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Ver.4.0 ~星々の輝き、揺らめく境界~

ver.4.2-0.5 ミステリートレイン 

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…あたりが暗くなり、星々が照らす中駆け抜けるミステリートレイン。
 真夜中の間は流石に事故防止のために速度が少し制限されるが、その静かな走りでも普通の列車であれば多少の振動があっただろう。

 だが、この列車に連結されている寝台車は快適な睡眠を届けるために、振動が抑えられており、眠りの邪魔をすることはなかった。

 けれども、全ての人がその中で眠りについているわけでもない。

「スヤァ…ムニュ…」

 寝台車領内で、客用に用意されているベッドルーム。
 ただし、乗車している人の人数の関係上、流石にホテルのような大きな部屋にすることはできず、二人の組み合わせで当てられたのは二段ベッドの形式の部屋。
 上か下かで、昼間の勝負で勝利したミントが決めて、彼女は上に、春は下で爆睡していたが…上のほうで寝ていたミントは、そっと降りて彼の横に座っていた。

「ふふふ…無防備に、ぐっすり寝ているね、春」

 初日の疲れからかかなり爆睡している春のようだが、ミントはそこまで眠気はない。
 先日の自身の母による騒動で引っ張られたときはその収拾のためにかなり体力を使ったので眠気に酷く襲われはしたが…そもそもの話、彼女は人間でなく真祖だからこそ、この程度では体力は失われていないのである。

 むしろ、勝負後にゆったりと春同様にお風呂でくつろいだために、体力が回復してしまい眠りづらくなってしまったというのもある。
 一応、人と同じような生活リズムは有しているはずだが…眠れない夜というのは、誰にでもある者だ。

 まぁ、多少は寝なくても問題はない。条件さえ整えば不眠不休で動くことも可能なのだから。
 とりあえず今は、自然な眠りにつくまで…こうやって起きながら春の寝ている姿を見るのも悪くはないだろう。

「それにしても、ここまで無防備とは…本当に寝ているよね?」

 試しにぷにぷにとほっぺを指でつついてみるが、寝ている状態に変化はない。
 少しゆすってみるも、完全に爆睡されているようだ。

「うーん…ここまで完全爆睡するのも羨ましいかも…」

 先日、ありえない寝相をしていたミントだが、その自覚はない。
 なのでその言葉は本当にそうなのかと疑問に思えそうだが、誰もツッコミ入れない。


…いや、人間ではないものだからこそ、ここまで無防備になって寝られるのは羨ましいと思うのだ。

 真祖という立場上、人ではない。
 受け入れてくれる人がいたとしても、大抵の人は人ならざるものたちに畏怖を抱き、恐怖し、そして排除するように動くことが多い。
 だからこそ、いつその身を消すために行動されるかが恐ろしくもあり…気を抜けないときが多いのだ。

「…でも、そんな私でも春は大丈夫だったね」

 昔から一緒に過ごしていた、いとこという立場。
 本当の血のつながりはないので赤の他人のような立場とも言えなくもなく、それゆえに心のどこかでは受け入れてくれないことに対して恐れていたのだ。

 人が人ならざる者たちを恐れるように、その逆もある。
 その相手が、自分が最も自身をさらけ出せるような相手であれば…拒絶されるというのは言い表せないほどの絶望を抱かされたかもしれない。


『正直言って、ミーちゃんに対して不安を抱くってのはないかな』
『ミーちゃんはミーちゃんで変わってないなら、それでいいんじゃないかな』
 
 それで、結局真祖であることを明かしたところで…出てきたその春の言葉に安堵した。
 その後のほうにちょっとひっかかるような言葉もあった気がするが…それでも、人ならざる身である自身に対して、彼は否定も拒絶も畏怖も抱くことはなく、昔から変わらない相手として接してくれている。


「その言葉が、私にとって凄く嬉しかったんだよ、春。寝ているけど、改めて言うね。私を否定することなく、ずっと変わらずにいてくれてありがとう、私の大事な愛しい人

 爆睡されているから、その言葉は届くことはない。
 けれども、こうやって伝えたくなるほど温かい気持ちを湧き出させてくれているのには変わりないからこそ、声に出したくなる。
 
 文句を言うのであれば、受け入れてくれたのは嬉しいのだが…いかんせん、長い間いとことして一緒に過ごしすぎてしまったが故か、その関係性に変化を生みだしづらいところ。
 ミント自身としては先へ進めたいのだが…こういうことに関しては初心な部分もあり、春に至ってはどこの主人公だよというほどの鈍さを持っているのが悲しいところである。


