35 / 41
【最終章】溺愛攻防、ついに決着
35. ......クラルテ、それは無理だよ
しおりを挟む
(クラルテがザマスコッチと手紙のやり取りをしている……?)
心臓がドクンドクンと鳴り響く。動揺のあまり息が上手くできなかった。
(一体何故?)
どうしてなのか……本当は考えなくともわかる。わざわざ手紙を職場まで転送をしているのだ。……俺から隠すために。そう考えざるを得ない。
(何故だ? どうしてなんだ、クラルテ?)
胸が苦しい。クラルテの笑顔が頭に浮かび上がり、今にも泣き出しそうになる。
クラルテが俺以外の名前を呼ぶのが嫌だ。笑顔を向けるのが嫌だ。……俺以外の男を好きになるなんて嫌だ。
(嫌だ)
……というより無理だ。耐えられない。
クラルテだけはなにがあっても絶対に失うわけにはいかない。奪われるわけにはいかないんだ。
(俺のなにがいけなかったんだろう?)
二人の時間を作れなかったこと? もっともっと、クラルテにかまってやれていたら、こんなことにはならなかったのだろうか?
けれど、忙しいのは俺だけじゃない。クラルテ自身も毎日忙しく働いている。
(……まさか、帰宅が遅い理由は仕事ではなくザマスコッチに会っていたから?)
いや、違う。ありえない。クラルテがどれだけ真剣に働いているのか、俺は知っている。疑うなんてもってのほかだ。
……けれど、ザマスコッチと手紙のやり取りをしているのは紛れもない事実なわけで。
(ダメだ。しっかりしろ)
クラルテに会いたい。会って、彼女の声が聞きたい。笑顔が見たい。……俺が好きだと言ってほしい。
抱きしめたい。キスしたい。……それから、彼女が俺のものだと確かめたい。
不安に嫉妬、葛藤……そんな生易しい言葉では言い表せない。こんな気持になったのは、生まれてはじめてだった。
外出なんてできるはずもなく、悶々としたまま俺は夜を迎える。その日、クラルテが帰ってきたのは日付をまたいだあとだった。
「ハルト様! まだ起きていらっしゃったんですか?」
玄関でクラルテを出迎えると、彼女は嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。使用人たちはすでに休ませているので、ここにいるのは俺たち二人きりだ。
「嬉しい! わたくし、ハルト様にとってもとっても会いたかったんです……!」
ギュッと身体を抱きしめられ、思わず目頭が熱くなる。俺はクラルテを抱きしめかえし、彼女のつむじに顔を埋めた。
「食事は?」
「まだです……けど、お腹は空いていませんし、いりません! ハルト様と少しでも一緒にいたいから」
そう言って、ねだるような表情でクラルテが俺を見上げてくる。
俺はクラルテに口づけた。
何度も、何度も。角度を変えて。頬を撫で、愛をささやき、互いの存在を――クラルテの愛情を確かめる。
「ハルト様……?」
どうしたんですか? とクラルテが尋ねてくる。どこか不安げな表情。けれど、不安なのは……泣きたいのはこっちのほうだ。
「クラルテ、愛してる」
本当に。
俺は君のことが愛しくて愛しくて、たまらないんだ。
「クラルテも……俺のことが好き?」
「へ!?」
クラルテが頬を真っ赤に染める。恥ずかしそうに視線をさまよわせつつ、彼女は俺の服の裾をギュッと掴んだ。
「好きですよ」
「……本当に?」
「ほっ……!? 当たり前じゃないですか! こんなに、こんなに大好きなのに!」
「だけど、一瞬ためらったじゃないか」
「自分から言うのと求められるのとじゃ違います。恥ずかしいじゃありませんか!」
クラルテはそう言って唇を尖らせた。
ダメだな、俺。これじゃ聞き分けの悪い子どもじゃないか。拗ねて、いじけて、クラルテのことを疑って……まったく救いようがない。恋はこんなにも人を愚かにするのだろうか?
「ハルト様ったら、一体どうしちゃったんですか?」
「……なんでもない。多分、寂しかったんだと思う」
クラルテが俺の頭を撫でる。優しく、愛しげに。これまでとちっとも変わらない様子で。
(きっと見間違いだったんだ)
クラルテが俺を裏切るはずがない。俺をひとりにするはずがない。こんなことで不安になるなんてバカげている。……わかっている。わかってはいるんだ。
「大丈夫ですよ」
クラルテは微笑み、俺の頬へと口づける。思いきり抱きしめられて、胸がじわりと温かくなる。
「もうちょっとしたら、もっといっぱいハルト様と一緒にいられるようになりますから。……というか、それだけをモチベーションに頑張っているのですから、そうなってもらわないと困ります! 誰かのために自分を犠牲にするなんて生き方は好きじゃありませんもの」
プンプンと頬をふくらませるクラルテの姿に、俺は思わず目を細めた。
「……そうだな。クラルテはそういう子だよな」
「えへへ」
クラルテは笑いながら、俺の腕に抱きついてくる。
「ハルト様、好きです! 大好き!」
ああ、君はこんなにも簡単に、俺の心を大きく揺さぶるから。
「今夜は一緒のベッドで眠ってもいい?」
遠慮とか手加減とか、色々とどうでもよくなってしまう。
クラルテはゆでダコみたいに真っ赤になったあと、上目遣いに俺のことを見上げてきた。潤んだ瞳。……今そこに映っているのは俺だけ。
「お手柔らかにお願いします」
……クラルテ、それは無理だよ。
心のなかで返事をして、俺は小さく息をついた。
心臓がドクンドクンと鳴り響く。動揺のあまり息が上手くできなかった。
(一体何故?)
