家から追い出されました!?

ハル

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悪魔が私の宝物を人質にしています

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 走りついた先はマンションや住宅が立ち並ぶ場所だった。一瞬、元の場所に戻ってしまったかと思ったのだが、考えてみれば、暮らしていた場所とは反対側に向かっていたし、いつもと都内で、いや、日本で一番高い鉄塔が見える方向がいつもと逆だったのではそれはないだろう。

 はあ、はあ・・はあ。

 こんなにも呼吸を乱したのはいつぶりだろうか。
 少なくとも、ここ5年で初めてだと思う。私は中学から入った部活は全て文化部、かつ、私が通う学校はマラソンはあっても、運動部でなければ別にタイムを気にする必要がなかった。だから、走り終わった後も数回深呼吸すれば通常運転に戻った。
 それに、こんない顎から汗が落ちるということもなかった。いや、これだけは生きてきて初めての経験かもしれない。人間、ピンチになると自分の持てる潜在能力を発揮するらしい。

「あの人達、追ってこないよね。」

 後ろを振り返れば、そこは暗い道が広がっていて人気もなかった。それにいつもは少しだけ不安感を感じていたが、今はその逆で安心した。

「はあ、撒けたか。次は今日泊まる場所探さないと。どこかあるかな。」

 贅沢を言えば、ビジネスホテルなんかだとアメニティがしっかりしているのでありがたい。満喫でもたぶんバスタオルなんかは貸してくれるはず。まあ、私、スキンケアは一切しないから、ボディソープとシャンプーリンスだけあれば十分なんだけど。
 鞄から取り出したスマホの電源を入れると、間の悪いことにすでに充電が10%を切っていた。

「うわ、これなくなったら、私、詰むんだけど。」

 あまり携帯をいじらないし、バイトに入っている時は充電オフだし、毎日連絡するような友人なんていない。
そもそも、私の携帯に入っているアドレスなんて、父、母、以上だった。だから、充電も3日に1回すれば十分持った。今日帰ったら充電しようと思っていたことを今、思い出すなんて、私は馬鹿だ。
 自分の馬鹿さ加減に腹が立って頭をポカポカ叩いた。それで疲れたし、何だかあほらしくなったので、とりあえず、残りの充電で行けるところまで行こうと決めた。

「グーグルさん、頼みます。」

 私は神に願うように検索をかけた。
 一番近い、ホテルまで徒歩で5分とあり、そこへ向かった。
 着いて後悔はしたんだけど、ここまで来たら入るしかなかった。いや、安さで選んだからだよね。

「カプセルホテルって大丈夫かな。」

 少し不安になりながらも受付すると、普通に通された。

 ラッキー

 しめしめと思いながら自分に割り当てられた場所に行くと、ベッドがあったので、寝るのは困らないだろう。
セキュリティ的に問題があるけれど、貴重品は持って歩くからそこもクリアだった。漫画は取られたら泣くけど、命とられるよりマシ?いや、どうだろう。少し迷う。

「とりあえず、シャワーだけしてとっとと寝よう。」

 盗られたら困る物だけ持ってシャワーをしてから1日分だけの下着と着替えだけ持ってきていたので、それに着替えた。制服ならずっと着ていても不審には思われないから、外出は制服だと決めていたし、そう考えると、後1着だけでよい気がした。
 充電器をさした携帯を見れば、すでに時刻22時を越えていた。
 しかし、時計を見て今日あったことが頭の中を巡り、

「あ、明日バイト入っていたな。行けるのかな。」

 と不安は尽きず、まったく寝られる気がしなかった。
 自分の戸籍の現状とか、学校とかバイト先ではどんな扱いになっているのか全く予想ができなかった。

「ああ、こんなことを考えていてもどうにもなんないから、漫画読もう。」

 売らずに持っている大事な私の宝たち。結局、私の手元に残ったのは漫画とバイトで稼いだお金のみだった。
 だから、なおさら、漫画は手放せなかった。
 しかし、それは正解だったようで、読み始めたら先ほどまで感じていた押しつぶされそうな不安なんてとんでいって漫画に集中していた。

 これを世間では現実逃避というのだろう。

 だが、考えてみてほしい。急に、私たちの子じゃないから、と親だと思っていた人達に放り出されたら、誰だって現実を見たくはなくなるだろう。私は絶対になる。だから、今こんな状態なんだけど。
 そうして、7巻ぐらいまで読んだところで、あれ?と思い袋の中を漁ったが、次巻が見つからなかった。

「あれ?どっかで落とした?それとも、最初から入ってなかった?いや、でも、自室を見たけど、漫画を入れていた本棚はスッカラカンだったよね。え?じゃあ、どっかで落とした?どこで。。。。」

 そこまで考えて頭を抱えた。

「ああああああああ。」

 そこで大声で叫ばなかった私を褒めてあげたい。
 落とした場所など1つしか思い浮かばなかった。あの、変な外人たちと会った場所だ。だが、あそこは何となく入った場所だったから、裏路地なんて覚えているはずもなかった。あの人たちが拾ってくれて交番に届けてくれたならラッキーだけど、それはない気がした。
 それにあの人たちの身なりもだし、あの道の暗さだと気づかない可能性の方が高かった。
 そう思うと、希望が持てた。もし、あの人たちに持って行かれているなら、それは確実に私の元には戻ってこず、シュレッター行きではないだろうか。

「はあ。まあ、学校も行かなくていいなら宿題もやらなくていいという解釈でいけば、私ってニートなんだよね。バイトは一応バイト先に行って訊いてみようかな。」

 そこまで考えたところで私の体はスリープモードに入った。


 目を覚まして充電完了している携帯の電源をオンにして時間を確認すると朝の6時だった。いつもと同じ時間に起きてしまうのは習慣になっているからだろう。起きてすぐに制服に着替えてから昨日行っていた駅付近までの道を調べた。昨日の暗さでは道を覚えることなど決してできなかっただろうから、一応地図で確認した。

「よし、とりあえず、もう少ししたらここを出てコンビニでなんか食べよう。」

 昨日はお菓子とジュースのみだったので、いつにない空腹を感じていたのだ。思わずお腹をさすった。

 朝食をおにぎりと野菜ジュースで済ませて、心当たりのある路地を1つ1つ回った。全部回るのに3時間かかり、いつの間にか昼になってバイトに行く時間まであと1時間ほどだった。ここからだと徒歩で10分ぐらいだから探せたとしてもうろうろしていて終わりそうだった。

「諦めるの、でも、あんだけ集めるのは結構苦労したんだけどな。」

 平日ということもあり、現在歩いているのはサラリーマンばかりだった。そして、それを暗い路地から見ているとため息が出た。

「どうしようかな。」

 諦めるか探すかの2択を決められないでいた。迷走してしまい、視線が下がって自然と相変わらずゴミが散らばっているアスファルトが見えた。

 トン、トン、トン

 その静かな場所にやけに大きく足音が響いた。
 他人のことなので、どうでもいいと通り過ぎるのを待ったが、その足音を出していただろう靴、とてもきれいに磨かれた元父が履くよりも光沢のある黒い靴が私の方に向いたので、驚いて思わずその靴の方を見た。
 それで後悔したのは言うまでもないだろう。
 そこには、探していた物をかざして笑みを浮かべる、昨晩に変なことを連発していた金髪碧眼美男子外人がいたんだから。目を逸らしたいのに、その持っている物が気になって目が離せなかった。

 彼は面白げにその手に持った物を左右に動かして私が目を追うのを楽しんでいるようだった。

「探し物はこれだったんでしょ?昨日、ここに落ちてたんだよ。君はまた探しに来るって思っていたから時間が空いたら寄るようにしていたんだけど、まさか、1発目で引いちゃうなんて。僕らって相性いいね。」

 何ともくさいセリフを吐くんだろうか。親指を立てて爽やかにいう彼は美形だから、そういったセリフも似合っているんだろう。他の人が言ったらドン引くところだった。
 ここで突っ込んだら、話が変な方向に行きそうだったので、ここはこちらが大人の対応で即目当ての物を返してもらうために動いた。

「こんにちは。お手数をおかけしてすみません。そちら拾っていただいてありがとうございます。そちらを渡していただけますか?」

 そのを受け取ろうと腰をかけていたガードレールから立ち上がって彼と対峙し、手を出した。すると、彼はその手に自分の手を重ねてきたのだ。しかも、なんか、掌をスッと彼の指が撫でた気がして背がゾワッとした。彼の手はそのまま私の手を握った。ソフトとハードの間ぐらいだろうか。痛くはなかったがゆるくもなかった。

「あの?」

 反応に困って彼を見ていると彼は目的物、漫画を逆の手でヒラヒラさせた。

「うーん、どうしようかな。君がこれから僕に付き合ってくれるならいいよ。」
「え?いや、私はこれからバイトなんですが。」

 まだ籍が残っているかどうかわからないけど。

 内心付け足しながら彼の提案を躱すことに使った。危険回避のためなら何でも使うのは私の流儀だ。

「そうなんだ。じゃあ、バイトは何時に終わるの?どこでバイトしてるの?ディナー一緒しよう。」
「いや、あのですね。」
「うん。」

 彼の顔がどんどん近づいてきた。

 昨日も思ったけど、なんでこの人ってこんなにパーソナルスペース狭いんだ!!

 ここでキレるわけにもいかず、戸惑った。

「じゃあ、連絡先交換しようよ。」
「はあ、まあ、いいですけど(この携帯もいつまで使えるか分からないし。宝を得るためには犠牲はつきものだよね。)」

 ジークと連絡先を交換した。嬉しそうに彼は笑っていたので、何がそんなに嬉しいんだと不思議に思った。

「じゃあ、連絡するよ。」
「待て待て、待てー。」

 彼はそのまま走り去ろうとするので、私は彼の腕を慌てて掴んだ。彼は驚いたように、だけど、すぐにまた嬉しそうに笑った。

「何?」
「その前にそれを返してほしいのですが。」
「え?対価が先だよ。褒美は後。」

 当然と言わんばかりに言われ、何も言い返せなかった。
 元々、落としたこちらが悪いので、何も言えない。それが何とも悔しかった。

「あの、夕飯付き合ったらその場で返してくださいよ。」

 しかし、念押しは忘れなかった。それに彼はあっさりと

「いいよ。」

 と頷いた。これに不気味さは感じたものの、行くしか選択はなかった。
 彼は変人で悪魔だった。容姿だけは天使なのに・・・・。
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