家から追い出されました!?

ハル

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美男子とのディナー(後編)

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 ゲームでいうところの、横にいるボスと前方にいる裏ボス位置にいるだろう彼らの方を見なくていいように、私は味わうのも忘れて存在感のある肉を夢中で食べた。
 味は美味しかったと思うのだが、それよりも意識を逸らしたい気持ちの方が先走ってしまい、せっかくの料理の味を感知する脳の容量が無かったんだ。今後、おそらく一生食べられないだろう肉が勿体なかった。
 そして、私のお腹の容量の小ささが恨めしかった。すでに切り分けられたお肉のたった3切れ、全体の肉の5分の1ぐらいでお腹はもう入らないと言ってきたのだ。これ以上食べると、胃に納まりきらないのだろう、そんな予感をするほどにお腹が限界まで張っているのは制服のスカートのウエストだけで分かった。
 おそらく、今立ったら妊娠していると勘違いされるぐらいの自身はあった。体の線が細く見えるからか、お腹が出るのはすぐに分かってしまうので、体にフィットした服装は逃げてで、いつもはジャージとかスウェットとかそういったゆるい服を着ていたほどだ。一応女子なので、そういう部分は気にしていた。

「お腹は膨れましたか?」

 美琴は微笑ましそうにこちらを見て尋ねた。
 彼女がいる前では、先ほどのこちらの胃が痛くなるような話はしないだろうと高をくくった。

「はい、もうこれ以上は入らないと思います。パンとか残してしまってすみません。」

 付け合わせの焼き立ての良い匂いがするパンが鎮座する皿を見て申し訳なく思った。ジークが食べるにしても食べきれないだろう量だろう。廃棄になると思うと、心が痛くなってしまう。

「もし、よろしければ後でお持ち帰り用に詰めてお渡ししますよ。密封袋に入れれば3日は持つはずです。冷蔵庫保存してトースターなら1週間は日持ちしますから。」
「それは助かります。よろしくお願いいたします。」

 思わぬ食材ゲットに笑みが出てしまう。3日も持つなら食費がその分節約できる。

「嬉しそうだね、郁美。」
「はい、とっても嬉しいです。」
「そうなんだ。食事はパン派なの?さっきの話だとご飯派だと思っていたんだけど。おにぎりって言ってたよね。」

 ジークに痛いところを突っ込まれた。やはり、こういうところは油断できない。
 思わぬ方向からアッパーが飛んできそうで目が泳いでしまう。

「どちらも食べます。(週5でご飯だけど。)」
「そっか。フランスパンとか?」
「いいえ、普通の食パンですけど。」
「へえ。」

 隙あれば深く質問してくるジークを警戒していたが、考えてみれば受け身になっているから危ういだけで、こちらから質問攻めにすれば心臓を傷めることもないことに気付いた。
 
 天才!!さすが、自分!!
 
 自画自賛をしてしまったが、ここに、いや人生で褒められた経験なんかないので、自分で褒めることしかできないのだけど。

「ジークさんはパンですか?スイス出身と誠さんがおっしゃっていましたよね。」
「うん、生まれた時からパンばかりだよ。でも、タクミ、リオウの祖父はごくたまに日本食をご馳走してくれることがあったんだ。その時に、ご飯は食べた。大きな海苔の上にご飯を広げたら好きな具材を乗せてクルクルと巻いて食べるんだ。あれが、一番好きだった。」
「へえ、楽しそうですね。では、どちらも好きなんですね。」
「まあね。パンもご飯も両方好きだよ。でも、パンの方が馴染みがあるし、最近だとどこでも日本食は食べられるけどやっぱり日本で食べる日本食とは少し違うから、パンの方が好きかも。」
「なるほど。」

 彼の言っていることは分かる気がした。
 私もパンよりご飯を多く食べてきたからか、給食のパンの日はことさら口に違和感があるからなかなか食が進まなかった。彼はどちらも好きだと言えているが、私はどちらかと言えばご飯の方が合っていた。
 今はそんなことを言っている場合じゃない。明日の食費をどうやって浮かすか、生活をどうやって成り立たせるかということの方が大事なのだ。