どうしてなのか……本当は考えなくともわかる。わざわざ手紙を職場まで転送をしているのだ。……俺から隠すために。そう考えざるを得ない。
(何故だ? どうしてなんだ、クラルテ?)
胸が苦しい。クラルテの笑顔が頭に浮かび上がり、今にも泣き出しそうになる。
クラルテが俺以外の名前を呼ぶのが嫌だ。笑顔を向けるのが嫌だ。……俺以外の男を好きになるなんて嫌だ。
(嫌だ)
……というより無理だ。耐えられない。
クラルテだけはなにがあっても絶対に失うわけにはいかない。奪われるわけにはいかないんだ。
(俺のなにがいけなかったんだろう?)
二人の時間を作れなかったこと? もっともっと、クラルテにかまってやれていたら、こんなことにはならなかったのだろうか?
けれど、忙しいのは俺だけじゃない。クラルテ自身も毎日忙しく働いている。
(……まさか、帰宅が遅い理由は仕事ではなくザマスコッチに会っていたから?)
いや、違う。ありえない。クラルテがどれだけ真剣に働いているのか、俺は知っている。疑うなんてもってのほかだ。
……けれど、ザマスコッチと手紙のやり取りをしているのは紛れもない事実なわけで。
(ダメだ。しっかりしろ)
クラルテに会いたい。会って、彼女の声が聞きたい。笑顔が見たい。……俺が好きだと言ってほしい。
抱きしめたい。キスしたい。……それから、彼女が俺のものだと確かめたい。
不安に嫉妬、葛藤……そんな生易しい言葉では言い表せない。こんな気持になったのは、生まれてはじめてだった。
外出なんてできるはずもなく、悶々としたまま俺は夜を迎える。その日、クラルテが帰ってきたのは日付をまたいだあとだった。
「ハルト様! まだ起きていらっしゃったんですか?」
玄関でクラルテを出迎えると、彼女は嬉しそうに俺の元へと駆け寄ってくる。使用人たちはすでに休ませているので、ここにいるのは俺たち二人きりだ。
「嬉しい! わたくし、ハルト様にとってもとっても会いたかったんです……!」
ギュッと身体を抱きしめられ、思わず目頭が熱くなる。俺はクラルテを抱きしめかえし、彼女のつむじに顔を埋めた。
「食事は?」
「まだです……けど、お腹は空いていませんし、いりません! ハルト様と少しでも一緒にいたいから」
そう言って、ねだるような表情でクラルテが俺を見上げてくる。
俺はクラルテに口づけた。
何度も、何度も。角度を変えて。頬を撫で、愛をささやき、互いの存在を――クラルテの愛情を確かめる。
「ハルト様……?」
どうしたんですか? とクラルテが尋ねてくる。どこか不安げな表情。けれど、不安なのは……泣きたいのはこっちのほうだ。
「クラルテ、愛してる」
本当に。
俺は君のことが愛しくて愛しくて、たまらないんだ。
「クラルテも……俺のことが好き?」
「へ!?」
クラルテが頬を真っ赤に染める。恥ずかしそうに視線をさまよわせつつ、彼女は俺の服の裾をギュッと掴んだ。
「好きですよ」
「……本当に?」
「ほっ……!? 当たり前じゃないですか! こんなに、こんなに大好きなのに!」
「だけど、一瞬ためらったじゃないか」
「自分から言うのと求められるのとじゃ違います。恥ずかしいじゃありませんか!」
クラルテはそう言って唇を尖らせた。
ダメだな、俺。これじゃ聞き分けの悪い子どもじゃないか。拗ねて、いじけて、クラルテのことを疑って……まったく救いようがない。恋はこんなにも人を愚かにするのだろうか?
