家から追い出されました!?

ハル

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美男子とのディナー(前編)

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 ジークとの夕食、お洒落に言うと、というか彼に連れてもらった店はディナーとしか言えなかった。
 そのお店は”Barschバルシュ"、駅周辺の騒がしさから外れた静かな住宅街、昨日とは別の場所みたい、を抜けて、少しだけ横にずれた小道沿いにひっそりとたたずんでいて、隠家的な場所だった。そして、入ると中性的な顔をしている私より頭1つ分低く黒い腰エプロンを撒いた茶髪のショートヘアの人と、ウエイターだろう肩より下ぐらいの黒い髪を1つに後ろで括っている男性が迎えてくれた。
 後者の方は私より若干目線が下がるが肩幅が広いし、顔つきは丁寧だったが男性だと直感的に分かったが前者は失礼かもしれないが、どちらとも言い難かった。
 
「いらっしゃい、ジークとお連れさん、郁美ちゃん?でよかったかな?」

 彼らに荷物を預けていると、ウエイターの人が席に案内する途中で問いかけた。

「はい、郁美といいます。」

 彼に椅子を引かれて慌てて座った。
 そんなことをされたことがなかったので思わず慌てたが、その慣れてなさを見せつけてしまい、彼にクスクスと笑われて恥ずかしくなった。

まこと、笑うな。」
「はいはい、ごめん。ジークも座って。今日コースメニューにしなかったからメニュー選んで。飲み物と前菜からね。」
「ああ、メニューを予約してなくてごめん。郁美が好きな物にしようと思っていたから。」
「いいよ。慣れてるし。美琴みことが大変かもしれないけど。」
「誠、そういうことは言わない。お客様に失礼でしょ。」

 ウエイター、誠とジークが友人だろうということは話から分かったが、彼らの言い合いに水とお手拭きを持ってきた料理担当だろう中性美人が美琴さんという女性だと、声と仕草で分かった。

「何でも頼んでください。料理によってはお時間がかかる場合もありますが、本日は貸切ですので十分ご準備できますからね。」

 あまりに見過ぎてしまったらしく、彼女ににっこりと笑顔を向けられた時は気まずくなった。それに頷くことで返してメニューを見るふりをした。
 というか、今、不穏な言葉が聞こえたような・・・・。
 まあ、気にしないでおこう。このお店、元々、大人数が入るような店の設計はされておらず、こじんまりとした様相で、カウンター席はなくテーブル席も2人掛けが2席と4人掛けが2席しかないので、貸切もよくあることなのかもしれない。知らないけど。

「とりあえず、ドリンクから選んでよ。」
「そうだな。郁美は何にする?未成年だからソフトドリンクから選んでね。別にお酒でもいいけど。」
「いえ、ソフトドリンクでオレンジジュースがいいです。16歳でお酒飲んだら脳に良くないと以前誰かが言ってました。」

 誠に催促されてメニューを開いたジークの言葉に食い気味で答えた。
 それにはジークが渋い顔をした。

「それ迷信じゃない?僕なんか14歳でお酒飲んでたよ。」
「外国と日本の習慣の差ではないでしょうか?いえ、年齢に関係なくたぶん、私お酒苦手だと思います。」
「なんで?」

 私の説明に彼は首を傾げた。可愛い仕草だけどそれが許されるのは顔が良いからだと思うよ。

「以前、缶チューハイを1口飲んだだけで記憶がないです。後で聞いたのですが、1口で缶を置いてそのまま寝てしまったそうです。」
「へえ、1口で駄目なんだ。じゃあ、に飲むのは良くないな。これからの料理が食べられなくて勿体ない。」
「いいえ、食前でも食後でもアルコールは入れませんよ。」

 彼の言葉に不安を感じたので、そこはあえて強調しておいた。アルコールが体に合わないんだから入れないのが得策に決まっている。
 ジークは少しだけ拗ねた顔をした。それを横で見ていた誠は大笑いで美琴はただただ驚いていた。

「じゃあ、オレンジジュースと僕はいつもの。あと、誠、君、笑い過ぎだから。」
「ごめんごめん。こんなお前見たの初めてだからおかしくって。ハハッ。」

 まだ笑いが止まらないようで、声を震わせながらもカウンターの方に向かった。ドリンクは彼担当のようだ。

「では、ドリンクの間、前菜でも決めていただけると助かります。」
「はい。」
「今日はやけに急かすね、。」

 まるで、猫のあだ名のようにジークが呼んだので驚いた。
 そんな私に気付いた彼は嫌そうに顔を顰める美琴を素知らぬふりをしてこちらに笑みを向けた。

「彼女、誠の奥さんなんだけど、結婚するまで誠が彼女のことをそう呼んでいたんだ。だから、僕は結婚した今でもそう呼んでいるんだよ。誠は彼女のことをよく猫に似ているって言ってたね。」
「その呼び方は何度も言っているではないですか、ジーク様。」
「いや、気に入っているし、こっちが慣れてしまっているから無理かな。郁美、前菜何にする?特に好き嫌いがないなら、お任せの盛り合わせもできるよ。」
「アレルギーなどもないのでお任せしたいです。頼めますか?」
「はい、かしこまりました。」

 渋々ながら美琴は厨房の方に向かった。
 彼女と入れ違いでドリンクの準備をした誠が戻って来た。

「はい、オレンジジュースと彼女に合わせてノンアルコールシャンパンにしたよ。」

 きれいな高さのあるグラスに入れられたオレンジジュースはジュースなのにいつもと違う飲み物に見えた。
 それに思わず、わあっと歓声を上げてしまった。

「喜んでもらえてよかった。」
「はい、ありがとうございます。ジークさんの方は泡がきれいですね。」

 私の反応を見て誠は嬉しそうにしていた。
 彼が持ってきたもう1つのグラスは泡が上に上がって消えてを繰り返して幻想的だった。

「ノンアルコールだから飲めるんじゃない?」
「ああ、私、炭酸も苦手なので。」
「そうなんだ。甘いお酒もあるから次はそれを試してみよう。缶チューハイ?のように悪酔いはしないかもしれないよ。」
「まあ、機会があれば。」

 ジークはどうしても私にお酒を飲ませたいようだった。だが、次と言ったのは彼の方なので、今回は見送られたようだった。その次の機会はないと思っているから安請け合いをした。今回のこれだって、元をたどれば漫画を返してもらうためだけに付き合っているようなものだった。

「じゃあ、乾杯。」

 彼に音頭を取られグラスを向けられたので、それにカチンと軽く自分のグラスを合わせた。

「美味しい。」
「普通のオレンジジュースだよ。」

 誠は私の感想をおかしそうに笑った。

「ジークさん、約束の物、返してください。」
「いきなりだね。そんなに急がなくてもいいと思うんだけど。」
「後だと忘れそうなので。」
「チッ、分かったよ。抜かりないね。」

 彼、舌打ちしたよ。やっぱりそういう心つもりだったんだ。危なかった。
 内心安堵して、もらった漫画を確認して

「すみません、これ、私の鞄にいれておいてください。」
「うん、いいよ。けど、これ何?」
「え?漫画ですけど。」

 誠に漫画を渡すと彼は意味が分からないという顔をして尋ねてきたので正直に答えると苦笑された。

「いや、それは分かるんだけど、さっきの話の流れからしてこれが見返りみたいに聞こえたから。え?ジークってば
高校生から物を盗んだの?とうとう、犯罪に手を染めちゃった系?」
「誠、口には気を付けて。僕はそんなことをしないし、犯罪なんて犯さないよ。ただ、彼女が落とした物を拾って、そのお礼にディナー付き合ってってなったんだ。」
「ホッ、なんだ、びっくりしたよ。もし、窃盗なら電話しないといけなかったから。」
「誰に?」
「もちろん、110番に。」

 それにはシーンと静まり返った。ジークは何も返さず飲み物を飲み、私もそれに合わせた。
 至極真っ当なことを言っているが、なんと反応していいか分からなかった。
 誠は漫画を私の鞄に入れるのに荷物入れの方に向かった。

「郁美、あいつのことは気にしないで。」
「仲が良いんですね。」

 初見で変な人だったジーク、今でもその印象はますます確信を得ているが、それでも、これだけ気を許せる相手がいたことに驚いた。

「まあね。僕は飛び級で向こうも若干飛び級で同じ経済スクールに通っていたから。」
「へえ、そうなんですか。じゃあ、お2人ともMBA取得されているんですね。」
「よく知っているね。」
「ま、資格は結構調べたりしましたから。海外行かないと取りにくい資格も一応。」
「そうなんだ。海外に興味あるの?」
「いいえ、特には。英語も苦手ですし。学校のテストも話すのも苦手で壊滅的ですね。最近はこちらに来る外国人でも日本語とボディランゲージで何とか通じますから別に不便とも言えないんですけど。」

 説明すると、彼は思い出し笑いをした。

「あの時の君の手は酷かったよ。中指立てるものだから、面白くってね。SPの人達は殺気立つしリオウは驚いて固まるし、もう、あの雰囲気は今思い出してもお腹壊れそうだよ。」
「そうですか。お気に召したようで何よりです。」

 あの時はテンパっていたってのもあるし、どの指立てていいか分からなかったのもあるけど、自然と中指が経ってしまったんだ。後で考えてあの場で袋叩きにあわずにすんで安堵した。

「そんな風に拗ねないでよ。可愛いな。ところで、バイト終わるの早かったね。」
「まあ、そうですね。早くおわったのでゆっくりご飯が食べられます。」

 一応、ラッキーっていう振りをした。そうでないと、現状を知られたらまずいことになりそうだ。

「そうなんだ。お腹いっぱい食べてよ。」
「はい、ありがとうございます。」
「はい、お2人ともお待ちかねの料理が来たよ。」

 ここまで来たら、最後の晩餐と思って味わうことにした。明日からの活力のために。
 前菜が誠の手によって運ばれてきた。宝石をちりばめたように大きなお皿に固まりになって盛られた5種類の色とりどりの前菜に目が奪われたのは言うまでもない。
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