「スイスってどんな国ですか?」

 興味はあまりなかったけれど、ここで質問を止めたら、また要らない質問が来そうなので先手を打った。

「え?僕のことに興味が出てきた?」
「そうでうすね(あなたに余計なことを訊かれないために必死なの。)」

 私は適当に流していたが、彼は嬉しそうに母国のことを話した。
 スイスの食事は煮込み料理が多いことやチョコレートの商品にならない欠片たちがタダでもらえること。パンは日本のように中が白いパンよりはブラウンパンが多いこと、食べ物の話は尽きないらしい。

 そして、スイスは実家だけど、海外を転々としているらしく今はほとんど帰れていないらしい。色んな仕事をしているから1年ずっと忙しいけれど、それでもクリスマスだけは帰っているらしい。
 今回の日本に来た理由も仕事の一環で家の事業の手伝いのためにやって来たようだった。
 なんと、大それた子供のお手伝いなんだろうか。
 いや、表現的に異なるかもしれないけれど、彼の言い方がそんな感じだった。

「私と4つしか変わらないのに、働いているなんてすごいですね。」
「ありがとう。そんなに褒められると悪い気しないね。」
「いえ、そんなには褒めてませんが、感心します。私も今から働きたい。」
「働きたいの?」

 小声で出た心の声をジークが拾ってしまった。
 いや、これは本音で切実な願いだった。
 ジークは首を傾げていた。それはそうだろう。私、バイトしていることになっているからね。
 この時、しまった、としか思えなかった。

「バイトしているのに。」
「学校サボってまでね。」

 要らない付属情報を面白そうに誠がジークの後に付け足した。

 要らんことをしてくれるね!あんたの方はボスではなく参謀に見えてくる。
 
 私は誠の方をキッと睨みつけたが、彼には効果がないらしい。向こうの方が大人だということだろう。
 初めて人を睨みつけたので顔が疲れてしまった。
 そして、嘘をつき続けるのにも限界が出てきた。自分は受け流すのは得意だけど、こういうことはすぐに気持ちの方が疲れてしまうのだろう。ため息が出てしまう。

「実は、バイト辞めることになってしまって。」
「そうなんだ。そんなに落ち込まないで。雇用主を怒らせるようなことをした?」
「誠、そんな風に訊くのは失礼ですよ。」

 どこか面白がるような誠を美琴が諫めた。

 美琴さんッ、グッジョブ。

 さっきから、彼女に対する好感度は私の中で爆上がりだった。いや、だから何?って感じなんだけど。

「学校は?」
「学校はいけなくなりました。そのちょっと家庭環境が変わったと言いますか。」
「家庭環境?再婚とか?」

 ジークが確認するように、優しい口調で尋ねた。その優しさが今の私には複雑な感情を抱かせた。

 嬉しいけど、どこか何というか妬ましい。
 彼はきっと良い家族に恵まれている人で、思い通りの人生を歩んでいる人だろうから。
 一瞬で何もかも失くした自分とは違うから。
 そんな自分勝手な理由で生まれた感情だった。
 それを抱く自分に対して落胆した。

「いいえ、その、今まで育ててもらった両親は本当の親ではないことが分かりました。それで、本当の子供が見つかったから捨てられました。今は親がおらず保証人になってくれる人もいないので、バイトも継続できなくなりまして、おそらく、学校もすでに退学扱いになっているんだろうな、と思います。」
「「「・・・・・・。」」」

 大方の流れを語ると、3人は押し黙った。その沈黙が怖くて顔を上げられず、水が入ったグラスの持ち手部分を指で遊んだ。
 今まで優しくしてくれた彼らの態度が変わるのを恐れていた。同情されるのも突き放されるのもどちらも私にとっては歓迎できないのだ。今まで、手続きなどの自分でできることは自分でしてきたし、3者面談なんかも親、専業主婦のはずの母も何かと予定を作って結局私は1人で決めたようなものだった。
 だからといって、彼らは普段日常の中では優しくしてくれたし、テストの結果なんかは聞いてくれてはいたが、それも自分たちの体裁を気にしていたのかもしれない。
 そんな中で、ほとんど他人を頼らずに生活していた私はどっちも到底受け入れられることはできないだろう。
 沈黙の中、私はそんなことを考えていた。