「ハルト様ったら、一体どうしちゃったんですか?」
「……なんでもない。多分、寂しかったんだと思う」
クラルテが俺の頭を撫でる。優しく、愛しげに。これまでとちっとも変わらない様子で。
(きっと見間違いだったんだ)
クラルテが俺を裏切るはずがない。俺をひとりにするはずがない。こんなことで不安になるなんてバカげている。……わかっている。わかってはいるんだ。
「大丈夫ですよ」
クラルテは微笑み、俺の頬へと口づける。思いきり抱きしめられて、胸がじわりと温かくなる。
「もうちょっとしたら、もっといっぱいハルト様と一緒にいられるようになりますから。……というか、それだけをモチベーションに頑張っているのですから、そうなってもらわないと困ります! 誰かのために自分を犠牲にするなんて生き方は好きじゃありませんもの」
プンプンと頬をふくらませるクラルテの姿に、俺は思わず目を細めた。
「……そうだな。クラルテはそういう子だよな」
「えへへ」
クラルテは笑いながら、俺の腕に抱きついてくる。
「ハルト様、好きです! 大好き!」
ああ、君はこんなにも簡単に、俺の心を大きく揺さぶるから。
「今夜は一緒のベッドで眠ってもいい?」
遠慮とか手加減とか、色々とどうでもよくなってしまう。
クラルテはゆでダコみたいに真っ赤になったあと、上目遣いに俺のことを見上げてきた。潤んだ瞳。……今そこに映っているのは俺だけ。
「お手柔らかにお願いします」
……クラルテ、それは無理だよ。
心のなかで返事をして、俺は小さく息をついた。
4
あなたにおすすめの小説
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
お飾りの婚約者で結構です! 殿下のことは興味ありませんので、お構いなく!
にのまえ
恋愛
すでに寵愛する人がいる、殿下の婚約候補決めの舞踏会を開くと、王家の勅命がドーリング公爵家に届くも、姉のミミリアは嫌がった。
公爵家から一人娘という言葉に、舞踏会に参加することになった、ドーリング公爵家の次女・ミーシャ。
家族の中で“役立たず”と蔑まれ、姉の身代わりとして差し出された彼女の唯一の望みは――「舞踏会で、美味しい料理を食べること」。
だが、そんな慎ましい願いとは裏腹に、
舞踏会の夜、思いもよらぬ出来事が起こりミーシャは前世、読んでいた小説の世界だと気付く。
【完結】「お前とは結婚できない」と言われたので出奔したら、なぜか追いかけられています
22時完結
恋愛
「すまない、リディア。お前とは結婚できない」
そう告げたのは、長年婚約者だった王太子エドワード殿下。
理由は、「本当に愛する女性ができたから」――つまり、私以外に好きな人ができたということ。
(まあ、そんな気はしてました)
社交界では目立たない私は、王太子にとってただの「義務」でしかなかったのだろう。
未練もないし、王宮に居続ける理由もない。
だから、婚約破棄されたその日に領地に引きこもるため出奔した。
これからは自由に静かに暮らそう!
そう思っていたのに――
「……なぜ、殿下がここに?」
「お前がいなくなって、ようやく気づいた。リディア、お前が必要だ」
婚約破棄を言い渡した本人が、なぜか私を追いかけてきた!?
さらに、冷酷な王国宰相や腹黒な公爵まで現れて、次々に私を手に入れようとしてくる。
「お前は王妃になるべき女性だ。逃がすわけがない」
「いいや、俺の妻になるべきだろう?」
「……私、ただ田舎で静かに暮らしたいだけなんですけど!!」
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫に捨てられた私は冷酷公爵と再婚しました
香木陽灯
恋愛
伯爵夫人のマリアーヌは「夜を共に過ごす気にならない」と突然夫に告げられ、わずか五ヶ月で離縁することとなる。
これまで女癖の悪い夫に何度も不倫されても、役立たずと貶されても、文句ひとつ言わず彼を支えてきた。だがその苦労は報われることはなかった。
実家に帰っても父から不当な扱いを受けるマリアーヌ。気分転換に繰り出した街で倒れていた貴族の男性と出会い、彼を助ける。
「離縁したばかり? それは相手の見る目がなかっただけだ。良かったじゃないか。君はもう自由だ」
「自由……」
もう自由なのだとマリアーヌが気づいた矢先、両親と元夫の策略によって再婚を強いられる。相手は婚約者が逃げ出すことで有名な冷酷公爵だった。
ところが冷酷公爵と会ってみると、以前助けた男性だったのだ。
再婚を受け入れたマリアーヌは、公爵と少しずつ仲良くなっていく。
ところが公爵は王命を受け内密に仕事をしているようで……。
一方の元夫は、財政難に陥っていた。
「頼む、助けてくれ! お前は俺に恩があるだろう?」
元夫の悲痛な叫びに、マリアーヌはにっこりと微笑んだ。
「なぜかしら? 貴方を助ける気になりませんの」
※ふんわり設定です
結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。
真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。
親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。
そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。
(しかも私にだけ!!)
社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。
最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。
(((こんな仕打ち、あんまりよーー!!)))
旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる