽかし、伯爵家が用意した劇場の特別席や高級レストランの予約まで、当然のようにリディアとの外出に使ってしまう。 セシリアはそこで気づく。 問題なのは、自分より他の女性を優先されたことではない。 伯爵家の名義、資産、信用を、侯爵家が許可なく使っていることだった。 過去三年間を調べ直せば、次々と明らかになる婚約契約違反。 「これは恋愛の問題ではありません。二つの貴族家が結んだ契約の問題です」 伯爵家は婚約を解除し、契約通りに違約金と慰謝料を請求する。 一方、家のことを妻へ任せきっていた侯爵は、そこで初めて自らの家で何が行われていたのかを知る。 夫人の離縁。嫡男の廃嫡。 しかし、それで失われた信用が戻るわけではなかった。 前金を求める商人。条件を厳しくする銀行。距離を置く貴族たち。 金で支払える違約金よりはるかに重い、「信用を失う」という代償。 これは、婚約を破棄した伯爵令嬢と、崩れかけた侯爵家を一から建て直そうとする当主の、契約と信用をめぐる物語。
恋愛 完結 短編
文字数 20,270