「よし、明日から郁美ちゃんはここで働けばいいよ。」
「そうですね。誠に同意見ですよ。私も今そう言おうと思っていたところです。」
「え?」

 にこやかな顔で誠が提案してそれに美琴が乗っていた。
 意外と気が合うんだな。この2人。いや、夫婦なんだから以心伝心があっても不思議じゃない。
 それよりも、2人の急な提案に私は混乱した。
 そして、さらに、ジークが声を上げた。

「いやいや、待って。僕が彼女を雇うよ。こんなところで郁美のような美人が働いていたら、いろんな客に言い寄られるだろう。それは心配だ。」
「おいおい、ここに来る客をなんだと思っているんだ?」
「こんな場所に来るのはたいてい独身だろう?」
「まあ、貸切にするとき以外はそうかもしれないけどね。」

 ジークの言葉は明らかに2人に失礼だろうし、私に対する評価が異常に高いのはなぜだろう?
 そして、最後は誠がジークの言葉を認める形になっていた。
 私の評価に誰も突っ込まない・・・・・何で?

 顔がおかしくなっていたのだろうか。彼らはこちらに気付くと一斉に首を傾げた。
 だから、その仕草は大人がしたらあざとく見えるよ。と教えてあげたい。

「どうしたの?そんな変な顔をして。」
「もしかして、ここで働くのは嫌だった?料理とかできなくても大丈夫。料理は美琴担当だから。」
「ええ、郁美さんにはぜひ誠の代役をお願いしたいです。買い物も手伝っていただけると助かります。」
「いえ、とてもありがたい話なんですが、接客業が向いていないのと、さっきのジークさんの私への評価の高さを誰も突っ込まないので、変に思っただけです。」

 やばい、慌てたせいで思ったこと全部出た気がする。胃の内容物はまだ収まっているけど。
 次は3人が、はあ?みたいな顔をした。まるで、奇想天外なことが起こって顎が外れたように口を開けたまま固まっていた。

「それ、本気で言ってる?」
「何がですか?」
「いや、自己評価低いにしても程がある。」
「え?ですが、親戚、いや、元親戚なのですが、彼らの中にはモデル経験者がほとんどで彼らによくブサイクと言われていましたから、そんなことはないはずです。それに、一度元両親に連れられてそういう審査を受けに行った時もカメラマンに『君、ちょっと、顔が。』と言われましたし。」

 ジークの言葉に反論したのだが、3人はもう言葉が出ないと言わんばかりに呆気に取られているようだった。
 そんなに変なことは言っていないはずだが、そこまで驚かれている理由が分からなかった。
 誠と美琴はコソコソと話しだし、ジークはため息を吐いた。

「まあ、その方が僕は助かる、のかな。まあ、いいか。それで、接客業が苦手って言っていたけど、バイトは何していたの?」
「清掃スタッフです。ビルとかの。」
「ああ、そうなんだ。確かに人付き合いは要らないか。じゃあ、僕のところで事務しない?ここでの仕事は全て人と話すことが好きでないとできないし。衣食住全て賄えるよ。普通にパソコンとか使える?」
「資料作成ぐらいなら。高校で習っていますから。それに、事務に関係あるかわかりませんが、簿記の資格を取る時に少しだけ経理のことは勉強しました。」
「おお、偉い。じゃあ、十分だよ。これから、僕が住んでいる場所に向かおう。部屋余っているから心配しないでね。ということで、2人とも、ここで働く話はなしになったから。」

 ジークは誇らしげにまだ話していた夫婦に宣言した。彼らは、ちぇ、と言って少し拗ねた仕草をした。
 
 トントン拍子に話が決まって、仕事が決まってしまいました。
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