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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-116 そう簡単にやらせてくれぬのが世の理

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…アイギス火山の山小屋を去り、火山内部につながる洞窟を進んでいく。
 既にルートは開拓した人たちの手によって判明しているところが多く、罠があってもどういうものなのかわかりやすく、可能な限り回避できるだろう。

ゴロゴロゴロゴロゴロ!!
「でも、後ろから大岩が転がってくるタイプの罠は、先にある横穴まで頑張って走りきれってだけのものは酷くないかなぁ!?」
「火山内部のマグマが一部吹き出て冷えて、自動で充填されるタイプのものだから発動してそれで終わりじゃないってのは大変だよー!!」

 よくある冒険活劇の映画で見るような大岩が転がってくるタイプの罠は、己の身で体感させられるとどれだけ大変なものかよくわかる。
 しかもご丁寧なことに、転びやすい穴や小石がいやらしい配置で設置されているようで、油断すれば転倒して罠に巻き込まれるのが目に見えてわかりやすいだろう。

 まぁ、流石にVRMMOなので死亡ではなく…デスペナルティにもならないような罠らしい。
 だが、そうでないならどういうことになるのかといえば、状態異常「紙装甲」というものになるようで、漫画表現にあるようなペラペラに押しつぶされたような姿になって、防御力も1にされるという厳しいもののようだ。

 一部のマニアの間では、まさに古典的表現すぎて、額縁とかをもってきて自らを絵にして本物の二次元にして見るなと、ある意味猛者としての楽しみ方をする人もいるようだが、流石に僕らはその境地に至るわけもない。

「えっとあれでもなくて、これでもなくて!!あったあった、特性粘着爆薬っと!!」

 全速力で走っても、逃げ切れないほど早く転がってくる岩の塊。
 そのため他所の時間稼ぎのために、爆発して粘着物質をまき散らす爆薬を使ってみる。

ドッガァァン!!
ネバネバブチブチィ!!
「よし!!抑えきれていないけど、ちょっと減速して余裕ができた!!」
「岩の破壊までは?」
「流石に威力不足!!情報だと、あの岩の塊自体がそこそこの強度があるから、今の手持ちだとちょっと厳しいかも!!でも、破壊しなくてもこのぐらいだったら逃げ切れるはずだよ!!」

 どどどどどっと勢いよく駆け抜け、減速しているから余裕をもっていると、ようやく目当ての横穴が見えてきた。

「ミーちゃん!!あそこに入ってやり過ごすよ!!」
「おっけー!!」

 ぎりぎりだったら潜り込めるかどうか怪しいが、距離に余裕ができた今ならば問題ない。
 僕らはそろって素早く横に飛んで穴に入り、続けて岩が過ぎ去っていった。

ゴロゴロゴロゴロ、ドッガァァァン!!

「…ふぅ、無事にやり過ごせたね」
「まさか、体育の時間で競った反復横跳びの横っ飛びが、活きてくるとは、何が起こるかわからないもんだなぁ」

 安堵の息を吐きつつ、横穴から出て様子を見たところ、転がってきた岩が見事に先のほうにあった壁に激突し、木っ端みじんになって砕けていた。
 その行き止まりの場所には、扉が設置されているようだが…頑丈な金属製の扉のようで、まったくひしゃげた様子もないだろう。あの奥のほうに、火山内での中ボス的なモンスターもいるらしい。

「ついでに砕けた岩も、何度もやっていたら積み重なっていそうだけど…あ、出てきたあれがない原因か」

 何度も罠として作動していたら、大岩の破片で扉が埋もれていくはず。
 けれどもそうならないのには理由があるようで、岩が砕けるや否や、周辺から続々と原因となるモンスターが出てきた。

【アリアリアリィイイイ!!】
【アリッサァッァ!!】

 ちょっとした人の子供サイズほどの、土気色をした大きなアリのモンスター『マッドロックアント』。
 彼らは穴を掘って生活しているのではなく、地面に同化して生活しているアリのモンスターであり、主食が主に岩だという。
 そのため、プレイヤーたちやNPCとかがここの罠を作動させて岩が砕け散るや否や、すぐにやってきて持って行ってしまうそうだ。