「ふわぁ…あ、ようやく眠くなってきたかな…それじゃ、上の方で寝ているよ。お休み…は…っ!!」

 ゆったりとした時間が流れ、かなり落ち着いたからかようやく眠気がやってきたのだが…上のベッドに上ろうとしたところで、ミントは体をこわばらせた。

 何か嫌な気配でも感じたのか。
 違う。移動し続ける列車ゆえにそんなものが容易く来るわけでもなく、気配を感じたわけでもない。
 ならば、春の体に異常があったのか。
 それも違う。大きな病気を患ってもおらず、先日の怪我もすっかり完治しているので問題もなく健康なのだが…それゆえに、彼女は衝動に襲われそうになったのだ。


 ここしばらくは、起きることがなかった真祖ゆえの衝動。
 けれども、こうやって心を許していたからこそ…抗わずにそのまま流されてしまいたくなるような、本能が引き起こす強い欲望。

「ひゅっ…ふぅ…危ない危ない。持ってきていてよかったよ、吸血種用プチパック。少し奮発して味の良いタイプで…」

 衝動にかられた時のお手軽な解決方法として、彼女はこの旅行用に購入しておいたお手軽サイズの食用血液パックの封を開けて吸血する。
 これだけでかなり衝動が緩和されるので、旅行先でうっかりやらかしそうな同胞たちの間では重宝されている品なのだ。

「けぷっ…トドマグロ松茸風味のものだけど…うん、だいぶ楽になったかな…でも…」

 緩和されたとはいえ、それでもここまで近い距離にある以上、失われることはない。
 いや、むしろ家にいる時よりも距離が近すぎるので、余計に意識をしてしまう。

 無防備にぐっすり寝ている春…その首元が非常に狙いやすそうであり…自身の歯がうずきそうなのを抑えて、さっさとベッドの中へ潜り込む。
 少々気持ちも一緒に高ぶってほてりそうだが、それもどうにかしてここで発散するしかない。

「うう、春に旅行に誘われたのは嬉しかったけど、考えたらこれ相当ヤバい拷問にならないかなぁ…」

 後悔はしたくないし、するつもりもない。
 けれども、目の前にあり手の届きそうな位置にあるのに、それにすぐに手を出せないのは非常にもどかしく、精神的に来るものがあるだろう。

 ひとまず今は、この高ぶる気持ちを抑えることのほうへ集中するのであった…

「くぴぃ…すぅ…」
(うううううううううううううううううううううっ!!)











 人ならざる者たちの中でも高位の位置にあるはずの一人の真祖が悶えまくっていたそのころ。
 家の方では、ロロは本日分のデータをまとめ上げつつ、警戒を怠らずに監視を行っていた。

【…地下および空のほうは、問題ないですネ。地上分が近くに待機したようですが、この様子ですと動くのは明日からでしょうカ。警察関係なども動かせますが…派手にやることができないので、ここはあえて潜らせるべきでしょうカ】

 他の神系スキル所持者のプレイヤーの元にも同様の襲撃がありそうだが、そちらもロロ同様に使用人たちの努力もあり、問題はなかった。

 機械神のところではむしろサンプルとして生け捕りになり、団子神のもとでは団子の雨あられが降り、筋肉神ではマッスル大会が開催されたという。
 意味不明な報告が混ざっていたような気がしなくもないが、それでも無事なのには変わりないので問題はないと言えるだろう。少なくとも、変態神のもとで行われて警察が本格出動するほどのやばい騒動になったものよりはましである。そこに襲撃しに行った人たちのほうが哀れすぎる末路をたどったようだが…運が悪かったと思ってほしい。むしろ何故、そんなとこへ向かった。


 とにもかくにも、あちこちで襲撃がありつつも問題は起きていない。
 それどころかたくさんデータとして集まってくれるので、今回の敵対企業に対しての報復措置の準備は着実に構築されつつあり、数日以内には収まるはずである。
 
【あ、でもこの各結果を見ると、全員変態の元へ送ったほうが一番いいのでは…いや、見ているこっち側のほうが精神的なダメージが大きいですし、止めておきましょウ】

 相手の一方的な行動なので、情けをかける必要もないのだが…そこへ向かわせた場合のことを考えると、行かせないほうがある意味救いになるのかもしれない。
 

 そんなことを思いつつも、相手の動向に油断せずに策を練っていき、明日に備えて動くのであった…


【…それにしても、主様の居場所を見つけてやってくる可能性を考えると結構大変そうでしたが…ミステリートレインで良かったですネ。もう、気が付いたとしても最終日までは手も出せないでしょうし、そこまで奴らが生きることもないでしょウ…】
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