…穴がないところから、地面からにゅっと水面に出るように現れてくる光景はちょっと怖い気もする。
 でも、一応人に対しての敵意はないらしく、中立的なモンスターに該当するようだ。

「罠が作動しないときは、自ら作動させて岩を得るって話だけど…そんなに美味しいものなのかな?」
「岩の味は、岩を食べるやつらにしかわからないでしょ。ほら、血の味が私や他の吸血鬼にとって味の違いが分かるけど、常人がまともに血の味を理解できると思う?」
「あー…それもそうか。そういうものなのかな」

 そんな血の味を言われても、確かに血を食べるというか飲むことをしない普通の人間の身からすれば、味の区別なんぞつきにくいもの。
 そういう例えを出してくれると分かりやすく、アントたちが岩を好む理由を納得する。

「あれ?というか、そんな血の味の違いとか分かるものなの?」
「わかるよ。血液型とかで分けていたりするけど、同じような方だとしても、その人によってかなり違うようだし…吸血界隈だとワインの飲み比べとかじゃなくて血の飲み比べとかたまにあるからね」
「あるんだ、そんなこと」
「あるある。100年物の一品とか、混ぜて作ったハイブリットなものとか…一応、普通に保管すると凝固したりして飲み物にならないから、特殊な製法でどうにか液状を保っているんだけどね」
「そういや、違う血同士とかだとダメみたいなことを聞くからな…」
「それでも、口をそろえて皆が言うのは番のが一番っていうけどね。誰かがそれを全部混ぜ合わせたら最高なんじゃないと言ったら、ぶっ飛ばされていたような…」

 吸血界隈も、余計なことを言ってやらかす人がいるようである。
 そういう奴に限って、結構しぶとく生き残るという話もあるが、現実のほうで見たことあるからなぁ…まぁ、気にするようなこともないだろう。





 そうこうしている間にも、扉をくぐってここの中ボスの立場にいるらしいマグマタコタロスとかいう奴を吹っ飛ばしつつ、最深部にたどり着いた。

「最深部というけど…上のほうから光が見えるけど、火口の底の方か」
「うわぁ、ぐつぐつとマグマが煮えたぎっている様子で…あの奥に見えるのが、ここの主を祭っているという祭壇かな?」

 時々噴火をする活火山なだけあってか、煮えたぎるマグマの様子は健在の様子。
 そんな中にあっても、何度も噴火が起きても耐えるつくりになっている祭壇を目にすることができ、その周辺で黒い何かが蠢く様子も目に見えた。

「あの蠢く奴に、MACのスキルをあてれば出てくるか…用意は良いかな、ミーちゃん?」
「いつでも準備おっけーだよ。戦うかどうかはさておき、目撃だけでもクエスト達成になるけど…山小屋のボルナックさんから頂いた火山の主、シャドウフェニックスとやらの姿を拝んでみようか」
「それじゃ、同時に…3」
「2」
「1で」
「「スキル『MAC』発動!!」」


 合図とともに同時に僕らが撃ちだすことができたのは、銀色の光線。
 攻撃力はなく、対象に機械の装備の見た目を与えるようで、中身が変わるだけではない。

 だが、ここの主…影の中に潜み続けるという主の姿を拝むには必須のスキルのようで、直撃すると同時に何かが飛び出した。

【ケェェェェェェェェェェェ!!】

 黒い影から飛び出し、真っ黒なボディみたいだったところが徐々にパイプやボタン、その他色々とメカニクルな装飾へと切り替わっていき、その姿を日の元に照らしだしていく。
 想像以上に巨大なというか、フェニックスの名が付くからもっとこう鳥っぽい感じの見た目を想像していたのだが、どちらかといえばその姿は…

【ケェェェェェェェェェェェェェェェェェン!!】
「「フェニックスというよりも、思いっきり丸々と肥え太っているような、雉じゃぁぁぁん!!」」

…もっとこう、鳳凰とかの姿のイメージがあったが、近いようで間違っているような姿をした、機械の怪鳥が姿を現すのであった。
 
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